第16話 保留。ドーナツの恐怖

 俺は間違えましたと伝えてクルリと体を回転させる。


 違う。ここじゃない。


 俺は再び走り出した。


「……どこだ……」


 もう分からない。ここがどこなのかさえ……。

 その時、ポケットから何か音が鳴る。


 手に取って耳に当てると、和人の声が聞こえる。


「ムネト君。こちらからはGPSで居場所が分かっている。今から言う通りの場所に向かって!」

「分かった」


 なんだ。あんなに俺を止めようとしてくれてたのに……。


「そこの角を右!」

「おっけい!」

「違うそっちは左だ」

「あーすまん」

「そこ真っすぐね」

「らじゃ」

「なんで曲がったの?」

「あ、間違えた――」


 そんなこんなで俺は目的地にたどり着く。


 今度こそと扉を開ける。

 そこにはさっき映像で見た光景が広がっていた。


「ちょ、ムネト?」


 最初に反応したのは雪。この中で一番顔見知りだからだろう。

 ここにたどり着いた俺は明らかに場違い感が否めない。


「誰だ貴様は」


 オオギンは俺をゴミのような目で俺を見やる。


「申し訳ないです。直ぐに下がらせます」

「人間は弱くなんかない!――」


 俺は大声で叫ぶと、騒がしくなっていた空気も沈黙へ変わる。

 俺はオオギンの元へ駆け寄る。


「ノブナガを返して」


 俺は想いをそのままオオギンへド直球。


「はあ?」

「返して! どこにいる!」

「ちょっと……やめてよムネト!」


 雪が俺の腕を掴む。

 強い……。


 あっけなく引き戻された俺はなすすべなく立ち尽くす……。


「ふっ……人間にも面白れぇ奴がいたもんだな」


 オオギンは俺の方にデカい巨体でそのそと歩いてくる。

 何かの危機を察したのか、雪が俺の前に立ちふさがる。


「ダメです」


 その後ろ姿に見惚れていると、オオギンは直ぐに後ろの椅子へ戻った。


「んで、どうするんだ? 戦争か。ウィークスポイントか。奴隷か」

「……」


 俺たちは言葉に詰まる。


 戦争なら間違いなく負ける。ウィークスポイントを一週間で10000集めるなんて不可能。奴隷だって承諾しがたい。


 沈黙を続ける。


「本当にお前らってバカだよなぁ」


 ……。


 これは果たして頭脳の問題なんだろうか。

 俺がバカだからノブナガを救えないのか?


「少し時間をくれませんか?」


 口を開いたのは特王のハンス。

 それに対してオオギンは詰まらなさそうに口をとがらせる。


「ふっ、まあ少ない脳みそで考えておくんだな」


 そう言ってオオギンは去っていった――。


「ねえ、ちょっとムネト⁉ 本当にどういうつもり?」


 雪はオオギンが去ったことを確認するなり、直ぐに俺に指を刺して近寄る。


「本当にそうですよねぇ。あの三択は厳しいっす」

「違う。貴方に言ってるの!」

「俺が?」

「そう」

「すいません……」


 こういう良く分からない時は謝れば一件落着。


 雪は小さくため息を付いて手をパンと自分の顔を叩く。

 そしてキリっとした表情を見せると、直ぐに人々に指示を出していく――。




「ムネト、あんまり無理しないでよね……」


 帰り道、俺たちは再び車に乗った。

 俺は実乃の言葉に返す言葉も無く考え込む。


「……他に方法は無いのかなぁ」

「……」


 車内の空気は行きよりも薄暗い。

 突入しなかったのは良いものの、状況は良くなったとは言えない。

 沈黙が続く……。


 そしてその沈黙は絶えることなく続いた――。



「なあームネトー」

「何だー桃太郎」


 俺たちは特にすることも無く椅子に座って机にぐったりする。


 オオギンとの交渉からまだ二日。人間はまだ結論を出していない。

 そしてこの期間、学校の授業も禁止されているため行く場所もない。


「暇だな」

「まあな」

「そういえばムネト。モリグラティスの実、最近食ったか?」

「あー……いつもノブナガが食いに行きたいって言ってそれについて行ってるからなぁ……食ってない……」

「ノブナガ……」

「食いに行くか、モリグラティスの実」

「そうだな」


 こうして俺たちはモリグラティスの実を食べに行く。



「久しぶりだなぁ」


 目に映るのはモリグラティスの実が沢山っている森。

 俺とノブナガが初めてモリグラティスの実を食べた場所である。

 ノブナガとも何度も何度もここへ来ては食べ、来ては食べを繰り返していた思い出の場所。


 俺はそっとモリグラティスの実を見る。

 懐かしいこの色……。


 そっと下を向くと、見覚えのあるドーナツを見つける。


「これ……」


 俺は自分の首に付いている首輪を掴む。

 そしてそれを外し、地面のドーナツと照らし合わせる。


「ま……」


 俺は気付いてしまった……。


 これはドーナツではない。


 ちなみに俺のと少し似ているが、よく見ると全然違う。

 そう思いつつ、俺は自分の首輪を再び首に戻す。


 そしてそのドーナツ……じゃなかった、首輪へ手を伸ばす。


「えっ!――ムネトぉおおおおおおおおお‼」


 桃太郎から聞こえる声。

 だがその時にはもう、地面の首輪に手が触れていた。


「あっ――」


 俺は気を失っていた――。







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