第15話 交渉。何でこんな時にそうなるんでしょうかね。
「なあ、無事……だよな……」
俺たちは車のようなものに乗せられた。
大きさはそこまで大きいという訳ではなく、俺、実乃、桃太郎、美鈴、和人が丁度入るくらいの大きさであった。
「大丈夫だよ。絶対大丈夫」
桃太郎の発言に対して大丈夫だと和人は念を押す。
「なんでノブナガ……」
雰囲気は完全に暗い。
こんな何十億いる人間の中でノブナガなのか。
そう答えのない問いを必死に考え込む。
沈黙がこの空間を襲う。
決して良い沈黙とは言えない。
誰もが何か話さなきゃ、この空気を壊さなきゃと必死に考える。
しかしこの環境を打破するようなことは到底不可能。
そんなこんなでほぼ話すこともなく目的地に到着する。
車のようなものから降りると、人間とほぼ同じ建物が並んでいた。
そして大事なのは『ほぼ』。
大きさが全て二倍くらいの大きさになっている。
「よっしー助けに行くかぁ」
俺はオオギン界に足を踏み入れ――。
「何してるのムネト! まだ私たちは待機でしょ」
実乃は俺の腕を引っ張って車のようなものに入れる。
「流石馬鹿力」
「うるさい」
「んでどうするんだ?」
「えっと……」
和人はとある紙に目を通す。
あれ……それ俺もらってないんだが……。
「まず特王と如乞が交渉に向かうらしいよ。それで無理だと言われたのなら俺たちが突入。戦争だね」
「おう」
俺たちは車(のようなもの)の中で祈った。
神はいる。だから祈るのだ。だが紙は無い。
「じゃあ付けよっか」
和人がそう言うと、俺以外全員が頷き、車の真ん中に映像を映し出す。
そこには、見覚えのある特王、如乞が映し出される。
反対側にはオオギンが座っていた。
どうやら交渉しているところを何かしらでリアルタイムで映し出しているらしい。
♦
「お願いします。ノブナガを返してください」
「それは出来ませんねぇ。うちだって事情がありますので」
如乞と特王はオオギンに対して深く頭を下げる。
「無事なのですよね?」
「さあねぇ」
「……」
「その交渉をするためにここまでやってきたと?」
「はい。戦う意思はありません。お願いします」
再び頭を下げるが、オオギンは見向きもせずにどっしりと足を組む。
「まあそれなりに、対価を払うのだったら構わないですけどね」
その言葉に如乞と特王はホッと胸を撫でおろす。
この言葉で確信したのだ。
ノブナガは生きていると。
「と、言いますと?」
「人間が私たちオオギンの奴隷となる……とかね」
「馬鹿な事を……」
特王は呆れてそっぽを向く。
「なあに。バカな事ではない。人間はこの世界では最弱。普通に生活していればいつかどこかに叩かれるのは目に見えている。ならば早いうちにオオギンの奴隷となっていればいいのだよ」
「最弱だと?」
「知らないのか、バカだな人間どもは。ウィークスポイントだよウィークスポイント」
「……それがどうした」
「この世界の生物は60種類。その中でウィークスポイントが最低点なのが人間。人間のウィークスポイントが2800。人間の一つ上の生物、
その言葉を聞いて如乞と特王は唖然とする。
ウィークスポイントを上げる方法は基本的に三つ。
一つ目はシンプルに生物を絶滅させること。
二つ目は人間全体の知識を向上させること。
三つ目は神にこの俺たちは強いぞと見せつけること。
何かしらの生き物を絶滅させればウィークスポイントが10000入ってくるらしいが、絶滅させるのにどれほど苦労するかは誰だって分かるだろう。誰だって……ね。
「ちなみに、俺たちオオギンのウィークスポイントは20000な?」
特王と如乞は沈黙する……。
「じゃあさ、一週間以内にウィークスポイントを10000上げてみろよ。そうしたらノブナガを返してやるよ」
「そ、そんな、無理に決まって……」
「ならば戦争するか?」
「そ……それは……」
♢
「……だめ……そうだね……」
実乃が一番に言う。
「戦争……しないほうが良いのかな」
「……はぁ。人間って、弱いのか」
「違う……人間は弱くない……」
俺は唇を噛み締めた。何でかは正直分からない。
けど、オオギンに対して怒りが込み上げてきたのは確か。
こんなこと……初めて。
「俺、行ってくる」
「どこにだよ?」
「特王と如乞のところにだ」
俺は皆の反対を拒否して交渉場所に向かった。
何をしているんだ俺……。
俺はバカだ。だからこれくらいの事しか方法が思いつかない。
けど、そのバカの俺だって分かる事がある。
ノブナガは俺の大切な仲間。
そいつを使って俺たち人間を遊ぶような真似、絶対に許さない。
俺は無心で走り続けた。
もう一度言う。神はいる。
我武者羅に走り続けた俺だが、何となくここだと誰かが指し示してくれたような気がする。
俺は扉の前でふぅと息を吐く。
絶対に……取り戻す。
俺は大きな扉を思いっきり開いた。
「……」
「いらっしゃいませー。一名様でよろしかったでしょうか?」
ち、違うだと……。
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