第4話「今更ながらの初デート、前日」
『まあ、渡辺さんも私の秘書として頑張ってくれていますから、明日くらい休んでもいいわよ』
頑張るも何も姫ちゃんが樋本さんを自分の身代わりに臨時教員として出向させているから、殆ど俺しか仕事をしていない。そして姫ちゃんの秘書になってから十日は休ませてもらっていない。
『結婚後の初めてのお休みに何をするのか知らないですけど、勝手にすれば良いじゃないの、馬鹿じゃないのっ!』
自分から休んで良いって言っているのに、何ブチ切れてんだよ。ってか俺は何も言ってねえし。
常に俺の健康面をサーチ&プロテクトしているスーパーガーディアンの恭子から小言を言われたに違いないが、ハンカチを咥えてまでそこまで歯ぎしりせんでも良いと思う。
まあ、仕事に関してはこっちサイドも吉沢資産管理団体(仮)の常任理事が決まってないし、あっちサイドの理事長に就任する銀行マンの渋谷さんもまだ残りの理事を人選中って言っていたので現在手が空いているということもあり休暇にはちょうど良いかも知れない。
「―――と、いうことでだ恭子。明日は休みを貰えたんで、何というか、ほら、何だ、初めてのデートでもしてみないか?」
俺が本日の晩飯の献立であるピーマンの肉詰めを食べながらそう言ってみると、恭子の目は実に見事な点になっていた。(・_・)←まさにこんな感じだ。
そして直後に暴走。
「おっ、おじさんっ! デートっ!? デートですかっ!?」
更に俺は『あわわわわわわわ』という台詞をリアルで初めて聞いた。
恭子が暴走気味でも喜んでくれているのが解るので、俺はそれが嬉しかったのだが、ひとしきり混乱した後で恭子が顔に影を落としたのが気になった。
「……でも、やっぱり駄目だと思います。だっておじさんは1週間以上もお仕事を続けていたんですから、お休みくらいは家で体を休めないと……それに、私はお家デートでも全然嬉しいですから」
まあ、恭子らしいものの言い方だな。こいつは師匠に似て頑固だから普通に言っても聞かんだろう。
「俺は恭子の為にデートをしたいって言っているんじゃない。俺が恭子とデートをしたいんだ。それに何だ、体を休めなきゃいけないとか言っているけど、お前は俺とデートをすると疲れるのか?」
俺はあの日、墓前で師匠にこれでもかというくらい決意だの覚悟だの言われたんだ。これからは恭子へくらいはちったあゴリ押しで攻めてやる所存だ。
少し意地悪な言い方だったかとも思ったが、恭子は俺がそう言うとブンブンと首を振った。
「おじさんとのデートで疲れるだなんてそんなこと全然ありませんっ!!……でも、本当にいいんですか?」
「ああ、行こう。俺も楽しみにしていたんだ」
恭子は目を潤ませながら上目遣いで俺に聞く。
「ど、どこに連れて行って下さるのですかっ?」
「行きたかったんだろ?動物園と映画館。両方行こう」
すると恭子は再び『あわわわわわわ』と慌てだす。
「おっ、お弁当作らなきゃっ! お弁当つくりゃなきゃっ!」
流石に今から作らんでも良いだろうよ。
後になって思うと、この時の俺は本当に呑気だったと思う。
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