第13話 狂乱の歌姫

「それでは、実践じっせんを通じて教えていきましょうか」 


 そう言うと、クロと呼ばれた少年は拳を構えた。彼は今まで会ってきたミノタウロスの中で一番人間に近い見た目をしていた。頭の角は見当たらないし、特に筋肉が発達しているようには見えない。人間の小学生感がすごい。


「まてまて、言っとくけど俺、何も知らないよ?」


 この世界に来てから二回ほど戦闘に巻き込まれたが、ほぼすべてにおいて受け身。魔法の名前はかろうじて覚えているが、そんな状態で実戦形式は大丈夫なんだろうか。


「だから僕が教えるんです。準備は良いですか?」

「まあ……大丈夫。よろしく頼むわ」


 よく考えたら魔法や特権とかを座学で教えられても、いまいち実感が湧かないだろうな。とりあえずやってみて、体で覚えていこう。


 見よう見まねでクロと同じ構えをすると、クロは地面の土を掴み、片手で不格好な泥団子を作った。


「『グランド』」


 放り投げられた土は緩やかな放物線を描いて俺めがけて飛んでくる。魔力が込められているのは流石の俺でも分かるので、サイドステップで素直に避けた。


「いっでえ!!」


 しかし、避けたはずの泥団子が途中で軌道を直角に切り替え、猛スピードで俺の側頭部に直撃した。


「今のが魔法。種類はグランドです。効果は魔力を与えた土を自由に操作することができます。生成もできます」

「……これって俺が喰らう必要ある?」

「体で覚えてもらうというのが方針なので」

「スパルタ教官だ!」


 その後、魔法について様々なことをクロ様にご教授いただいた。まとめると、


 ・魔法名は「種類+強さ」で形作られ、強さは無印、リム、ハーレの順で強くなる。

 ・クロが知っているだけでも十種類以上の魔法が存在すること

 ・魔法には人それぞれ得手不得手があること(クロは『グランド』、俺は『ウェルク』が得意みたいな感じ)

 ・


 こんな感じだ。クロですらハーレ級どころか、リム級の魔法すらまともに打てないらしい。クロは「実際にお見せできずにすみません……」と謝っていたが、無印のグランドの時点で打撲やたんこぶのオンパレードだったので、命拾いをしたという思いしか湧いてこなかった。


「それでは次に、特権について……と行きたいところなんですが、僕は特権を使えないので、ヘレナ姉さんを呼びましょう」


 その声に呼応して扉が開く。ヘレナは顔を出したが、その顔はとても嫌そうだった。


「……一秒だけよ」

「もちろんです。お姉さんの制御が効かなくなった場合は僕が何としても止めに行きます」

「制御効かないとかあんの? 大丈夫? 俺、死なない?」

「体で覚えてもらうというのが方針なので」

「大丈夫だって言ってくれよぉ!」


 姉弟きょうだいの話があまりにも物騒だったので、つい口を挟んでしまった。体は覚えても脳みそが機能停止してしまっては本末転倒だからな。


 もちろん、俺の不安をヘレナが汲むはずもなく、突然特権が唱えられた。


狂乱の歌姫ファラバイ・ディーバ


 その声を境に、俺の意識はプツリと切れた。

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