第2話 マスクをつけろ!


 3月1日

  東海道新幹線から700系が引退。これにより東海道新幹線の車内は喫煙ルームを除き全車禁煙になった。なお当初は3月8日に引退する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりラストランが中止され、引退が繰り上げられた。

 

 午後8時、湯沢は宇都宮一の繁華街、オリオン通りにやって来た。

「警部、こっちです」

 東武署刑事課の紅一点、力竹留美子りきたけるみこの案内で現場にやって来た。今年で35歳になるという美人警部補だ。パン屋の駐車場でワンボックスカーが傷だらけになっていた。百円玉で運転席側のドアが傷がつけられ、ミラーが外れかかっている。群馬ナンバーだ。

「最近、流行りの自粛警察かな?」

 湯沢は眉をひそめた。

 車の持ち主は若王子一郎わかおうじいちろうというスキンヘッドの男だ。パチンコ屋に勤務してるという。

「恋人が栃木の人間なんだよ。マジで困る」

 若王子は大泉にあるスバル自動車で働いているそうだ。リコール隠しとか問題になったよな?

「何か恨まれるようなことは?」と、留美子。

「ありませんよ」

 こんなことをしているうちに薬師寺雷蔵やくしじらいぞうを殺した犯人に逃げられるかも知れない。雷蔵は東武署のトラブルメーカー、薬師寺右近の父親だ。日光にある自宅で鈍器で頭を殴られて殺された。右近とも連絡が取れなくなっている。

 管轄外だから首を突っ込むことは出来ない。

 

 5日後、雷蔵殺しに進展があった。

 連城六郎れんじょうろくろうという容疑者が浮かび上がったのだ。雷蔵はオリオン通りのレストランの店長だったが、コロナの影響でリストラを断行せざるを得なかった。連城もその犠牲者だったのだ。

 日光署刑事課のベテラン刑事、江頭修えがしらおさむ警部補は取調室の中で連城をボコボコに殴った。「おめ〜がやったんだべや!?」

「俺がやったって証拠があるんですか!?」

「おめ〜しかいね〜んだよ!」


 3月10日

 薬師寺は若王子を殺した。

 親父を殺したとき透明人間になったので驚いた。

 横溝が神様のように思えた。薬師寺は未だに透明だった。スーパーマリオのスターは一定時間が経過すると不死身でなくなるが、薬師寺の場合は時間ではないのかも知れない。どうやったら人間に戻ってしまうのか?クシャミをしたら戻っちまうのかな?

 花粉の季節はつらい!クシャミが勢いよく出て、マスクの中に鼻水が飛び散る。

 動機はマスクをしてなかったからだ。車を破壊して、尾行して大泉のアパートで刺し殺した。

 街にはブラジル人がたくさんいる。

 バスも透明人間だから無料だ。

 太田駅の前には『太平記』で有名な新田義貞にったよしさだの像があり、駅構内にはDJブースがある。切符なんか買う必要はない。駅員がいるコーナーの横を横切り、東武スペーシアに乗り込んだ。

 

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