第3話 為替すら面倒 20.07.11

「でも前回の話筆者が覚えてないんだよね」

「それじゃあ続き書けないなぁ」

「…ネタに突っ切るのもいいけど、プロットくらい書けばいいのに」

「なんかまだクマのキャラ付け決まってなくて困ってるらしいよ」

「だから語尾や一人称がブレブレなのか」


確か…森の中で暮らしていたMIUと2匹のクマ。

多分、日本株に心を奪われるも

「連続増配の配当貴族とか米国かっこよすぎる!」

みたいなおよそJKらしからぬ発想で日本株ポートフォリオの作成を断念し、

まずはインデックス刀Ⅳを鍛え上げようと

だらだら仕事をしながら暮らしていた。


「そういうことにするのね」

「まぁいいんじゃない」

「早く3話の本題に入れよ」


MIUはセラピストである。

株式投資の失敗で暴走してしまった魂を

伝説の剣インデックス刀Ⅳで(斬り付けて)癒すセラピストである。


インデックス刀Ⅳ…

インデックスとうし、と読むその刀は、

その名の通りインデックス投資の法則を用いて

王道の技を繰り出す。

個別株やレバレッジで失敗した魂には大ダメージをたたき出す。


インデックス刀Ⅳの攻撃力は平均的であり、

MIUとしては今後起こりうるであろう2番底の来襲に備えて

さらなるパワーアップ…新たな手法の検討をしたかった。


「株主への還元姿勢とかを見ても、長期で戦うならやっぱり米国株式かな…」

「もともとインデックス刀Ⅳは米国株式と連動して

 強くなるようになっているようだからね」

「なるほど。強くなれる理由を知った」

「おっとMIU。話の途中にすまない。仕事の群れだ。

 この森から3km離れた湖のほとり。すぐに行ってほしい」


MIUが駆け付けると、確かに暴走した魂の群れであった。


「優待半額おはぎゃああああああああ」

「今日は火曜日!明日も火曜日!!ふっふ~ん!」


「MIU、気を付けて。日本の高配当株で

 分散投資しなかった者たちの末路…魂だ」

「言葉気を付けてね。一応世界中に発信する

 異世界株式ファンタジー小説なわけだし。

 世界観は損なわないように。あと銘柄は…MIUも知ってるよ」


決算が発表されるこの時期は、どうしても仕事が多くなる。


だが、MIUも心の中では引っかかっていた。

インデックス刀Ⅳだっていつどうなるか分からない。

そもそもインデックスとは市場平均だ。

個別が悪くなればインデックスだって悪くなる。平均だから。

もしこの調子でS&P500が大打撃を受けたら?ナスダックの天井が今だったら?

決して未来のことは分からない。不安は消えない。


それでも、MIUはできることをしようとした。

入金力を高めるためには仕事をして収入を得るしかないからだ。

「私は、今を信じて戦う!魂に安らぎを。その投資に尊敬を!

 私は私のやり方を貫くまで!

 インデックスの呼吸…参の型!デバイド・リザーブ」

分散された光の刃が幾重にも降り注ぐ。


美しい…明るい光の銘柄や、20日30日に5%ほど強い銘柄は、

その光に目を奪われた。

連続増配の輝かしい過去が走馬灯のように駆け巡る。

だが、それは過去のこと。減配という現実は、確実に存在するのだ。


「これに懲りたらリスク許容度を見直すんだな」


そう言い残し、MIUはその場を――

「MIU、まだだ!微弱だが…いや、なんだこれは!

 複数の反応が近づいている!」

「え、なに?」


MIUも日本株を勉強したばかりだ。

高配当株はもちろんチェック済みだ。

「このたばこのにおい、そしてそれからこっちは…

 関西のパ・リーグにいそうな姿!」

「他にも複数近づいている!気を付けて!」


「いいわ。同じことをするまでよ。狂った魂よ、我が詩を聴け!」

「失礼ね!狂ってないわよ」

「そうよ。配当利回りは変わってないもの。株価が落ちただけ」

「え…?しゃべれるですって?そんな…敵は初めてなんですけど…」


まずい。これはまずい。

明らかにMIUは動揺していた。今まで会話のできる相手はいなかった。

それは【神の見えざる手(インビジブルハンド)】による精神汚染のせいであり、

みな狂っていた。魂も姿も。


しかし、今目の前にいるのは。

これは暴走した魂であるが、暴走の果てに歪んだ魂を手に入れた者たちだ。

【インビジブルハンド(神の見えざる手)】のせいではない。

無知によって引き起こされた暴走だ。


「あなたがインデックス刀Ⅳの使い手ね。いいわ。

 日本の高配当株の力を見せてあげる」

「高配当株の呼吸…壱の型…増配霹靂一閃16連!」

「高配当株の呼吸…弐の型…株価の下落・凪!」


「え…?」

何が起きたか分からなかった。気付くとMIUは地に伏していた。

起き上がれない。体が重い…なんだか眠たい…!


「まずい!MIUが!しっかりして!しっかりしてよ!」

「っ…った…」

「もう終わりかしら?インデックスって大したことなかったのね」

「もう行きましょう。日本の高配当株に死角はないのよ」

「株価が下がったって無限ナンピンすればいいのよ」

「「ほっほっほっほ」」


「はぁ。しょうがない。ここは米国株式一筋100年の俺の出番かな」


消えていく意識の中、MIUが最後に見たのはクマ…なのか。

「高配当でも株価がだだ下がりじゃ意味ねえだろうよ」

「そうですね」

「あらよっと!!」

一振りであたりは無に帰した。


「なんだぁ。もう終わりか。ちょっと使いすぎてしまったか。今円高だからな。

 米国株の強さはこんなもんじゃないんだがな。

 はあ。しっかし、為替すら面倒だ。

 給料ドルにならねーかなぁ。

 いよいしょっと、SBIで手数料4銭だか2銭だかでまた買い増ししておくか」

「一般なら4銭です。今は106円台だからチャンスですね」

「ありがとう…お、MIUはまだ生きてるな。インデックス刀Ⅳは…

 あちゃー、ボロボロだ。じゃ、俺はこれを修理してくるから、

 お前はとりあえずMIUを処分しておいてくれ」

「分かりました」


聞きなれた…声…?何の話…?

限界だった。そのままMIUは意識を手放した。

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