第7話 おじさんと女子高生

 気が付いたら、ギルドに来ていた。用事もないのに。

 足が勝手に動いた。心のなかは、まだ、もやもやしてる。

 今日、ダンジョンで一緒に入った友達が、あんなに危ない目にあって、私も痛い目を見た。

 なのに、私は、またダンジョンに近づいてる。

 おかしいよね、きっと。

 うん。

 わたし、おかしいの。

 ユウやアオイといるとき、ダンジョンは危ない場所って言ってた。でも、本当の私は違う。また、ダンジョンに行きたくて仕方がない。

 ダンジョンの魔物に取りつかれてしまった。

 モンスターと対面したときのスリルが心に残り、ぶちぶちと肉を引きちぎる感触が手に残る。

 更衣室で着替え終わって、ベルトに剣を吊り下げた。

 剣を2cmだけ抜く。鉄の鈍い輝きが、これ以上なく美しく見えた。

 更衣室を出る。わき目も振らず、ダンジョンに向かう。

 大きな、大きな、異世界への扉。

 ここが私の居場所。ううん、故郷のような不思議な感じ。

 ちょっとだけ。

 そう、自分にも言い訳をして、ダンジョンに入る。

 危ないことは、わかっていた。

 でも、止まってなんていられなかった。

 こんなにも、やりたいことができるのは久しぶりだから。

 退屈なんてごめんよ。なんて言い続ける、退屈な日々とバイバイできたから。

 異世界の扉の暗闇に、飛び込む。

 ガシッ。

 寸前に、肩を掴まれる。

 誰よ。もうっ。

「やあ、お嬢さん、ひとり? いまから潜ると、外が暗くなっちゃうんじゃない?」

 黒いロングコートを羽織った、黒い髪のおじさん。

 気さくな笑みを浮かべながら、そう言われる。

 今日、何度も助けてくれた優しいおじさんは、透き通るような目で私を見る。

 止められると思った。

 大人の男性って、あまり好きじゃない。

 お父さんは居なくて、お母さんを困らせるし、中学校の担任だった男の先生は、しつこく連絡先を聞いてきたことがあったし、ほかにも会社員の男の人に電車でお尻を触られたり、ほんと、いい思い出が無い。

 この、おじさんは、違うかなと思ってたのに。

 おじさんは、少し悩んだ後、指を一本立てながら言った。

「僕と、パーティーを組みませんか? 潜りたいんでしょ、ダンジョン。おじさん、支援魔法使いだから、ひとりでダンジョン潜るの向いてないんだよ。助けてくんないかな?」

 おじさんは、恥ずかしそうに頬を引っかきながら言う。

「へっ? あっ、はいっ」

 変な声を出しながら、私は頷いた。いきなりで、びっくりして、でもなぜか体が勝手に頷いている。

「よし、パーティー結成。よろしく。これ、僕の冒険者カード」

 ポケットから出される、四角いカード。両手で受け取って、見つめる。

「えっ、えーーーーーーーっっ」


 名前 【おじさん】

 クラス【魔法使い】 

 レベル【99】

 体力 【71】

 筋力 【52】 

 技力 【68】 

 素早さ【58】 

 知力 【95】 

 精神 【99】

 運  【77】 

 スキル【5】


 絶叫する私を、おじさんは笑って見ていて。

 右手の人差し指と中指を揃えて、額に当てて言った。

「よろしく、お嬢さん」

 私は、すっかり毒気を抜かれ、ぶんぶんと首を振って頷いた。

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