ミョウジョウと私3

 ズキンと腕に血流が走り、施しようもない痛みが骨の内側で悲鳴を上げた。押し殺そうとした声がヘドロのように喉でぜ、咳込み、こみ上げる不快感が腹に溶け込んでいく。

 地獄だ。

 ずっと、地獄だ。

 ものすごい熱が体を犯していくのを感じながら、ゆっくりと息を吸う。ひどい痛みだ。そして痺れている。正座で痺れた脚を無理やり動かすのだって苦しいのに、それよりもずっと酷いのが肘のあたりでずっとうねって引きつっているのだ。お腹はひどい下痢のようにギュルギュルと熱くって、きっと本当に下しているのかもしれない。

 散々に殴られた体。きっと全身アザだらけだろうし、あっちこっちがヒリヒリしていたけれど、それでも折られた腕以外の痛みは少しかマシになったと思う。

 今、本当に深刻なのは、この恐怖だ。

 身をよじり、なんとか体の向きを変えて、背後の冷たい壁に体重をあずける。ミョウジョウの準備が整うまでの間と私が放り込まれたのは、太い植物の根に侵食された崩れかけの汚い牢獄だった。高いところにある格子窓からそそぐ月明かりが、砂まみれで汚れた私の脚を黒々と照らしている。

 これから、どうしよう。

 どうすればいいんだろう……。

 止まらない汗を拭っていたら、いつの間にか涙がボロボロと頬を伝っていた。このままじゃ私は死んでしまう。子どもを生むなんてレベルじゃない。あんな奴と一緒にいたらいつか絶対殺される。死ぬよりひどい目にあって、そして死ぬ。最悪だ。それだけは避けなきゃいけない。どんな最低な言葉を吐かれても媚びへつらって、足でもなんでも舐めて、生き延びて……。

 そうやってここで……殴られて言うことを聞いた女として、一生を終えるのだろうか?

 そんなの、どうして生きてるのかわからないよ……。

 ぐぐっと、涙と一緒に吐き気がこみ上げてきた。同時に折れた左腕が痙攣し、風船のように痛みが膨らむ。痺れる苦痛。息を止めて、消えない痛みが少しでもマシになるまでジッと耐えて……ああ、疲れる。疲れるなんて言葉じゃ足りないくらいに、体が枯れる。もうたないってさっきからずっと思ってるのに、痛みは容赦なくて、地獄みたいな我慢が終わらない。なんて理不尽な痛みだろう。世界を公平だと思ったことはないけれど、でも、こんなにどうしようもない今が私に待ち受けているなんて考えたことはなかった。

 私は……私は確かにグズでクズだけど、こんなひどい目にあわなきゃいけないほど悪いことしただろうか?

 涙が伝う。

 痛いのは嫌だ。

 痛くしないで。

 そう願っているだけなのに……。

「おーい……女ぁ……」

 石の城に反響する、ミョウジョウの声。

 足音。

「そろそろ起きたかぁ? 子作りするぞ……」

 バクンバクンと、心臓が脈を打ち始めた。

 やばい。

 どうしよう。

 どうしようって……だからさあ……。

 どうしようもないんだってば。

「悪かったってチサト……お前の痛がってる顔があんまりかわいくてさ……」声が、足音が、近づいてくる。「でももうしねえよ。本当さ……痛みと傷を治す呪文も爺から聞いてきたんだ……ためしてみたいだろう?」

 ああああああああああああ。

 迫る気配。

 影が伸び、私を包む。

 恐怖と痛みに耐えかね、ひしゃげるように泣き始めた私の心が、今までずっと言うまいと念じていた言葉を吐く。

 お母さん……誰か……。

 誰か、助けて……。

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