第1話 妹のブラコン気質はそのままではいけませんか?②

 教室に戻ると、クラスメイトたちから異様な目で見られた。

 俺はその視線が気になりつつも、ひとまず自分の席へと着く。


「なぁ、妹と屋上で何してたんだ?」

「え?!」


 俺は急に声をかけられたことに驚き、後ろの席を振り返る。

 そこには坊主頭でやんちゃそうな男子が座っていた。


「あ、いきなりでわりぃな。俺、高宮豊たかみやゆたかだ。よろしくな!」


 豊はニコッと人懐っこそうな笑みを見せる。


「あ、ああ、俺は上石春樹。こちらこそよろしく」

「それで妹と屋上で何をしてたんだ? やっぱりあれか? ハメハメしてたのか?」


 豊は頬を赤らめながら、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。

 今日初めて喋ったというのになんだか砕けた感じになれるのは、豊の人柄のおかげなんだろうか。


「ハメハメってなんだよ……」


 俺は喉を潤すため、机の横にかけていたカバンの中から水筒を取り出し、お茶を口の中へと含む。


「知らないのか? 男と女が二人でやることと言えばもう定番中の定番。世間的には性行為って呼ぶ……って、何すんだよ! きたねぇなぁ……」


 思わず豊目掛けて吹き出してしまった。


「ご、ごめん……というか、今のは豊が悪いだろ! 急に変な単語を出すなよ……」

「し、仕方ないだろ。春樹と汐留さんの様子を見れば、誰だってできてるんじゃないかって思っちゃうだろうが。それに昼休みの会話丸聞こえだったぞ。なんだ羞恥プレイって? 屋上でそんなことしてたんかよ」

「してねーよ! というか、ヤった前提で話してんじゃねーよ! 誤解されるだろうが! 屋上ではただ、ベタベタくっつくのをやめてくれないかっていう話をしただけだ。いやらしい行為とかまったくもってやってない」

「本当かぁー?」


 豊がジト目で見つめてくる。


「ああ、嘘は何一つついていない。信じてくれ」


 そして、どのくらいか視線がぶつかり合う。


「よしっ。じゃあ、友人として春樹を信じよう。ただし、嘘だった場合は一発殴らせろ」

「なんでだよ」

「春樹の妹とはいえ、汐留さんは我がクラスの女神でありマドンナだからな。そんなマドンナの純血を奪ったとなれば、兄であろう……いや、むしろ兄だからこそだ。近親相姦なんてマジで許さないからなあ!」

「わ、わかったわかったから! とりあえず声がでかいし、そんなこと起きるわけないだろ。これでも人一倍は自制心あるから安心しろ」


 クラスが少しざわめきだし、俺に変な視線が集まってくる。

 俺は居心地の悪さを感じつつも、うんと咳払いをする。


「も、もうこの話は終わりだからな……」


 俺はそう言うと、視線を前に戻して、五限目の準備に取り掛かった。

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