第2話「彼女な奥さんでもお風呂は一緒に入りたい」
おふぅ。俺は玄関前でため息をつく。だって今日は姫ちゃんの秘書になって初日というのに、いきなり経済連の会長と超大物政治家が並ぶ席に連れて行かれて、更に姫ちゃんはその場で俺に丸投げするというおっかねえ状況だったからな。
内容はこうだった。流石に姫ちゃんが日本の土台といわれる大企業の上から23社全ての筆頭株主というのは、余りにも危険だということで、経済連と国が主体で設立する管理団体へ株の委任状を預けて欲しいという要望だ。
つまり、今まである程度分散していた力が姫ちゃんのところへ一極集中してしまい、それが一国を動かすほどの力になってしまったことを危惧しているらしい。
『委任するだけなら、それぞれの企業の元に委任という形で株を戻すだけで良くないですか?』
元々、無償譲渡が問題になっていたわけだから、委任であれば姫ちゃんにとっても当初の目的通りになる。
すると彼らは顔を突き合わせて苦笑いした。
『それは不味い、元吉沢社員で結成された労働組合連合が暴走する』
そりゃそうだな。新しい企業に吸収された元吉沢の社員たちはあの記者会見で全てを捨ててでも自分たちを最後まで守ろうとした姫ちゃんを自分たちの真の総帥として崇めているんだ。そんな姫ちゃんがそれぞれの企業の筆頭株主ということで、安心して新事業に没頭しているわけなのだからな。
株主という形であっても自分たちの上に居て欲しいのだろう。
しかし目の前にいる彼らの話も筋が通らない。吉沢を吸収した企業たちが株式交換を言い出したのも、同様に自分の全てを捨ててでも社員と技術と国を守るという姫ちゃんの姿勢と信念を感じてのことなので、それこそよくわからない外部の管理団体に委託するのは良しとしないはずだ。
『まあ、そこは吉沢総帥に長を務めて頂くということで』
なるほど、要するに今まで通り姫ちゃんが株を握っている風を装いつつ、自由には出来ない足枷をつけたいわけだ。管理団体に役員が複数いる限りいくらトップとて、筆頭株主としての力を姫ちゃんひとりでは行使できなくなるからな。
『これは総理からの親書です』
彼らが姫ちゃんにそれを渡そうとするが、腕組みしたまま眠そうな顔をしている彼女は一向に受け取ろうとせず、チラと俺の方を見るだけだった。
『仕方ないな……では失礼して』
代わりに俺が受け取ると、彼らは酷く邪険な顔をした。
そんな目で見なさんな。俺だってこんな総帥代理みたいな真似をしたくてしている訳じゃねえ。早く夏海や直樹、部下たちがいるアドレス本社に帰りたいさ。
俺は厳重に密封されているその親書を読んだ。
……マジか。
『姫ちゃん―――いや、吉沢会長。この案件は受けた方が良い』
親書の内容がおっかないという言葉で表せられるレベルを超えていた。俺がそう言ってようやく姫ちゃんは彼らの方に目を向けた。
『そう、ならそうして頂戴』
そして、ハハーと机に額をくっつけるほどに頭を下げた彼らを見て俺は言い放つ。
『しかし、新しく設立する管理団体に委任するとしてもそちらの良いようにされては困る。最低でも委任の上限はこちらが保有する株式の70%を上限とし、管理団体の役員の3割の人選はこちらに任せるという条件をつける』
『なっ、何ィ―――』
彼らが酷く険しい顔をしたと思ったら、その瞬時に姫ちゃんは机をバンと叩いて踵を返す。
『私の秘書が言ったことが飲めないなら、この話はお流れよ。飲むか飲まないかは伝書鳩のようにその手紙を書いた総理と相談して決めなさい』
結局会談が終わり、数時間も経たないうちにホットラインで承諾する旨が届いた。
取り敢えず、今後は後の細かい調整になりそうだ。ちなみに樋本さんは有能なんだけど、交渉に長けていないというか、実に頼りなかった。
そんなこんなで、トホホな一日で、この終わりの見えない仕事を何時まで続ければ良いのだろうと悩んでいたところ、姫ちゃんから本日は解放するとのお言葉を頂いた。
『初日は早く帰すって、恭ちゃんとの約束だから』
そういう訳で、ドッと疲れたが夕食の時間には間に合う、そこそこの時間に帰ってこれた。
「ただいま~、初日からホントに疲れたぞいっ」
マンションの扉を開けながら俺がそう言うと、玄関までパタパタと駆け寄る二人の姿が見えた。
「おじさんっ、お疲れ様ですっ! ご夕飯の準備は出来てますよ~」
「にゃはー、キョウってば若奥さんみたいだね~♪」
「とっちゃんっ! 私はリアルお嫁さん彼女ですので、みたいじゃなくて本当の奥さんなんですっ!」
なんだ、とっちゃんも来てたのか。ってか恭子よ、とっちゃんのからかいにそこまで頬を膨らませんでも……
「夕食ありがとうな。でもスマンが今日は冷や汗を掻いちまったせいか、先に風呂に入りたい気分だ。飯はその後にしてほしい」
あの親書はヤバかった。安武あたりなら泡吹いて卒倒してもおかしくないレベルだったんだから、そりゃ冷や汗くらい掻くさ。
俺がそう言って、風呂に直行しようとすると恭子が腕をガシッと握って引き留めた。
「おじさん。わっ、私たち恋人でも夫婦なんですから、お風呂は一緒に入るべきだと思うんですっ!」
ごほっ! めっちゃ咳き込んでしまった。そういう夫婦もいるかもだけど、絶対に今言う台詞じゃない。
「いやっ、それはそうかも知れんが……恭子よ、とっちゃんの顔を見てみろ。凄え面してんぞ」
( ゚Д゚)←まさにこんな感じだった。
「きょ、キョウ……キョウの気持ちはわかるケド、まさか友達をポツンと一人残してお風呂でオジサマとイチャイチャするつもりじゃ……ないよね?」
「私は普通で当然で当たり前の事を言っているだけですっ! おじさんは初めてのお仕事でとってもお疲れなんですから背中を流しておじさんの疲れを癒すのがお嫁さん彼女の私の務めなんですっ!!私のお父さんとお母さんだって一緒にお風呂に入ってました。ちなみに私は純お兄ちゃんと入ってましたけどっ!!」
猪突で猛進な恭子を流石のとっちゃんも止められそうになかった。
「あ……はい。どうぞごゆっくり、私はリビングで動画の編集でもしてますので、どうぞお気になさらずに」
「おじさん、とっちゃんもこう言ってくれていますので、一緒に入りましょう!」
言ってない、絶対に言ってない。恭子に言わせられただけだ。
結局、恭子のつくった流れを誰も止められずに先に風呂場に入った俺がバシャバシャと掛け湯をしていると、
「おじさん、お邪魔します」
浴室のドアを開けた恭子はタオルを巻く……なんてことはなく、いきなりマッ裸だった。その裸体を隠そうともしていなかった。
ヤバい、凝視できない。何故なら俺のムスコがムクムクと起立しそうな勢いだからだ。
俺が風呂場の椅子にすわったまま、恭子から目を逸らし浴槽の方を眺めていると、彼女は俺の後ろに膝立ちで腰を下ろした。
「ちっちゃい頃におじさんが私を洗ってくれたように、今日からは私に洗わせてくださいね」
そう言って、ボディソープを垂らしたスポンジで背中を優しく擦りだす。
「次は前を洗っちゃいます」
恭子が俺の後ろから腕を伸ばして俺の胸板を洗おうとするもんだから、そりゃ必然的に……
ふにゅ。
恭子の実に美しく平均的なふたつの肉まんが俺の背中にヒッティングする。
ヤバい、ヤバい、ヤバいって!! 俺の股間が悲鳴を上げている。もちろん、恭子がそれに気づかない訳もなく。
「あっ、このままじゃ、お風呂場から出れないですよねっ。今日こそは私にお手伝いさせてくださいね」
決して言い訳ではない。姫ちゃんは別としても、今までの人生で会ったことが無かった白井会長や関久の社長とも比べ物にならないほどのお偉いさんとやりあって極度に疲労している上に今のコレだ。のぼせて軽く気を失っても仕方がないだろう。
夕食前にリビングで
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