私の世界2
最後に現れた、黒い猫のような頭をした男に連れられてきた彼女……その顔もやっぱり他の五人と同じように私と一緒で、その反応も驚いた表情も困惑も、全部、やっぱり私や他の私たちと同じ有様だった。
混乱するままに見つめ合っていた私たちの真ん中に、すうっと光の筋が降り注ぐ。息も苦しいほどに旋風が巻き上がり、六角形の中心に差した光の
「……選ばれし運命の母よ」
少年のように傲慢で、父親のように尊大な鳥の声が響く。
「君は弱さからその魂と肉体を六つに分けた……罪深い女、愚かな雌よ。未来を身籠り元の世界に帰ることができるのは、一人だけだ」
言葉を聞きながら、つばを飲み下す。喉が痛い。頭はもっと痛い。
「ねえ、パートナー……この声は何を言っているの?」私は聞く。
「…………」
「私が6人? そんなの、ありえないよね?」
答えはない。
「嘘でしょ? これみんな、私なの? 私と同じ人? 帰れるのは一人って……どういう意味?」
ううっと、すすり泣くような声。
「パートナー……泣いてるの?」
「信じて」パートナーの、亡霊のような声。「私はただ……君だけを守るためにここにいる」
「あなたは……」
バサッと、翼が開くような音。
「戦え、男たち」
神のごとくに、お告げが下る。
「女を奪い合え。たった一人選んだ女を残すために、他の女を殺し尽くせ。それだけが、君たちが真なる世界に生まれる唯一の手段だ」
バキバキっと樹木が倒れるような音がして、空からメッセンジャーの黒い死体が、羽の
まるで世界の終わりが来たみたいな景色だった。
あたりを見回すと、ミョウジョウ、黒い猫のような頭の化け物、緑の妖精、獣、鹿……ここにいる全ての男たちの顔に、不穏な笑みが浮かんでいる。
高揚。
期待。
狂気。
野生。
剥き出しの本能がカタチになってそこに
「……殺し合え、女たち」
パチっと、空に浮かんでいた鳥の目が開いた。真っ黄色の不気味な瞳が私を……私たちを睨む。
「お前たちの中にはもう……お前たちの子どもがいる」
……え?
反射的に自分のお腹をおさえた私をパートナーが抱き寄せた。
「大丈夫だ。何も、心配しないでおくれ……」
子ども……私の、子ども?
思考を切り裂く咆哮が一つ、鳥の死体が雨のように降り注ぐ石階段の広場に響き渡った。連れてこられた私のうち、一番浅ましい服を着せられている一人を伴っていた、太く醜い獣の声だった。
「布陣せよ!!!」
ブオオっと、角笛が響き渡る。
「
バチバチと羽ばたく音とともに、ミョウジョウの背後から真っ赤に目を光らせた石の悪魔たちが空へと飛び上がる。
「ホムラ!! 卑怯ものめ!!」
「卑怯だ!!」
「下等な獣め!!」
「ミョウジョウ様を守れ!!」
にわかに空気が沸き立った。狼たちは階段の下をぐるっと囲い込むように陣を作り、砂漠に埋もれていたビルの上にも猿のように上り詰め、ぞくぞくと弓を構えて私たちを睨みつける。階段の舞台が戦場へと変わっていく。
「兵法これ全て圧殺を
「フハハハハ……!!」
笑っていたのは、雪のように白い角を持つ鹿の男。あの日、暗い森の中で見た死霊の王だ。
「なるほど、同じ女か!! 面白い!! いいだろう、殺し合え!! 男も女もこの世界も、ここにある全ては根こそぎ吾輩のものだっ!!」
睨み合う視線。
満ちる殺気。
火花が散るような砂漠の真ん中に……ぽとりと、小さな影が飛び降りた。
私だ。
私と同じ顔をした、彼女。
あの獣に連れられていた、変な踊り子みたいな服を着せられていた彼女がたった一人、まるでブランコから降りるみたいに軽やかに、階段の下、瓦礫の散らばる砂の山へ飛び降りた。
「……な!? おい女、何をしている!!? 戻れ!!」
慌てる獣を見据えて、バサッと、ミョウジョウの翼が広がった。
「石けらども!! その女を殺せ!!」
石の悪魔たちの赤い瞳がギラギラと輝いた。
「狙うべきはホムラにあらず、雄どもにあらずだ!!! この戦いは、女を殺したものの勝ちだ!!」
心臓がきゅっと狭くなり、私を抱くパートナーの腕の力も強くなる。
「大丈夫だ、私は君を……君の子だけは必ず……」
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