第4話  インデックスを超えるインデックス投資①

またあの夢だ。

「その剣を抜いたら、君は人間ではなくなってしまうかもしれないんだよ」

「(夢だから毎回微妙にセリフが変わっているような)」

「よく考えてから抜くんだよ」

「(だから3歳の少女によく考えろとか無理だって…このインチキやろう、顔を見せろよ)」

その時、風が強く吹き荒れる。

一瞬、ほんの一瞬。けれども確かに、男の顔が見えた。

見たことのある顔。そういえば声も――



「俺は処分しろと言ったんだ」

「いやぁ…ただのJKだし、いいんじゃないですか」

「そうだ。ただのJKだ。だからいらないと言っている」

「しかし、ここまで何年も一緒に戦ってきたんですよ」

「ああ。そいつはインデックス刀Ⅳの使い手だからだ。俺は個別銘柄選定しか興味ないかな。今ならテスラ。インデックスを合わせれば安定すると思ったが…足手まといだ」

「リスク分散の観点からも重要ですよ、個別とインデックスを併用するのは」

「とはいえこれの使うインデックスはS&P500だろ。米国指数じゃねえか。被ってんだよ、俺と。分散にならないね」

「それでも500社に分散するのと、せいぜい10社程度では分散具合が…」

「俺のポートフォリオを超えてから言いな!だいたいなぁ。お前にあーだこーだ言われる筋合いはないね。いまだにノンポジなんだろ?話にならないな」


インデックスと個別株。永遠のテーマであるが、

「【神の見えざる手(インビジブルハンド)】がいつ攻めて来るか分かりません。2番底への侵攻が始まっているとみる人もいます。今個別株とかインデックスとか、争ってる場合ではありません。力を合わせて」

「おうよ。力があれば合わせてやるさ。ないじゃねえか。いまだに史上最高値まで回復しないしよう」

「ナスダックは回復どころか、突き抜けていますが」

「ああ。だが、何度も言うがMIUの戦法ってのはS&P500にドルコスト平均法で思考停止して入金するだけだ。そんな雑魚はいらねえな」

小グマと大グマの議論は終わりが見えない。


一方MIUは、目を覚ましていた。

状況がようやく掴めてきた。

イ〇ンとかの優待・高配当株信者の攻撃を受けて、MIUは負けた。インデックスではかなわないと思ってしまったのが敗因だ。あの人たちの魂には届かない。そう思ってしまった。

一撃で負けた。今までダメージすら負ったことのないMIUだ。非常に大きな衝撃だった。


しかし、さらなる衝撃を受けたのはその後だ。

いつも穏やかで、軽口を叩いていた大クマが、米国株式市場で100年以上戦ってきた猛者だと分かった。そして――MIUにインデックス刀Ⅳを始めるように仕向けた人物…クマ物でもあったのだ。


さらに。今まさにMIUを殺そうとしている。隣の部屋で、私を殺すように小グマに命じている。

残念ながら今は対抗する手段が何もない。インデックス刀Ⅳも大クマが持っている。何より体がまだ痛む。満足に動けないだろう。

小グマの方は味方になってくれそう…だが、小グマの方が読めない。なぜ私をかばう?


米国市場が横ばいの今なら…仕掛ける準備をせねばならない。しかし、何を?


考えているうちにまた眠気が襲ってくる。まずい。今寝たら、もしかしたら二度と目覚められなくなっているかもしれない。さぁどうする?


考える間もなかった。小グマが部屋へ入ってきた。口をふさがれる。

「あれ。まだ目が覚めないのかぁ残念。これでは処分は急がなくてもよさそうだなぁ」

ここは黙って小グマが何をするのか、見定めるしかない。

「よいしょ、じゃあNASDAQ100のインデックス刀Ⅳでちょっと素振りでもしようかな…へいっ!ふいっ!」

そしてその刀をMIUに持たせた。

「大グマ、気付いてないようですね。僕はタイミング投資派なんです。レバレッジをかけます」

小声で言う。

「MIU。日本株や高配当株、いろんな銘柄を見てきた今なら分かるんじゃないかと思いますが。インデックスは強い。絶対に右肩上がり。だから…インデックスでインデックスを上回ることを望みます。できますね?」

「(わからん…)」

「僕はきみにフルインベストするって決めていたんです。あの日から。だから、これは僕からのプレゼントです。ここからさらに森の奥へ行ってください。僕の秘密基地があります。今日は行けないでしょうが、明日様子見に行きます」

従うより他にない。

「さぁ、行ってください…あ!どうしよう!思いっきり素振りしてたら壁に穴空いちゃった!どうしよう!」

ゴゴゴゴ、とすさまじい音を立てて壁が崩れる。MIUは刀を持って走る。不思議と、走れないほどの痛みではなかった。



「おい小グマ!何をしてるんだ!」

「ごめんなさい。しかもMIUを下敷きにしちゃいました」

「ふん…仕方あるまいさ。片付けはちゃんとしておいておくれよ」

「はい…」


翌日。日が高くなってから、小グマはMIUのところへやってきた。

「どうぞ。インデックス刀Ⅳです。君は2刀流で戦うことができます。

 S&P500とNASDAQ。どちらも素晴らしいインデックスです」

それはMIUも承知している。

「当面の君の目標はインデックスでインデックスを超えることとなります」


MIUは無言で頷く。もう、MIUは分かっていたのだ。自分にはインデックス投資しか合わないことを。暴落して手放さない銘柄なんて、インデックス以外にないと思う。

であれば。リターンを高めるにはインデックス刀Ⅳをさらに強くするしかない。それは債券とリバランスとか、そういうことではない。


インデックスでインデックスを超える――

それが必須なのだ。やるしかない。



「お。こんなところに小グマとMIUがいる。探したよ。元気だった?」


覚悟を決めたのも束の間。もう大グマに見つかってしまった。


さぁどうするべきか。MIUはかつてない壮絶な戦いを余儀なくされた。

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