第4話 お兄ちゃんの家にお泊まりしてはいけませんか?②
外も暗闇に満ちた頃。
帰りが遅い親父にメールで連絡を取ると、今日はホテルに泊まるということだった。
――どんだけ顔を合わせたくないんだよ……。
たしかに親父と奈々の会話はほとんどなかったし、気まずい空気だったけれども、親としてその判断はどうなのだろうか? もう少し和ませようとしないのか?
いろいろと思うところはあるにせよ、親父がそう言って帰ってこない以上どうしようもない。一応帰ってくるようメールで返信すると、俺は布団の準備に取り掛かった。
和室の押し入れから来客用の布団を取り出すと、その場に敷く。
「えー! お兄ちゃんと同じ部屋じゃないんですか?!」
部屋着に着替えた奈々がなぜか驚いた表情を見せる。
半袖Tシャツにショートパンツとかなりラフな格好。ただ、前屈みになると、胸ちらをするから少し目のやり場に困るところではあるが……。
「当たり前だ。俺たちはもう高校生だし、一緒の部屋で寝ていい年頃じゃない。それくらいわかってるだろ?」
「わかりません! だからお兄ちゃんと同じベッドで寝ます!」
奈々はそう言うと、和室から飛び出して行った。
「お、おい! 待てって!」
俺は奈々の後を追って、自室へと入る。
奈々は俺のベッドの中に潜り込んで、亀みたいに布団の隙間から頭だけを覗かせていた。
「いやです。私はお兄ちゃんと一緒に寝たいんです」
「わがまま言わない! 奈々がどれだけ俺のことが好きなのかはわかったけど、だからと言って一緒に寝るのは違う。いいからベッドから出なさい」
「いやですっ! 私、絶対にここから出ませんからっ!」
そう言うと、奈々は頭を引っ込めて布団の中へと潜り込んでしまった。
こうなってしまえば、最終手段……。布団を無理やりにでも剥ぐしかない……。
と、思ったのだが……いざ剥ごうとしても力が強すぎてムリッ! 思わずため息が漏れてしまう。
「じゃあ、もう俺は和室で寝るからな? そろそろ眠いし……おやすみ」
俺は自室の明かりを消すと、ドアを閉めて、和室の方へと向かった。
久しぶりの敷布団だけど……まぁたまにはいいか。
布団の中に潜り込んだ瞬間、俺はすぐにうとうととし始め、数分後には寝息を立てていた。
☆
それから数時間後……。
俺はある違和感に気がつき、目を覚ましてしまう。
背中越しだから実際はどうなのかわからないけど、ほぼ確実に誰かが寝ている。
しかもちょくちょく当たる足の部分とかめちゃくちゃぷにぷにで柔らかいし……絶対に酔っ払った親父でないことはたしかだ。
となると、残る人物はこの家に一人しかいないわけで……恐る恐るゆっくりと寝返りを打つ。
すると、そこにいたのはすやすやと気持ちよさそうに寝ている奈々だった。
――距離が近いせいか、奈々の熱い吐息がかかり、思わずどきどきとしてしまう。
俺が寝ているときにでも忍び込んだのだろうか……。
だんだんと目が暗闇に慣れていき、それと同時に目の前の視野が拓けてくる。
こうして間近に奈々の顔を見ると、本当に綺麗だ。こんな子が俺の妹だなんて……もったいなさすぎる。
「……グヘ♡」
「……」
奈々の顔が一瞬ニヤけたように見えたのは気のせいだろうか? それに幻聴らしき音も聞こえたような……。
俺はたしかめるつもりで奈々の頬をつんつんと突いてみる。
「……グヘヘ♡」
「……奈々。起きてるだろ?」
「……起きてません。私はぐっすり眠ってます……グヘヘ♡」
「寝てる奴が質問に応答しないだろ。それにさっきから顔がニヤけてるぞ」
「これは寝言です。それにニヤけてません……グへ、グヘヘ♡」
「どこが寝言だよ! ニヤけてないって言いつつ、グヘヘって言いながらニヤけてんじゃねーかよ!」
俺は我慢できず、上体を起こした。
「お兄ちゃんどうしたんですか?」
奈々がようやく寝たフリをやめて、状態を起こした。
「どうしたも何も……まず、なんで奈々がここにいるんだ?」
「なんでってどういう意味ですか?」
「どういう意味ってそのままのだよ。俺と奈々は別々の部屋で寝てたはずだろ? それなのになぜ奈々がここにいる?」
「……お兄ちゃんが寝ている間に忍び込んだから?」
「……そうだろうな」
むしろそれ以外にない。
「あ、でもお兄ちゃん安心してください! まだ初体験は済ませてませんから!」
「……はい?」
「本当はお兄ちゃんが寝ている隙を見て、やっちゃおうかなと思ってたんですけど、やはり起きてる時の方が愛を感じるじゃないですか?」
「いやいや待て。奈々が何を言っているのかさっぱり理解できないんだが?」
「初体験の意味ですか? 男と女が初めて性行為をするということですけど……」
「な、何言ってんだよ! そういう辞書的なことを言ってるんじゃない!」
奈々はきょとんとした顔をして首を傾げる。
「あのな、奈々。俺と奈々は兄妹だろ?」
「そうですけど、それ以前に男と女じゃないですか?」
「いや、逆だろ。男と女以前に兄妹だろ。兄妹ということは俺と奈々は血がつながっている。わかるな?」
「わかります。切っても切れない縁みたいなものですよね? ですが、人間は愛を求める生き物です。恋人にしろ、結婚にしろ愛がなければ成り立たないものもたくさんあります。それが例え、実の兄妹だとしてもです」
「そう言われるとそうかもしれないけど、何か間違ってない? 兄妹愛ならともかくとして、奈々が今俺に対して抱いている感情はなんだ?」
「純粋なる愛ですっ! 海よりも深い愛っ! 実のお兄ちゃんだろうが、私の気持ちは変わりませんし諦めることもしませんっ! なので、私の愛を受け止めてくださいお兄ちゃん!」
「それはムリだ! そもそも法律でも兄妹同士での結婚は認められてないんだぞ?」
「それでも私は構いません。内縁の妻として夫であるお兄ちゃんを末長く支えながら、私たちの愛の結晶である子どもを共に育てましょ! ということで、今から子作りしませんか?」
「アホかッ!」
俺は和室から飛び出すと、自室に戻り、ドアの鍵を閉めた。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん?! その反応酷くないですか? ね? ね!」
ドアを叩く音と共に奈々の声が部屋中に響き渡る。
俺は大きなため息をつきつつ、部屋の明かりをつけると、カバンの中から宿題を取り出す。
そういえばまったくやってなかったし、この機会にすべて終わらせようかな。どうせ当分の間はうるさくて眠れなさそうだし。
「ちょっとお兄ちゃんってばあ! ねぇ! 出てこんかあああああ!」
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