ホムラと私2

 指が弾み、銃声が弾けた。

 固く乾いた金属質な火薬の悲鳴。

 震動が腕を伝播する。

 轟音。

 光。

 歪み。

 狼の顔から、血のような青黒い液体が吹き出した。

「ぎゃああぁあああああぁあああっ!!!!!」

 耳障りな咆哮。

 後方に吹っ飛んで、倒れ込む。

 残響。

 炸薬の匂い。

 残響。

 私は自分が何をしたのか理解するより先に、心臓が真っ青に凍りついているのを感じていた。

 ヨロヨロと瓦礫を頼って立ち上がる。

 頭が半分無くなった狼が、青い血をドロドロと流しながら雨の中倒れ伏していた。

「あ……」変な声が漏れる。

 ガクガクと膝が震えた。

 すごく、渇いてる。

 棘のように喉に何かが突き刺さってる。

「ごめ……ごめんな……さ……」

 声にも音にもならない呟きが、自分の喉からこぼれていた。

 見開いた、狼の片目。ゼェゼェと呼吸のような音を漏らしながら、私をまっすぐに睨んでいる。

 ……どうしよう。

 何してるの……私。

 なんで、黙ってるの?

 逃げないの?

 こんなの、しょうがないって……私が悪いわけが……。

「ごめんなさい……」

 狼の荒い呼吸が、水気を含んだゴポゴポという音に変わっていく。痙攣していた体が一度だけ大きくビクビクっと震えて、右腕が何かを掴むように持ち上がる。

 そして、たおれる。

 私が殺した命が、死んでいく。

 私はそれをずっと見ていた。

 集まった狼の仲間たちが私を捕まえ、腕を縛り、熱い腕が笑いながら体を引きずっていくのを感じながら……。

 今度こそ本当に、何もできなかった。

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