悲しい朝の会

「おはようございます。今日は、皆に話しておきたいことが二つある」


 朝のホームルーム「朝の会」の時間、若林は教室に入ってくると、開閉一番にそう言った。


「まずひとつは、このクラスの遠山のことだ。遠山はご両親を、小さい時に事故で亡くしているため、現在はお祖父さん、お祖母さと三人で一緒に暮らしている。その遠山のお祖父さんが、昨年からこの街の病院に入院されていたんだが、今後の治療のために、大きな病院へ移らなければならなくなったそうだ」


 若林は一度そこで話を切った。


 予想していなかったこの展開に皆は言葉を失い、教室は静まり返った。 冬馬から転校の話を事前に聞かされていた仁栄自身も、冬馬の両親のこと、祖父母のことは初めて聞くことだった。


 そして、遠足のおやつを買いに行ったあのとき、冬馬が花田の妹のことを知っていたことを思い出した。ひょっとして、お祖父さんと同じ病院だったのだろうかと、そんな考えが彼の頭をふと過った。


「先生! それって、遠山くん転校しちゃうってことですか?」


 クラスの誰かが手を挙げて質問した。


「ああ、残念だがそういうことになる……転校のことは急に決まったらしくて、昨夜遠山のお祖母さんから電話をもらって、実は先生も驚いているところなんだ」


 若林は表情は厳しく、辛そうだった。


「そんな……」


「でも、遠山くん今日はなんで来てないの? もう学校に来ないの?」


 皆の視線が仁栄の後ろの空席に集まる。


「転校って、この前来たばっかじゃね? トーマって」


「まじかよ……」


「オレ、結構あいつのこと好きだったのに……」


 クラスの誰かが、ポツリと言った。


「そうだな。先生も遠山のこと大好きだ……」


 若林は微笑んだ。その瞳は少し潤んでいるようだった。


「先生! 遠山くんはいつ転校して行くんですか?」


 今度は花田が手を挙げて質問した。花田がクラスの中で手を挙げて発言するのを、仁栄は初めて見た。


「それが……遠山は、来月の二月一杯まで皆と授業を受けることになっているが……今日は風邪を引いてお休みしたいと連絡があった……」


「二月一杯だけですか? 三月の終業式まで、来れないんですか……」


 花田の声は、語尾に力がなく消えかかっていた。若林は黙って頷いた。


「えー! それじゃあ、あと一か月ちょっとじゃんかよ!!」


「そんな……」


「まじかよ……」


 教室が静かに騒めき始める。


 しばらく何も言わず皆の話を聞いていた若林は、大きく咳払いをひとつした。


「それからもうひとつ……家庭の事情で、吉田が来月の終業式まででこの学校を転校することとなった」


「えー!!」


「嘘だろー!!」


「冗談きついよー!!」


「何で、うちのクラスから二人も……」


「でも、来年度になったらクラス替わるじゃん!」


「バーカ! 二年生、四年生、六年生はこの学校ではクラス替えしないんだよ」


 誰かが、一昨日冬馬が言ったのと同じことを言った。


「えー! ユッキ本当に?」


「嘘でしょ?」


 皆が一斉に由希子の方を向いた。由希子は黙って下を向いているだけだった。彼女は泣くのを我慢するように口元をキュッと締めていた。


 仁栄にとって、クラスの皆にとって、それはとても悲しい朝の会だった。


 冬馬は来月一杯までは学校に来る、若林からその事実を聞いて嬉しいはずなのに、彼には素直にそれが喜べなかった。


 何故だか、彼にはそれが本当だとは信じられなかった。

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