第25話 生贄論
≪見えざる扉はいつもあなたの傍に
扉の鍵はいつもあなたの傍に
鍵を鍵足らしめんとする鍵はあなた中に現れる
私は今を満足している
だけど私は今を退屈している
これを読んでいるあなたが、私のところに辿り着くことを心から願っている≫
「……どういうことだろ、これ」
ネルシアが皆の気持ちを代弁してくれた。
「たどり着くことを心から願っているのならもっとわかりやすく書いてくれよ……」
扉は見えない。鍵はいくつもあれどそのままじゃ機能しない。鍵を鍵とするものは俺の中に出現……。
なんじゃそりゃ。
「コシュアはなんか分かったか? どんな
「分かりましたよ」
「マジで!?」
こいつ天才かよ。
「鍵を鍵とするためのものはあなたの中にあると書いてあるんでしょう? つまりは
「んなわけねーだろ! こんな本しかない場所で臓物取り出したら死んじまうじゃねーか!」
分かった雰囲気出して何言ってんのコイツ。
「それにさ、コシュアの
ドヤ顔で暴論を吐くコシュアに、思案顔のネルシアがツッコミを入れる。
「……場を和ませる冗談に決まってるじゃないですか」
予想以上の返しを喰らったためか、コシュアはおずおずと引き下がった。
全く和んでいないんだけどな……。
「そ、それに、人の意見にいちゃもんつけるだけでは議論の停滞を招くだけですよ。自分の意見が無いのなら静かにしていてくださいよ」
「いや、今はコシュアの手も借りたいほど困ってるんだ。皆仲良く行こうぜ」
「私を役に立たないものの例えとして出すのはやめてください」
コシュアは不満げに鼻を鳴らす。
「ネルシアにこの難問が解けるんですか? 私ですら何もわからなか……」
「二文目の鍵が何を指すのかなら、見当はついてるけど」
お姉さんと子供の狭間モードのネルシアは、小さなドヤ顔でコシュアの方を見つめ返した。心の会話でコシュアの方から黒い感情が漏れ出ている。こわい。
「鍵が何か分かるのか!?」
「うん。こういうのは分かるところから解いていくのがミソだよ。『扉の鍵』は他の二つよりもかなり簡単に分かると思う」
「『扉の鍵はいくつもあなたの周りに』·····か」
「私たちの周りにいくつもあるものはなに?」
「……本だな」
「そうだね。本が扉の鍵で間違いないってわけ」
なるほど、たしかにちょっと冷静になって考えればすぐに分かりそうな答えだ。
「まあそこまではいいんだけど、他の部分が全く分からないんだよねぇ……。『見えざる扉』に関しては見えないものを探すことは不可能だし、『鍵たらしめんとする鍵』も何言ってんのって感じだよ……」
ネルシアは困ったように呟く。
しかし、全く進んでいなかった読み解きを進めてくれた働きはとても大きい。
……どっかのコシュアさんと違って。
そして懲りずに例の彼女が口をはさむ。
「分かりました! その本は生贄の臓物を乗せるためのものなんですよ!」
「そろそろ生贄論から離れて!?」
発想が野蛮人そのものである。
「だから場を……」
「和んでない! もう俺とネルシアで読み解くからちょっと黙っててくれ……」
「さっきは私の手を借りたいと言っていたのに」
「その手が思いっきり足を引っ張ってんだよ!」
文章の読み解きよりも、コシュアのおふざけのほうが厄介かもしれないな……。
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