第2話 部活は一緒じゃなきゃいけないですか?②
帰りの準備が済んだところで俺と豊は教室を出て、その部活が行われているらしい特別棟二階の空き教室へと向かった。
その教室には男子三名と女子一名がいて、ちょうどドラムや電子ピアノなどの楽器類の調整が行われている。
外見から見て、恐らく……というか、ほぼ間違いないとは思うが、バンド系の何かなんだろう。
「おっ? もしかして君たちが見学を希望したいと言ってた子たちかな?」
その中の一人である爽やか系の男子がこちらに向かってきた。
見た感じだとこの中のリーダー的存在なのだろうか。
「は、はい! 今日は入部を視野に見学させてもらいに来ました!」
豊が改まった態度でハキハキと言う。
「そうなんだね。それでそっちの君も同じ理由かな?」
「い、いえ、自分は付き添いで来ました」
「付き添いかぁ。でも、付き添いでも歓迎だよ。今日は思いっきり楽しんでいってね! あ、壁沿いにある椅子に座るといいよ」
そう言うと、爽やか系男子は戻っていった。
それからして何曲かに渡る演奏が始まった。
こんな間近で演奏を聴くのは初めてかもしれない。それにボーカルであるポニーテールをした女子の歌唱力が凄すぎる。どの曲も圧倒され、時間さえもつい忘れてしまうくらいだ。
気がつけば、部活が終わる三十分前。全て演奏ばかりというわけではなく、ところどころ調整も入ったりしている。
俺はそんな間を利用して、豊に話しかけてみた。
「そういえば、なんでこのバンドに入りたいって思ったんだ? 俺はてっきり野球部に入るかと思ってたんだけど……」
「もしかして俺の頭でそう判断したんじゃねーのか?」
「あ、いや……まぁ、そうだな……」
「やっぱりかー。俺って、中学までは野球やってたんだ。だからその名残というか、まだ髪が伸びきってないんだよなぁ。俺としてはバンド部に入るからには早くロン毛とか金髪にしたいんだよね〜」
「それはそれで校則に引っかかるだろ……」
「たしかに! 忘れてたわ」
豊は陽気にケラケラと笑う。
――本当にこいつ大丈夫か?
「でも、まぁ校則に引っかからないギリギリラインの髪型にはするよ。高校デビューしたいしな!」
「もう遅いだろ高校デビュー。てか、要するにバンドをしたい理由はそれなのか?」
「そうだな。バンドってしてるだけで女子にチヤホヤされるだろ? 高校だけでも女子たちにキャッキャッ言われたいじゃん! 俺はそんな夢を現実に変えるためにやるのさ!」
「豊……真面目にバンドをしてる人たちに一度土下座してこい」
「え? なんで? バンドってそもそもそのためにあるんじゃないの?!」
「……」
俺は呆れのあまり何も言うことができなかった。
こいつアホだ。バカすぎる。バンドやっていてモテるんだったら、そこらへんの男子みんなやってるわ。
けど、どういう理由で部活をやり始めるのかは人それぞれ。これも理由の一つとしてあるのだろう。サッカーやってれば、女子からモテるって小学生の時に聞いたことあるしな。結果的にはモテることはなかったけど。ソースは俺。
時間を見ればそろそろ六時前。近くのスーパーで夕飯の食材を買いに行かなくてはならないからそろそろ帰らないといけない。
「豊、俺帰るわ。この後やることがいっぱいあるからな」
「そうか……わかった。今日は付き合ってくれてサンキューな」
俺はバンド部の人たちにも挨拶を交わした後、空き教室を出た。
☆
校舎を出る間際。
俺はある視線が気になっていた。
最近いつも感じるのだが、誰かに見られているような気がしてならない。
だが、その方向にいざ振り返ってみると、誰もいないし……。
今日も視線を感じる。午後六時だというのに。
「……まぁ、気のせいだよな。いつものことだ」
奈々にいつも見られているせいで自意識過剰になっているのかもしれない。
俺は気にすることなくそのまま校門を出た。
「兄さん……」
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