第三章 新たな経験

第14話 他生物。人類出陣といきましょう。

「た、助けないとっ!」


 美鈴は化け物の前に飛んでいく。


「……誰だおめえ?」

「姫月美鈴よ……その男を返して」

「うるせえんだよ!」


 俺も歩きながら美鈴の元へ寄る。


「ちっ、雑魚が二人」

「こいつらも連れ去ってやろうぜ」


 化け物同士で会話している中、俺は無言で化け物に駆け寄る。


「おーい、ノブナガー?」


 化け物の元まで駆け寄り、化け物の手に持っているノブナガに話しかける。


 美鈴は俺の行動を見るなり声を荒げる。


「何してるの!」


 その声が聞こえた時にはもう遅い。


「死ねっ!――」


 上から化け物の鉄槌が俺の頭に触れる。

 それと同時に後ろから猛スピードで突っ込んでくる。


 ブシュゴワッ!


 鈍い変な音が走る。

 俺は無事。何があった……。


「本当にバカ……」


 隣を見ると誰だったか……まあ誰かが立っていた。


「誰」

「如乞の顔くらい覚えときなさいよ!」

「ああ。夏さん」

「冬よ!」

「……」

「雪よ!」

「自分で間違えた……⁉」


 俺も自分の名前を時々間違えるが、こんなにも堂々と間違えるなんて逆にかっこいいな。


「……あなたが変なこと言うから!」

「そんなことよりどうしますか? この状況」


 そういうと雪は冷静さを取り戻して化け物に目を向ける。

 弾かれた手は傷一つなく、化け物自体もまだピンピンしている。

 そして片方の手にいるノブナガもがっちりと未だにホールドしてる。


「くっそ……人間の二番手か……一旦退散するぞ」


 化け物は空へ飛んでいった。

 空へ飛んでいった。

 空へ飛んでいった?


「ノブナガ……」


 美鈴は膝から崩れ落ちる。


「ごめんなさい……私……」

「いえ、如乞様は助けてくださいました」

「……って、ムネト?」


 俺は高くジャンプする。


「何してるの?」

「いや、俺も飛びたいなぁって」

「はーぁ……」


 雪と美鈴は同時にため息をつく。


「何でこの人はこう……なんていうか……危機感がないのよ」

「さあ……」


 俺は空を飛べないことを確認すると、歩いて化け物が飛んでいった方に向かう。


「ちょっとどこ行くの?」

「いや、ノブナガを助けに……」

「馬鹿? 一人で?」

「うん」


 俺は雪の助言を無視して再び歩き出す。


「待って! 本当に死ぬわよ……」


 雪は俺の腕をつかむ。


「痛い痛い痛い痛い痛い……」


 そう言うと「あ、ごめんなさいねっ」と言って手を放す。


「大丈夫。ノブナガを人類は見捨てたりしない。直ぐに救助部隊を要請するわ」

「おう、ようせいしてくれ」

「絶対意味わかってないよね」

「けど、助けてくれるんだろ?」

「まあ、そうね」

「ありがとうございます」

「……」


 再び沈黙。


「……まだですか?」

「何が?」

「納税」

「要請ね……ってそんなに早く来るわけないでしょ」

「……いつきますか?」

「明日には行きたいね」

「……分かりました」

「じゃあもう今日は帰りなさい」


 俺と美鈴はコクリと頷く。


「あとね」

「はい」

「そのポケットは何?」

「あー。モリグラティスの実です」


 俺はポケットからモリグラティスの実を取り出すと一粒雪に差し出す。


「……」

「あ、ありがとう」


 渋々雪は受け取る。


「ごめん。帰っていいよ」


 雪はそのモリグラティスの実を眺めながら呆れたように言う。




「何か、ごめんね」


 帰り際、美鈴は申し訳なさそうにこちらを伺う。


「何がだ?」


 美鈴はあっ、と察したような顔をする。

 何を察したんだ? ねえ……?


「今日はありがとうね」

「うん。また行こうな」

「……いいの?」

「もちろん。なんなら今から行くか?」

「もう夜だよ?」

「それもそうだな」


 そう言って俺たちは最後の挨拶を交わし、手を振って解散する。




 次の日、俺たち『誠』は政府によって収集された。


「おい、ムネト? 何があったんだ?」

「ねえ、ノブナガは?」


 実乃や桃太郎から様々な声が飛び交うが、俺が知るわけがない。多分。

 俺は何を言っているのだと首を横に振ると、桃太郎と実乃は察したように俺に問うのを諦めた。ねえ……だから何を察してるの?


 すると先生がみんなに向かって口を開く。


「知っている者もいるかもしれないが、三誠の異超人である『ノブナガ』がオオギンに誘拐、捉えられた。それを今日は救助するべく部隊を要請した。初の他生物との戦いになるかもしれない」


 オオギンとはノブナガをさらった生物の事だろう。


 この事を聞くと桃太郎と実乃は慌てて口を塞いだ。


「う、嘘でしょ……ノブナガ?」

「……」


「こちらの大まかな戦略を発表する。まずは特王、如乞を先頭としてオオギンに話を要する。こちら側はまだ戦う意思がないと言ってな。そしてノブナガを返してほしいと交渉する。無理ならば無理やりにでも突っ込む……細かい所は移動中に説明するとする」


 その言葉に誰も反論することなく従う。

 誰もが怖いだろう。死ぬかもしれない。しかし逆らう事も出来ない。

 そしてただの三誠だったらいいもののノブナガは異超人。かなりの高ステータス。

 見過ごすわけにも行かないのだ。


 収集された誠300名と特王と如乞。この302人で初めて他生物へ乗り込む。

 戦力はどうだろうか……。

 ノブナガでも太刀打ちできなかったあの三体が、オオギンの中でどれほど強いかどうかは確かめようがないが、人間より強いのは俺でも分かる。

 異超人が人間にどれだけいるのかは知らないが、今回はその活躍に期待することになるだろう。


「それでは、移動を開始する――」









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