第6話 中間考査の成績が悪くても許してくれますか?①
早いことに入学してから一ヶ月。
高校生活にはだいぶ慣れてきたものの、まだ不慣れなところも数多くある。
そんな中で今日は朝から中間考査。
この一ヶ月の間にどれだけ頭の中に身についたのかを試される時であり、簡単に言えばテストである。
高校で初めてのテストに緊張しながらも一限目が開始されるチャイムとともに試験官を務める体育科のいかつい男の先生が教室に入ってきた。
そして、素早く問題が表記されたプリントと解答用紙が一番前の席に配られ、それが前席から回ってくる。
先生は、全員に問題用紙と解答用紙が行き渡ったことを口頭で確認したところで、
「始めッ!」
先生の合図とともに静寂の中、シャーペンが紙の上を走る音だけが響き渡った。
☆
中間考査が終わった放課後。
クラスメイトたちはそれぞれ帰りの支度を済ませると、そそくさと教室から出ていく。
俺も同じくしてカバンを取り出すと、その中に筆記用具やら教科書類をしまう作業を行なっていた。
「今日は疲れたなぁ〜……」
後ろの席から声をかけられた。
「そうだな。それで豊はテストどうだったんだ?」
俺は振り向きもせずに作業をこなしながらそう尋ねる。
「あー。普通にダメだったわ。たぶんだけど、俺終わった」
「だろうな。なんとなく察しはついてた」
「そういう春樹はどうだったんだよ?」
「俺か? 別に悪くもなければ良くもないってとこだな。少なくとも赤点は回避しているはずだ」
「マジかよ?! 春樹って意外と頭良かったんだな!」
驚かれた上に意外って……失礼極まりないな。
とはいえ、テストの点数が平均点ぐらいではまったくもってダメだ。この高校は何気に偏差値がまぁまぁ高い。そのため俺より頭がいいやつはたくさんいるし、例え平均点くらいを取ったとしても学年順位で言えば下の上くらいだろう。
俺もまだまだ勉強しなくちゃならないということか……。
「お兄ちゃん! 今日は二人で帰りませんか?」
二人で会話をしている時に、準備を終えたらしい奈々が俺のもとに近寄ってきた。
豊は奈々に対して遠慮なく話しかける。
「おっ! 汐留さんはテストどうだった?」
「お兄ちゃん準備まだですか?」
奈々はなぜかスルー。聞こえてなかったのか? まぁ、別に気にするような内容でもないし、いいか。
「あ、あともう少しだからちょっと待て……って、奈々。いつも一緒に帰る子たちはどうしたんだ?」
「先に帰ってもらいました。今日はお兄ちゃんと一緒に帰りたいなと思いまして」
「ね、ねぇ! なんで二人とも無視をするのかな?」
「それでお兄ちゃんはテストどうでしたか?」
「んー……悪くもなければ良くもないって感じかな?」
「要するに普通だったってことなんですよね! さすが私のお兄ちゃんですっ!」
「はるきー? おーい。話聞いてるかー? 俺も会話に混ぜてくれよー」
「まぁさすがというほどでもないけど……奈々はどうだったんだ?」
「私は結構いい点数が取れるんじゃないかと思います」
「つまり手応えを感じてるということか?」
「はいっ! なので一週間後のテスト返しがとても楽しみですっ!」
「そうか……俺も楽しみだなぁ。奈々が何点取れるか」
「そんなに高くはないと思いますよ? でも一応期待はしておいてくださいね! そちらの方が私としてもやる気が出ますので」
「わかった。じゃあ、そろそろ帰るか? 準備終わったし」
「はいっ! お兄ちゃん」
「ちょ、ちょっとマジで帰んの? 俺の話も少しは聞いて! ね?」
俺は席から立ち上がると、奈々とともに教室を出た。
☆
それから一週間が過ぎ、今日は朝の一限目からテスト返しだった。
テストを返されたクラスメイトたちはそれぞれ点数を見るや否や喜怒哀楽な表情を見せつつ、自分の席へと戻っていく。
俺ももちろん例外ではなく、自分のテスト結果を見ては喜びもしたし、少し残念な気分にもなったりした。
一方で奈々はどうなんだろうかと思い、横目でちらりと見ると、顔が結構ニヤけている。あの様子だと点数は良かったようだ。
そして一応ではあるが、豊の様子も見てみる。
テストを教科担任から受け取って戻ってきた豊の顔は想像以上に死んでいた。
もはや魂そのものが抜け落ちたんじゃないかってくらいに白くなり、目は虚ろになっている。
今の彼にはどの言葉も通用しないだろう。慰めの一言でもかけてやろうかとも思ったが……ここは時間に任せた方がいいかもしれない。
そんなこんなで昼休み、午後の授業があっという間に過ぎさり、放課後を迎えた。
「お兄ちゃん!」
カバンの中に筆記用具類を片付けている最中に解答用紙を手に持った奈々がこちらに向かってきた。
「おっ! テストどうだったか?」
「うん! もうバッチリですよ!」
そう言って、奈々は手に持っていた解答用紙を俺に手渡す。
奈々のことだからきっと成績もいいに違いない。大体、美少女はなぜか頭がいい傾向にあるからな。
どれどれ……。
「……ん? んん!?」
俺の見間違いだろうか……。
点数が記載されたところを見る限りでは数字がどれも一桁にしか見えない。
何度か目を擦り、まじまじと見つめるも変わらずの一桁。
…………。
――俺の目が悪い……ってことじゃないよね? これ……。
俺は確認の意味も込めて奈々に聞いてみることにした。
「奈々……俺にはテストの点数がどれも一桁にしか見えないんだけど?」
そう言うと、奈々は「何言ってるのですか?」みたいな顔をして首を傾げる。
「そうですけど……私、こんな点数取ったの初めてなんです」
「それは……どっちの初めてなんだ? 悪い意味の方であって欲しいけど……」
奈々の表情を見る限りではどうしても悪い意味のようではなさそうだ。
もし悪い方であれば、後ろに今なお魂が抜け、ぼーっとしている豊のようになるからな。
「私、学校生活の中で初めてゼロ点以外の点数をとることができたんです! 凄くないですか!?」
奈々は瞳をキラキラさせ、まるで犬のように褒めてと言わんばかりに俺の胸の中に飛び込んでくる。
その光景にクラス中がざわめき出す。
それもそうだよな。だって、俺と奈々は兄妹だし、いくら仲が良くたって高校生にもなれば抱きついたりしない。もう付き合ってるんじゃね? て、思われても仕方がないくらいだ。
俺は慌てて奈々を引き剥がす。
「ひ、ひとまずは俺から離れろ」
「なっ?! 今の少し酷くないですか! 頑張った妹を少しは褒めてあげようという気持ちはないんですか!?」
「ないよ! そもそも褒めるような点数でもないだろうが! とりあえずここだと話しづらいから一旦こっちに来い!」
俺は奈々の腕を掴むと、解答用紙を握り締めながら教室を出た。
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