第3話 お兄ちゃんはシスコンであるべきだと思いませんか?①
「ぐぬぬぬ……あれは本当に何なんですか!?」
昼休み。いつものように俺と昼食をとっていた奈々がサンドウィッチをはむはむしながら憤慨していた。
「仕方ないだろ。そう決まったことなんだし」
「仕方なくないですよ! お兄ちゃんは悔しくないんですか! せっかく委員会活動を通して兄妹でイチャイチャするチャンスがなくなったんですよ!?」
「俺は別にそのチャンスがなくてもいいと思ってたけどね。むしろ別々の委員会に配属されたことに安心感すらあるよ」
「なっ?! 冷たい! 酷すぎますっ! 本心じゃないですよね? ね! あ、もしかしてそういうプレイですか?」
「どういうプレイだよ……。まぁさっきのは本心半分、冗談半分といったところだな」
「本心あったんですか?! そこはせめて嘘でもいいから全て冗談だったって言ってほしかったです……。そうしてくれれば私、この場で全裸にだってなれます!」
「なおさら言えないわ! そもそも委員会を別々にさせられたのも奈々に原因があるからじゃないのか?」
「私にですか?」
奈々はきょとんとした顔をする。
――もしかして無自覚であんなことをしているのか?
俺は思わずため息が出てしまう。
「委員会を別々にさせられたのはな、奈々の言動としか考えられないんだよ。兄に対してはベタベタとくっついて異常なほどに距離が近いし、一人の男として見ている……そういうところで判断されたんじゃないか?」
誰だってそう思うだろう。兄に対してベタベタとくっついてくる妹を見れば、いつか超えてはならない一線に踏み込んでしまうかもしれない。そのような危機感から俺たちをあえて離した……話の筋は大方通っている。
だが、奈々は納得していないような顔をする。
「でも、そうとは思えないんですよね……」
そう言いつつ、奈々はある一人の女子生徒を横目で見つめる。
冬井雪。このクラスの学級委員長であり、各委員会決めの際に進行役をしていた女子生徒。
見た目はショートボブにジト目気味。表情は常に硬く、見る限りでは友だちなどいなさそう。現に今も一人で弁当を食べているし。
「奈々が冬井さんの何を感じ取ったのかは知らないけど、恐らく真面目っぽい感じからして外れてると思うぞ?」
「いやいや、そんなことないですよお兄ちゃん。真面目っぽい女子こそ裏に何か秘密があるというものなんですよ」
奈々がウッフンと胸を反らし、ドヤる。
俺はそれに対し、少しイラッとしながらも何とか抑えた。
まぁ女子という生き物は男子にとって理解しがたいようなところもある。奈々の言っていることにも全否定はできないかもしれない。
「あ、そうだ。お兄ちゃん、今度の土曜日空いてますか?」
「ん? 空いてるけど……何かあるのか?」
「はい、ママが遊びに来てって言ってたんですけど……」
「お、お母さんが?! 何で急に……」
「それはわからないですけど、久しぶりに会いたいんじゃないんですかね? やっぱり自分の子どもなわけですし……。それよりお兄ちゃん。お義母さんはまだ早いですよぉ〜♡」
奈々がワケのわからないことを言って、赤くなった顔を手で押さえながら照れ出す。
「一応言っておくが、俺の言ったお母さんは英語でマムの方だからな? 決してステップマザーの方じゃないから」
「……え? ウソ、ですよね……?」
奈々は手に持っていたサンドウィッチをランチボックスに落とす。
「なんでショックを受けたような顔をしているのかは謎だけど、実母に対してお義母さんとかおかしいだろ?」
「じゃ、じゃあ婚約の話は? あれってウソだったの?」
「ウソも何もしてないだろ……」
「いいえ、たしかにしましたよ。お兄ちゃん覚えてないんですか? 私たちが小学校に上がる前の頃、公園でプロポーズしてくれたじゃないですか」
まったくもって身に覚えがねぇ……。
「ごめん、まったくだ。けど、それは小さい頃の話だろ? 現実的な話じゃないし、そんなの本気で信じる方がおかしいだろ」
「どこがおかしいんですか!? プロポーズということに関しては年齢など関係ありませんし、私はピュアなんですっ!」
「自分でピュアって言うかよ……。とにかく、土曜日会いには行くけど、そういう婚約とかそっち方面の話はしないからな! いいな?」
「ちぇ……ママは結婚してもいいって言ってたのに……」
「今なんか言ったか?」
「いいえ、何も言ってません!」
奈々はそう言うと、やけくそのようにサンドウィッチにかぶりついた。
☆
土曜日の午前十時前。
俺は事前に待ち合わせ場所として指定していたある公園の噴水前にいた。
やはりこの公園内では一番目立つからなのか、噴水前には数名の若い男女がスマホを片手にそわそわとしている。服装から見てもこれからデートなんだなぁとひと目でわかった。クソッ。リア充爆発しろ!
そう思いつつ、俺も時間を確認しようとスマホを取り出す。
時間帯的にももうそろそろ来ていてもおかしくない頃だ。
「お兄ちゃ〜ん!」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その方向に視線を向けると、ピンクの半袖Tシャツにデニム柄のミニスカートと少し子どもっぽい服装をして、こちらに向かって手を振りながら小走りしている。
「待たせてしまってごめんなさい」
奈々は俺のもとにたどり着くと、軽く頭を下げた。
「いや、別にそこまで待ってないし、気にしなくてもいいよ」
「ほ、本当ですか? 私に気を遣ってたりしてないですよね? お兄ちゃんを待たせるなど、妹としてお恥ずかしい限りです……」
「べ、別に恥じることなんてないんじゃないかな?」
本当にこの子、将来大丈夫だろうかとつい苦笑してしまった。
「それよりもなんだけどさ、そのTシャツ……」
「あ、これですか? これ特注なんですよね〜」
そうでしょうね! 真ん中に大きく『ブラコンは正義!』と書かれたものなんて一度も見たことない。
「恥ずかしくないのか……?」
「何がです?」
奈々は平然とした表情をしている。
「そのTシャツ……」
「全然ですけど? むしろこうしてお兄ちゃんのことが好きと堂々と公表していることに誇らしさすら感じます!」
「そ、そうか……」
どうかしている……。
これに対してお母さんは何も思わなかったのだろうか?
「あ、ちなみに一応お兄ちゃんの分もありますよ?」
「え? 俺の分?」
「はい! この日のために作っておきました!」
そう言って、奈々は手に持っていた紙袋を俺に渡す。
俺は受け取ると、どういうものなのかさっそく中を見て、たしかめることにした。
「ど、どうでしょうか……? 気に入っていただけると嬉しいのですが……」
奈々が不安そうな目をしながら上目遣いで反応をたしかめてくる。
そのTシャツを取り出して、ばっと広げてみると、ブルーの柄に真ん中には大きく『シスコンは正義!』と書かれていた。
「…………」
俺の反応を見た奈々が慌てて説明をしだす。
「お、お兄ちゃんはシスコンになるべきなんです! 世の中のお兄ちゃんはみんなシスコンだって聞きますし、妹を可愛がっていると聞きます!」
「俺は奈々を可愛がっていないとでも言うのか?」
「い、いえ、決してそういうわけではないですけど、やっぱりお兄ちゃんは私に対する愛がほとんどありません! なので、それを着て堂々と俺はシスコンだ宣言をするべきだと思うんです!」
「できるかッ! そんなことすれば翌日辺りから、学校で噂されるぞ?」
「私は別に構いませんよ。むしろそうなってもらえた方が……グヘヘ♡」
奈々は何かを妄想しているのかニヤニヤとしている。
「よだれ……垂れてるぞ」
「あ、こ、これは失敬でござる」
「ござるって……。まぁとにかく俺は着ないし、シスコンにもならないからな」
「な、何でですか?! お兄ちゃんは私のことが好きじゃないんですか?!」
「好きだよ。でもその好きは兄妹としての意味だ。一人の女子としての好きではないし、今後もありえない」
ガーン……。奈々の表情はまさにそんな感じだ。
「こ、こんな可愛い妹が言い寄っているのになんで振り向いてくれないんですかっ! も、もしかして……!」
「一応言っておくが、奈々が今思っていることは否定させてもらうし、単純に法律としても引っかかる」
「お、お兄ちゃんが私のことを好きになってくれないのは法律があるからなんですね!? わかりました。じゃあ、私が総理大臣にでもなって法改正します! 兄妹間でも結婚ができるようにしますっ!」
「できねーよ。てか、したとしても世界中から反発がくるわ。ともかくだ。この話は終わりだ。早くお母さんに会いに行くぞ」
俺はため息をつきながら、なんとか強制的に話を終わらせた。
一方で奈々はまだ納得していない様子で「お兄ちゃんのバカ……」と言いつつ、ぶーくれている。
「あ、今から少し歩きませんか?」
「歩く? 何で?」
「ママが言ってたんです。部屋の片付けとかするから昼までは適当にぶらぶらしておいてって」
「別に片付けなくてもいいのに……。身内なんだから」
「まぁそうですけど、久しぶりに会うお兄ちゃんにだらしないところを見せたくないんだと思います。なので少し付き合ってくれませんか?」
「まぁそういうことなら……」
【あとがき】
私の諸事情によりご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
そして、またこちらの作品のフォローをしてくださりありがとうございます。
フォローしてくださった方には本当に感謝しかありません。今後とも何卒よろしくお願いします。
また、☆などの評価も是非ともよろしくお願いします。今のところ☆150目指してますが…まだまだ遠い(苦笑)
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