拳銃と私
クロネコと私5
不思議だ。
あれは本当に、私なんだろうか。
一番寒そうな格好をした彼女が砂の山に飛び降りて、やや身をすくめながらもテクテクと真ん中へ歩いていくのを、ホムラとかいう獣が慌てて追いかけている。きっと階段の間に盛られた砂の山にとって太った彼は重すぎたのだろう。足を流砂に取られ滑り落ちそうになっているのを、慌てて女神像の瓦礫に掴まって藻掻いているのが見える。
「……あの女、馬鹿なことを」クロネコの低い声。私を庇うように抱き寄せて、ゴロゴロと喉を鳴らす。「見ろ、不干渉の霧が晴れる。始まるぞ」
月光。
スウッと、世界を満たしていた白いモヤが晴れ渡る。
最初に感じたのは弓の弦が風を切る鋭い音。
オレンジ色の火矢の光芒が視界をかすめる。
突然、空を飛んでいた石の悪魔たちの体が穿たれ、爆発するように幾つも弾け飛んだ。
耳をつく、呪文のような言語の羅列。石の悪魔の長が両手を僧侶のように合わせて何かを唱えている。
光。
風。
瓦礫や石の悪魔の破片がたくさん空に浮かび上がり、舞台を覆う。
切って落とされた激しいカオスの中で……私はただ、未だ砂山の真ん中に一人で突っ立っている彼女を見つめていた。
彼女は……爆音に驚きながらも首を左右に回し、私たちを一人ひとりに視線を送って、確かに自分の足で前に進んでいた。彼女は私たちを見ているし、私たちも彼女を見ている。やがて立ち止まった彼女は、しばらくは植物の妖精の方を見つめ続けていたけれど、不意に何か悟ったようにうつむいて、今度は一番近くにいる私の方へとまっすぐ向き直った。
見上げた先と、見下ろした先に、私がいる。
お互いに肩で息をしている。
生きている。
不思議な感覚だった。
透明な鏡を覗いているような、覗かれているような……。
砕けた悪魔たちの欠片が浮かび上がり、
それをホムラの爪が一薙ぎに払いのけた。
「何をしている女!!? くそっ、
戦闘の喧騒が遠い。
なんだかホントに、どうでもいい。
だって……あそこにいるのは、私なんだ。
見つめ合った私たちの目線。
やがて彼女は微笑んで、一瞬だけ、背後で慌てているホムラを振り返った。
太った、醜い獣だ。
あの私は……あんなのと、セックスしたんだな。
また私を振り返った彼女は何も言わず、ただ泣きそうな表情のまんま、私に向けて舌を出してみせた。
その右手には銃。
震える手で、こめかみに押し当てる。
ホムラが何かを叫んだ。
やめろとか、きっとそういう言葉。
引き金。
爆音。
なんの躊躇もなく……と言い切れるほどの潔さはなかったけれど。
それでも、迷いなく、彼女は自分の手で自分の頭を撃ち抜いた。
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