第14話 土耳栓

 目が覚めると同時に、クロが特権の説明を始めた。俺は地面に大の字に突っ伏しながら黙って聞いた。


 まとめるとこんな感じ。

 

 ・特権はアイデンティティの象徴(他者が同じ特権を持つことはない)

 ・魔法よりも魔力のコスパが良い(同じ量の魔力を使った攻撃でも魔法より特権の方が打ち勝つ)

 ・特権の一部の機能を使う場合は、無詠唱でも発動することができる


「ちなみに、ヘレナの特権は何だったんだ?」


 ヘレナが特権を唱えた辺りで意識が完全に飛んでいる。


「特権は他人の口からベラベラと喋っていいものではないので、ヘレナ姉さんに説明をしていただきましょう」


 受付からヘレナ登場。こっちの会話が筒抜けのようだ。恐らく激安アパート並に壁が薄いんだろう。


「私の特権、『狂乱の歌姫ファラバイ・ディーバ』は、私の歌声を増幅させる能力よ。耳から歌声が入った後、脳の中で私の美しい歌声が何度も反響するの。……音量調整が出来ないから、皆しばらく気絶しちゃうけど」


 ヘレナは得意げに自身の特権を語りだしたが、どこか胡散臭うさんくさい。嘘はついていなさそうなんだけれどな。


『私は直前で耳をふさいでいたので気絶することはありませんでしたが、地獄の怨嗟えんさのような歌声でしたよ』


 コシュアの密告を聞いてゆっくりとクロの方を向く。クロは素知らぬ顔でこちらを見つめ返してきたが、その耳からサラサラと土が流れ落ちてきたのを俺は見逃さなかった。


 コイツ……!


「まあ、大体こんな感じですね」

「なるほどな……あれ? もう一つなかったっけ?」


 魔法と特権、ニスが家で話していた時にもう一つ何か言っていた気がする。


「あぁ、多分『特性』ですね。これは種によって決まっています。ミノタウロスの場合、強靭きょうじんな身体能力を得る代わりに、比較的短命です。角が立派であればあるほどその性向が見られます」

「ほーん。じゃあクロはそれほど身体能力高くないってことか」


 でも、ニスはどうなんだろう。確かに見た目は貧弱だけど、戦闘能力は多分トップクラスに高いと思う。角はあんまり見えなかった気がする。


「そうなりますね。では、さっそく魔力増強の練習を始めていきましょう」


 それから三日間、俺はひたすらに魔力増強の練習を行った。俺が曲がりなりにも魔法を使えるのは、コシュアによる魔力供給があるためらしい。あんころ餅を食べた時に結ばれた詐欺さぎまがいの強制契約によって、コシュアの中で循環じゅんかんしていた魔力の一部が供給されている。


 しかし、十七年間魔力に無縁の生活をしていた俺にとって、常に魔力を流し続けるというのはかなり負担がかかるものらしい(今まではコシュアが必要に応じて供給してくれていたとのこと)。


 そこで、毎日ごく少量の魔力を流し続けることで、体を魔力に慣れさせるというものだ。初日は吐き気、眩暈めまい、謎の止まらない尿意に悩まされた。ただ、三日目には体の不調に悩まされることなく、魔力を体に馴染なじませることができるようになった。


「ここまでくれば問題ないでしょう。それでは、闇闘技場に行きましょうか」

「おうよ」

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