第3話 お兄ちゃんはシスコンであるべきだと思いませんか?②
「それにしてもこうして二人きりで外を歩くのは久しぶりですね」
「まぁ、そうだな」
公園を出た俺たちは町内を歩いていた。
一緒に暮らしていた頃とは街自体が違うものの、何と言うか……表現が難しい懐かしさがある。
またこうして妹と一緒に街を出歩く日が来るとは、一年前の俺からしてみれば想像すらできなかっただろう。
俺の歩調に合わせてとことこと隣を歩いている奈々を見ていると、小さい頃の記憶がどんどんと蘇ってくる。
「どう、したんですか? 私の顔に何かついてますか?」
俺の視線に気がついた奈々がきょとんとした顔で傾げる。
「い、いや何でもない。なんかごめんな」
「いえ、私は別に構いませんし、なんならお兄ちゃんにずっと見てもらいたいくらいですけど?」
「それは丁重にお断りさせてもらうよ。それでこれからどうするんだ? 行くところでもあるのか?」
「んー……特にないんですよね。ママからいきなり言われたので……」
「そ、そうか……。じゃあ、あと二時間……一旦解散するか?」
「それはダメですっ! 私はお兄ちゃんと一秒でも長くいたいんで」
そう言って、奈々は俺の腕を胸に押し付けるようにして抱きしめる。
――おお、柔けえ〜。
胸の感触が腕からでもわかる。ふにふにとしていて、力を一切加えていないのに沈み込む感じ……いかんいかん。気をしっかり保て!
「わ、わかったからとりあえず腕、解放してくれないか? 暑苦しいんだけど……」
「え、あ、ごめんなさい……あ、そうだ!」
奈々は腕を解放した後、俺の前に飛び出る。
「この街に来てまだあまり経ってないですよね?」
「あ、ああ、そうだけど……」
「じゃあ、今から案内という形で町内を回ってみませんか?」
「まぁ案内してくれるなら……」
「決まりですね!」
☆
ひと通り案内が終わった頃にはもう午後を過ぎていた。
――もうすぐでお母さんに会える……。
そう思ってしまうと、久しぶりすぎてどんな顔をして会えばいいのかわからなくなってしまう。
「お兄ちゃんそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「え?」
隣を歩いている奈々に心を見透かされたようなことを言われ、俺は少し驚いてしまった。
奈々はそんな俺を見つめながら優しく微笑みかける。
「昔のように接すれば大丈夫ですよ。ママは昔から容姿以外はほとんど変わってませんから」
「そ、そうか?」
「はい、だから安心して昔と変わらない接し方をしてあげてください。その方がママも安心すると思います」
「わ、わかった……」
そうは言ってみたものの昔のようにできるだろうか……。
というか、俺って昔どんなふうに接してたっけ? もう両親が離婚してから八年も経過しているせいか、記憶が定かじゃない。
それにやっぱり気まずさがついてくる。
「あ、もうすぐで家に到着しますので、一応気持ちの整理とかはしておいてくださいね」
「あ、ああ……」
八年ぶりに再開するお母さん……どんな人なんだろうか。
☆
「到着しました。ここです」
閑静な住宅街の一角に奈々が住んでいる家があった。
一軒家の二階建てで庭が付いている……。
来る途中で少し話には聞いていたけど、再婚もしていないのにこんな立派な家に住んで……正直、俺と親父が住んでいるマンションよりいい。というか、比べ物にならない。
奈々はすぐに玄関ドアを開けると、俺を手招きする。
「ママー! 帰ったよー!」
奈々が家の中に向かってそう叫ぶや否やすぐに足音が聞こえ、玄関先の方へと向かってきた。
「おかえり奈々……久しぶりだね春樹くん」
エプロンをしたお母さんは俺の存在に気がつくと、柔らかい表情をして出迎えてくれた。
茶髪の少しカールが効いたロングにキリッとした目。今年高校生にもなった子どもを産んで育てている大人の女性ではあるけれど、二十代後半にしか見えない。
「あら? 春樹くん顔が赤いけど……体調でも悪いのかしら?」
そう言って近づいてくると、俺の額に手を当ててくる。
とても冷たくて気持ちいい。思わず懐かしさを感じてしまう。
「も、もういいよお母さん。体調とか悪くないからさ」
「そう? それならいいけど……とりあえず中に入って! お腹空いたでしょ?」
「え、ちょ、ちょっと!」
俺はお母さんに手を引かれるがまま、家の中へと連れ込まれた。
そしてリビングの方へ向かうと、カレーの匂いが立ち込め、つい腹の虫が鳴ってしまう。
「あらら……うふふ」
お母さんは嬉しそうに微笑みつつ、俺の手を解放すると、キッチンの方へと向かっていく。
「少し待っててね。今から準備するから。あ、それとまだ手を洗ってなかったよね? すぐそこに洗面所があるから手を洗ってきなさい」
「う、うん……」
久しぶりすぎてか、お母さんに慣れないものの俺は手を洗いに一旦リビングから離れる。
洗面所はちょうど廊下を挟んだ真正面にあった。
俺は何気なく引き戸を開ける。
「……お、お兄ちゃん?」
「…………え?」
俺は状況が把握できないでいた。
引き戸を開けた向こう側にはパンツしか履いていない奈々のほぼ生まれた姿映っている。
こうして見ると、スタイルはいいし、胸も案外大きい。隠れ巨乳ってやつか? いや、そこまで巨乳ではないか。
そんなことを思いつつも、どんどんと頭の中で状況が整理されていく。
「も、もしかしてなんですけど、とうとう私を襲いに来たんですね! それで手始めに一緒にお風呂を……」
奈々が変な妄想をし始めた。
「い、いや俺はただ……手を洗いに来ただけで……」
「別に嘘をつかなくてもいいんですよ! ほら、お兄ちゃんも早く脱ぎましょ!」
「だ、だから違うッ! てか、いつまでその格好でいるつもりなんだよ!」
「春樹くん、遅いけどどうか――って、まぁ」
俺の戻りが遅いことに違和感でもしたのか、お母さんが洗面所まで様子を見に来てしまった。
――マズい!
この状況に気を取られすぎて足音すら気がつかなかった。
これをどう説明すれば……いや、普通にありのままを説明すればいいだけのことなんだろうけれど、それをお母さんは信じてくれるだろうか?
思春期にもなると、世の中の男子高校生は性に目覚め、性欲が強くなるとどこかで効いたことがある。
もしこのことが一般常識的ならば、今この状況はどう見ても俺が妹である奈々を襲いかかろうとしているように見えるわけで、つまるところは……俺が悪い?! いやいや、理不尽すぎるだろ!
お母さんは俺たちの様子をどのくらいか茫然と眺めたのち、ポンと手を叩く。
「ああ! そういうことね……。邪魔しちゃってごめんなさいね。私ったらもう! それじゃあ、お二人ともごゆっくりね〜。あ、お風呂場は声が響くからなるべく抑えるようにね!」
そう言うと、お母さんはニコニコしながら俺の背中をぽんっと押し、引き戸をぴしゃっと閉めてしまった。
…………………………え?
待て待て。さらに状況がわからなくなってきたんだが?!
これはどういう意味なの? ちょっと理解できないんだけど?!
「お兄ちゃん……。ママも認めてくれていることだし……ヤろ?」
むにゅん。
奈々が俺の胸におっぱいを押し付け、上目遣いで見つめてくる。
――ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいいいいいいいいいいい!
り、理性を保つんだ俺!
と、とにかくこの場から離れなければ!
俺は奈々の華奢な肩を掴み、引き剥がす。
奈々はそれに対し、少し驚いた表情を見せたものの、すぐに目をつむる。
――も、もしかして……キス、でもせがんでるのか?
桃色で艶やかでぷるぷるとゼリーみたいに柔らかそうな唇が俺の視界を支配し、惹きつける。
もうダメだ……限界点超えてしまう! らめぇえええええええええええええ!
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