第18話 王都動乱

 王都を襲っていたフレイムバードこと聖獣フェニックスと契約を結んだことで、問題の一つが片付いたのは間違いないと思う。

 けど、もう一つの問題の方が深刻な事態っぽいわね。


 冥府の門って何よ? 亡者が溢れ出るって何?


 フェニックスが己の役目として是正するために神域から出てきたんだから、生と死の理が崩れそうな出来事が起きようとしているのは間違いないでしょう。

 けど、そのことについて王城の中を自由に動けるであろうミュールが何も知らないっていうのは、ちょっと気になる。

 いや、そもそもの問題として、数千年単位で生きるエルフが、わざわざ死者を蘇らせるような実験やら魔法やらを研究するだろうか?

 しないような気がする。


 だとすれば、考えられるのは二つ。


 一つは、エルフ森林王国を隠れ蓑にして死霊術の研究をしてるような輩が王城内に隠れているってこと。フェニックスが王城のある巨大樹──御神木を狙っていたことから、もしそんな輩がいるならそういうことになる。


 二つ目の可能性としては、まったくの偶発的事態により、まるで死霊術のような効果を生む現象が起きてるってこと。エルフの国は歴史が長いからね、そういう禁忌に触れちゃうような〝よくないもの〟があってもおかしくない。


 そして、それが〝起きる〟のは今日か、明日か、それともしばしの猶予があるのかわからないほど切迫しているらしい。


 ……こりゃさっさと王都に戻った方が良いかもねぇ。


「ミュール、これからすぐに……どっ、どうしたの!?」


 ギョッとした。

 何故かミュールが涙をポロポロ流している。


「なんで泣いてるの? どっかぶつけて怪我でもした?」

「え……? あ、あれ?」


 あたしが声を掛けると、ミュールは自分が涙を流していることに初めて気づいたとばかりに戸惑っている。


「あ、すみません。ちょっと……調教士が聖獣と契約を交わすところを初めて目の当たりにしたので、心がびっくりしたみたいです」

「えぇ、なんでよ?」

「なんだか幻想的で……感動しちゃったみたいです。調教士って、いつもあんな感じで聖獣と契約を結ぶんですか?」

「ええ、まぁ、いつもあんな感じ」


 聖獣と調教士との契約は、彼らが担う世界の調和を保つ〝役割〟と同等、あるいは上回るほどの繋がりを築くことで成立する。

 そうすることで彼らは、自らが世界に課せられた役割を例え反故にしたとしても、契約している調教士という存在がいることで存在を維持できる……らしい。

 らしいってのは、実際に聖獣が世界の調和を保つ役割を放棄したことがないっぽいからなのよね。ハッキリと確認されたことがないの。


「けれどイリアスさん……本気なのですか?」

「え、何が?」

「世界の理に逆らい、調和を乱すことも許されている──と、そう仰ったじゃないですか。聖獣を使って、本当にそんなことをなさるおつもりですか?」

「え、しないよ?」


 なんか不穏なことを言い出すミュールに、あたしは「何言ってんの?」と言わんばかりに驚いて否定した。ケッタイなこと言い出すなぁ、もう!


「そういうことが出来るって事と、実際に起こすってのは違うでしょ。そもそも今の世の中に、あたしはなんの不満もないもの」


 この世界が誕生して、すでに何万年、何億年も経ってる訳でしょ? それまで聖獣が守ってきた規則を、まだ二十数年しか生きてないあたしの心持ち一つで変えたってさ、そんなの上手くいくわけないじゃん。

 下手すりゃドミノ倒しの如く不具合の連鎖が起きて、世界が崩壊するような事態になりかねないよ。そしたら、あたしまで死んじゃうじゃん!


「何度も言うけど、あたしの目標は苦労しない程度のお金を稼いで平穏な日々を過ごし、柔らかくて温かいベッドの上で天寿を全うすることなの。道具や技術で便利になるならともかく、世界の法則を捻じ曲げて何かやらかそうとする輩がいるなら、あたしは全力で潰すわよ」


 だからこそ、王都の御神木でフェニックスが阻止しようとしていた不穏な動きは、潰しておかなくちゃいけないと思う。


「そういうわけでミュール、あなたはフェニックスの話に心当たりがないっぽいけど、あの子が神域から出張ってきた以上、生と死や再生と破壊にまつわる、世界の理を捻じ曲げる出来事が起こる──あるいは起きている可能性があるの。さっさと戻って家探しするわよ」

「……イリアスさんがイリアスさんで良かったです……」

「え、何が?」

「なんでもないですっ! ほら、そういうことなら早く帰りますよ!」


 なんだか急に元気になったわね? ちょっとミュールの精神状態がよくわかんないわ。

 まぁ、変にうじうじグズグズしてるよりマシだから別にいっか。それよりも、早く王都に戻らないとね。


 いつものようにマスタースライムを喚んで野営の道具一式を片付けてもらい、王城に戻ることにした。


 状況がまったく読めない事態だし、さすがにフェンリルに運んでもらいたかったんだけど、ミュールも乗るのはお断りって拒否されちゃった。

 そうなったら、あたしも乗るわけにはいかないじゃん?

 仕方ないので、歩いて王都へ戻ることになった。


 それにさ、フェニックスの方も融通がきかないのよね。

 これから王都に戻るっつってんのに、あの子ったら神域に戻ってくれないのよ。王都で感じた異変を正すまでは帰れないとか言って、一緒についてきている。

 まったく、自分が散々王都で暴れたことを忘れてるのかしらね。一緒に連れ帰ったら、それはそれで騒ぎになっちゃうじゃないのよ。


 ミュールが一緒だから大丈夫だとは思うけど、説明で時間を取られるのは勘弁してもらいたいなぁ──なんて考えていた、その時。


『──ッ! 伏せろ!』


 は? と、疑問を挟む暇もない。言葉よりも行動が先だったのか、あたしとミュールはいきなりフェンリルに覆い被さられた。

 直後、青白い光線が森の中を疾走る。

 立ち並ぶ木々を貫通し、小規模な爆発を起こし、一直線に駆け抜ける。数瞬遅れて、べきべきべきっと木々が倒れてくる。近くの数本がこっちに向けて倒れてきたけど、それらはすべてフェンリルが受け止めてくれた。


「ケエェェェェェェェッ!」


 今度はなんだ!? と思ったら、フェニックスがけたたましい嘶きを上げて飛び立った。向かっていくのは光線が飛んできた方向……って、あっちって王都の方角じゃない?

 ゾワッと背筋に氷でも突っ込まれたような寒気が走った。


「フェンリル、緊急事態! すぐに王都へ向かうわよ!」

『ええい、やむを得ん。乗れぃっ!』


 ミュールも一緒にフェンリルの背中に飛び乗れば、遠慮のない全速力で駆け出した。あたしとしても、速度を落とせとは言わない。


「い、イリアスさん!」


 あたしに抱え込まれるようにして一緒にフェンリルに乗ってるミュールが、震える声で話しかけてきた。


「先程の青白い光線……あれはゴーレムの魔導粒子砲です! 間違いありません!」

「わかってる」


 そりゃもう、あんな馬鹿みたいな威力の直線攻撃なんて、ゴーレムにしかできないでしょうよ。フェニックスを迎撃しようとしてた時に見た光線と、まったく同じだったじゃない。

 あたしとしては、気になる点は一つだけ。


「ゴーレムが暴走したの?」

「そんなことはありえません!」


 おおっ、凄い勢いで否定してきたぞ。


「魔力で同期したゴーレムは、いわば所持者の分身なんです! 所持者の意思に反した行動など取れるわけがないんです!」


 つまり、ミュールのゴーレムはちゃんと制御下にあるってわけか。


「でも、他のゴーレムは?」

「他のだってそうです! もう一体はお父様のですし、残り一体は騎士団に下賜され、筆頭が制御下に置いています。お父様がゴーレムを暴れさせるわけがありませんし、騎士団が反旗を翻したとしてもお父様と私のゴーレムで即時鎮圧できます」


 でも現実問題として、森の木々をなぎ倒した光線はゴーレムの魔導粒子砲だったじゃない。それなら、ミュールも理解してないゴーレムの暴走が起きてると見て間違いないはずだわ。


「なんであれ、自分の目で確かめないとわからない……か。フェンリル、急いで!」

『振り落とされるでないぞ!』


 フェンリルがさらに加速する。進む道はあたしたちを掠めた魔導粒子砲のおかげで一直線だ。

 五分かそこらで、王都を囲む城壁が見えてきた……けど、これは……。


「な、ん……」


 ミュールが絶句する。

 防壁の中から響くのは、怒号と悲鳴。

 立ち上る煙は火事でも起きているのか、さながら戦場のようだ。

 けれど、外部から攻め込まれたわけじゃない。人々のざわめきは、王都の中心から多く聞こえてくる。


「フェンリル、上空へ!」


 あたしの指示に、フェンリルは空へ目掛けて駆け出した。

 城壁を飛び越え、そして空へ。


「キィィィィィィィィィィッ!」


 その上空にフェニックスの姿があった。怒り狂ったような嘶きを上げて、地表へ向けて炎の矢を降り注いでいる。

 そんなフェニックスが狙っているのは、御神木から次々に現れるゴーレムだ。


 その数は一〇体以上。二〇体はいないと思う。


 フェニックスは、そんな正体不明のゴーレム三体を相手に奮闘している。けど、魔導粒子砲を回避することに精一杯で、決め手を欠いているようだ。

 王家の騎士団も突如現れた謎のゴーレムを鎮圧しようと行動に移っているが、あたしも見覚えがあるゴーレムを従えていても、正体不明のゴーレムを一体相手にするのがやっとのようだ。

 そして残りの正体不明ゴーレムは、街や人々に向かって攻撃を仕掛けていた。こっちはもう、野放し状態で好き放題暴れている。


「ちょっとミュール、これどうなってんの!?」

「あれは……あのゴーレムは……間違いありません、先代たちのゴーレムです!」


 え、先代? 先代のゴーレムって言ったの、今?


「なんで動いてるの!? 所有者が死んだら動かないんじゃなかったの?」

「動きませんよ! 何度も言ったでしょう!? ゴーレムは所有者の魔力波形と同期して動かしているんです! それは変更不可ですし、個々人でまったく違うものなんです! 第三者が勝手に動かすことなんて、絶対にありえません!」

「現に動いてるじゃない!」


 ああもう、理由も原因もわからないけど、目の前で起きてる事態は放置できるものじゃないってことだけは間違いないわね。フェニックスも三体のゴーレムに襲われているし、まずはあれをなんとかしなくちゃいけない。


「フェンリル、獣装宝術レガリアを使うわよ!」

『承知!』

「ミュールは──」

「行きます!」


 安全なところに隠れててって言おうと思ったのに、ミュールったらあたしが皆まで言う前に言い切っちゃったわ……!


「いや、でも……」

「私はエルヴィン王家の第一王女です。この国難にあって祖国を、民を置いてどこへ行けと言うのですか!」


 毅然とした態度で言い切るミュールに、あたしはちょっと驚いた。

 そして、義父さんとパーティを組んでたんだなぁと今更ながらに実感した。


「わかった。そういうことなら、二手に別れよう。あたしはまず、フェニックスを襲ってるゴーレムを仕留めてから、街に溢れた残りを片付ける。あんたは騎士団と合流して、自分のゴーレムも呼んで王城の中へ。王様と合流して」

「しかし、数が──」

「あの数であたしの相手が務まると思う?」

「……今の三十倍くらいは必要ですかね……」


 あたしの軽口に、ミュールはしかし笑わず、真顔で冗談を返してきた。

 はっはっは。そんな冗談が言えるなら大丈夫かな。


「と、ともかく……行くよ!」

「はい!」


 あたしの合図でミュールはフェンリルの背中から飛び降り、飛翔魔法で騎士たちのところへ向かった。

 そしてこちらは──。


獣装宝術レガリア形態モード闇狼フェンリル!」


 ──フェンリルを身に纏い、空を蹴って一気に加速する。

 聖獣と融合すれば、その特性をまるごと使える上に、身体機能も含めてあらゆる能力が跳ね上がる。移動速度だって通常状態のフェンリルより上だ。


「うりゃあぁぁぁぁっ!」


 全力全開の飛び蹴りが、フェニックスに襲いかかっていたゴーレムの一体に炸裂した。ゴーレムの顔部分に炸裂したその一撃は、いともたやすく首を引きちぎった。

 ん? 思ったよりも柔らかいぞ?


『此奴ら……カカカ、なるほどな』


 同化しているフェンリルの声が頭の中に響く。

 なにか気づいた? 

 けど、そのことを確認するより先に、首を飛ばされたゴーレムはバタリと倒れ、動かなくなった。別に純粋な生物ってわけじゃないから、首を飛ばしても動くかと思ったけど……どうやらそうでもないっぽい?


 まぁ、構うもんですか。倒しにくいよりもずっといいわ。


 続けて、別の一体に鉤爪を立てた腕を振り抜く。

 その爪はフェンリルの爪。

 フェンリルの爪っていうことは、その権能である〝吸収〟の効果も備わっているということ。鉤爪が触れたそこから、ゴーレムは熱で溶ける綿雪のように真っ二つになって崩れ落ちた。


「もう一丁!」


 残る一体も一撃で──と思って振り返ったその先に居たのは、あたしに右腕を突き出し、今まさに魔導粒子砲を放とうとするゴーレムの姿。


「──ッ!」


 ヤバい、撃たれる!

 フェンリルの権能で消せる!?

 イケそうな気もするけど、失敗したら死ぬ。

 賭けをするには分が悪すぎる!

 それでも一か八か──。


「キュイィィィィィィィィィィッ!」


 ──やるしかない、とあたしが覚悟を決めようとしたその直前、空から降ってきた数十本にも及ぶ炎の槍が、魔導粒子砲を放とうとしたゴーレムをめった刺しにした。


 そして、爆発。


 危うく爆発に巻き込まれるところだったわ。


「フェニックス! ちょっと落ち着きなさい、危ないでしょ!」

『あれこそが世界の調和を乱すもの! 存在を許してはならない! 殲滅せねばならない!』


 なんかフェニックスの様子がおかしい。かなりの興奮状態だ。


 聖獣が役割を果たそうとする行動は、本能に根付くものって聞いたことがある。今の状態を言い換えれば、むちゃくちゃお腹が空いてて気が立ってる所に、ご馳走が差し出されたようなもの──なのかもしれない。貪るように食らいつくのは当然か。

 けど、どんなに飢えていても小汚く食い散らかすのは、あまりよくないと思うのです。


「少しは落ち着きなさい! あのゴーレムが世界の調和を乱すって、どういうことなの?」

『彼の人形は人形にあらず。さりとて人にあらず。死して生者を装い、生者でありながら偽りの肉体で動く外法の者なり!』

「えぇ……?」


 ちょっとゴメン、何言ってるのかさっぱりなんだけど……。


『生と死、創造と破壊の輪廻を崩す者は、ことごとく粉砕せねばなりません!』

「あっ……」


 ああもう、フェニックスの奴! ナゾナゾみたいなことを言うだけ言って、とっとと次のゴーレムに襲いかかっていったわ。


 あの子、全身燃えてるだけあって、カッカしやすいのかしら?


 けどまぁ、確かに今は暴れてるゴーレムをさっさと鎮圧することが優先すべきことだ。王都をこれ以上めちゃくちゃにされちゃ堪らない。

 フェニックスが先走って暴走ゴーレムに襲いかかっているので、その補佐役として立ち回れば効率よく壊していけそうね。


『我が主よ』


 そうやってゴーレムを始末していると、同化しているフェンリルがあたしの頭の中に直接話しかけてきた。


「今忙しいから、後にして!」

『此奴らのカラクリ、読めたぞ』

「え? わっ!」


 フェンリルの言葉に驚いて、危うくゴーレムの一撃をまともに食らうところだったわ。


「カラクリって、どういうこと?」


 ゴーレムの頭を叩き潰し、動かなくなったことを確認してからフェンリルに問いかけた。てかこのゴーレムども、中には明らかに金属で作られてる奴もいるってのに、どいつもこいつもかなり脆いわね。

 純粋な攻撃力ならミュールが言うように聖獣とも渡り合えるかもだけど、強度の面で言えば人とそれほど変わらない。

 とてもじゃないけど、聖獣と渡り合えるだけの性能があるとは思えない。


『此奴らは純粋なゴーレムではないぞ。別種の生物へと変貌を遂げつつあるのだ』

「だから、どういうことなのよ!?」


 新たに現れた別のゴーレムに襲われながら、あたしは声を荒らげて問いただした。

 どうやら、都市内で無差別に暴れていたゴーレムどもは、あたしとフェニックスに狙いをつけたらしい。わらわらと接近してくる気配も感じる。


『喰らって理解したわ。此奴らに蓄えられている魔力が再変換されようとしておるのだ。魔力が生命力の澱ということは、主とて存じておるな?』


 それは知っている。魔導ランタンの開発に取り抱える前にヨルから教えてもらった。

 曰く、魔力とは純度の低い生命力なのだ、と。故に、魔力というものは限りなく生命力に近いものだけど、生命力になれなかった燃料で──え?


「魔力が再変換してるって、ゴーレムに蓄えられてる魔力は先代の王族のものよね? それがまだ消えずに残ってて……再変換? まさか……嘘でしょ!?」

『そうだ』


 あたしの笑えない予想を、フェンリルが皆まで聞かずともあっさり肯定した。


『此奴らは、魔力が生命力に戻ったらかこそ勝手に動き出したのだ』

「冗談でしょ!?」

『であればマシだったのだがな』


 フェンリルはつまらなさそうに言い放つ。


『さりとて魔力は純度の低い生命力。それが完璧な生命力に再変換されることなどありえない。よしんばそれが成し遂げられたとしても、そこに魂はないのだ。言うなれば、不完全な反魂法と言ったところよ』

「なんてこと……!」



 そりゃあフェニックスがブチ切れるわけだ。

 そこに魂はなく、けれど不完全な生命力だけが残ってる。まさに死んでいるのに生者を装い、肉体はなくともゴーレムの素体がその代わりを果たしている。


 こいつらは、もうゴーレムとは呼べない。

 むしろゾンビに近い代物だ。


『よもや魔力を数万年、十数万年単位で維持し続けるとこのような変貌を遂げるとはな。思ったよりも脆いのはそのせいであろう。樹液によって魔力同位体と変貌した素材も、本来の人の姿に戻ろうとして中途半端なことになっておるわ』


 それでどのゴーレムも脆いわけか。首を飛ばすと動きが止まる理由もわかった。

 こいつら、記憶や知識はないけれど、人とはどういう形をしていて、どういうことになると死ぬ──動かなくなるのかってことを、本能的な部分で理解してるんでしょうね。

 だから、動かなくなる。それだけは幸いだったかもしれない。


「よくわかったわ」


 けど、そういう〝認識〟がどこで崩れるのかわからないのも事実。下手すれば「あれ、首が堕ちても動けるぞ」って理解すれば、腕とか足とかだけで暴れる奴も出てくるかもしれない。


「こんな気色悪いもの、とっとと殲滅しちゃいましょう」


 相手をしていたゴーレムをフェンリルの爪で縦に引き裂いて、あたしは深く息を吐く。

 生物のなり損ないとして、下手に学習するより先に殲滅すべく、あたしは迫るゴーレムモドキの群れに襲いかかった。

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