第2話 部活は一緒じゃなきゃいけないですか?①

 高校に進学してから数日。

 だいぶこの日常が浸透し始め、クラス内では部活の話題で盛り上がっていた。

 やはり青春の一ページを飾るものといえば、部活動が一番に上がってくるだろう。部活動を通じて仲間関係を築き、同じ目標に向かって汗を流す。

 絵に描いたような青春をみんな求めている。

 もちろん理由はこれだけではない。他に地区大会の優勝だったり、長年続けているからというのもある。

 みんなそれぞれの理由があって、部活をやっているのだ。

 そんな俺はというと……


「お兄ちゃん。部活とか興味ないんですか?」


 昼休み。俺の席にて、妹である奈々と昼食の弁当をつついていた。

 奈々は俺の目の前に座り、サンドウィッチを可愛らしくはむはむしている。


「部活ね……。俺はあまり興味ないかな。特にやりたいやつとかなかったし」


 第一父子家庭だ。親父は仕事の関係からあまり帰ってこないということもあって、家事全般は俺がこなしている。

 正直、部活をやっているほど暇じゃない。


「そうですか。実は私もやりたいことが見つからなかったんですよね。友だちからは何かした方がいいよってアドバイスも受けたりしたんですけど……」


 奈々に友だちいたんだぁ……と、つい思ってしまった。

 というのも、毎日休み時間になるたびに俺のところに来てはベタベタとしてくるからてっきりいないものかと勝手に思い込んでいた。

 兄としてそこのところが少し心配だったが、どうやらその必要はなさそうだ。

 そのことに一安心しつつ、手作りの卵焼きを口に頬張る。


「でも、まぁお兄ちゃんがやらないのなら私も決めました。部活はやらずにお兄ちゃんのそばにずっといます!」

「いや、別に俺に合わせなくたっていいんだぞ? その友だちと一緒の部活に入るとかでもいいんじゃないか? 部活動って就職活動にもなんらかで影響してくるみたいだしさ」

「いいえ、私はやりません。お兄ちゃんがやるというのなら別ですけどね♡」

「じゃあ、仮に俺がサッカー部に入部した場合、奈々は何をするんだ?」

「それはもちろん決まってるじゃないですか! サッカー部のマネージャーです♡」

「なんでそうなるんだ?」

「それは……まぁお兄ちゃんをどんな時でもサポートできるからですよ。今のって妹的にポイント高いんじゃないですか?」

「ははは。そうだな」

「なんですかその渇いた笑い声は?! さては、お兄ちゃん! 私をバカにしてるんですね!?」

「いや、別にバカにはしてないよ」

「本当ですか!?」


 奈々は机上を思いっきり叩いたと同時に顔を近づけてくる。

 吐息がかかるくらいの至近距離。ああ……いい匂いすぎて、頭がくらくらする。

 なんとか平常心を保ちながら、平素を装う。


「本当だって。それより顔近いし、落ち着け」


 奈々は渋々と言った感じで席に着く。


「まぁ……お兄ちゃんの言うことを聞かない妹は、それはそれで失格ですので信じますけどね」


 なんか本心では信じていないみたいな言い方をされた。



 放課後。


「お兄ちゃんまたね……」

「ああ、また明日な」


 奈々は名残惜しそうな顔をしつつ、友だちと一緒に帰って行った。

 俺もこの後、家に帰ったら洗濯、掃除、夕飯のしたくなどの家事をこなさなければならない。

 母親という存在がいなくなってから随分と経ち、自分で何もかもすることにだいぶ慣れてきたけど、どれだけ大変なのかということが身をもってわかる。全国の母親たちは家事プラス子育てもあるだろうし、下手をすれば一般的なサラリーマンより忙しい。現に主婦の労働を年収に例えると、平均四百七十万円以上。人によっては一千万円近くまで上ることもあるらしい。それに比べサラリーマンの平均は四百二十万円。ほとんどの家庭ではこんなもんだろう。

 そう考えると、家の家事をしている俺に対し、毎月の小遣いが五千円……。割りに合わなさすぎる。せめて最低でも一万は欲しいところだ。

 ――今度親父が帰ってきたら直談判でもしてみよ……。


「よぉ! 元気か?」


 教科書類をカバンの中に仕舞い込んでいる最中に後ろから声をかけられた。


「なんだ……豊か」

「なんだとはなんだよ! 残念そうな顔をするんじゃねぇ!」


 豊とはここ数日で随分と仲良くなった。俺の中では現時点で唯一の友だちと呼べる存在だな。悔しいことに……。

 豊はわざとらしくゲホゲホと咳払いをする。


「春樹この後時間あるか?」

「……は?」

「部活の見学に付き合ってくれないか?」

「部活の見学? そんなの一人で行けばいいだろ?」

「そりゃあそうなんだけどよ……一人だとなんか恥ずかしいだろ? だから、入部するとかの話は別としてせめて見学だけは付き合って欲しいんだ。頼む! 友だちとして頼めるのは春樹しかいないんだ!」


 そこまで言われてしまうと、俺としても少し断りづらい。


「……わかったよ」

「本当か? サンキューな!」


 家事をする時間が結構押されてしまうが……今日ぐらいはいいだろ。どうせ家に帰ったところで今日も親父は会社泊まりだし。

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