第13話 沈黙。初めてではありませんでした。

 日曜日。今日は美鈴と二人でどこかに行く約束をしている。

 だが俺は分かっている。


 ノブナガが言っていた。美鈴は俺を狙っていると。

 確かになんの前触れなく二人でなんて違和感がありすぎる。


 俺は護身用にポケットの中にモリグラティスの実をパンパンに詰めておいた。

 これでもし美鈴が俺を殺そうとしてきたとしても大丈夫だろう。


 念のため俺は、待ち伏せされて殺されないよう、一時間前から約束した場所に到着している。


 約束の時間、三十分前になった途端、美鈴は姿を見せた。

 約束の時間三十分前は早すぎる。やはり先回りするつもりだったのだろうか。


「えっ! ムネト君。まだ三十分前だよね?」

「そうだ」

「ごめんね……待った?」

「待ってない。いや、そんなことより……」

「な、何かな」


 俺はポケットからモリグラティスの実を取り出す。


「勝負だ……」


 先手必勝。俺を狙っているなら先にこちらから仕掛ける。

 今日のためにモリグラティスの実を集めてきた。

 俺はモリグラティスの実で……。

 モリグラティスの実?


 ちょっとまて……これでどうやって戦うんだよ……。


「え? 勝負?」

「俺を狙っているんでしょ?」

「……狙ってはない……いや狙っているのかなぁ……でも、勝負はしないよ……」

「じゃあその剣は……?」

「これは両親が一応なんかあった時のために持ってったほうが良いって……」

「なるほど」


 どうやら俺は勘違いをしていたようだ。


 俺はモリグラティスの実をポケットにしまってホッとする。


「悪い、行こうか」

「うん!」


 俺たちは目的地に向かう。

 どこに行くかは完全に美鈴に任せっきりなため、俺は知らない。

 少し時間を食ってしまったというものの、まだ予定の時間よりも何十分か早い。


「それにしてもあれだな、その剣めっちゃかっこいいな」


 俺は歩きながら声を掛ける。


「うちの両親、剣とか結構っちゃうんだよねー」

「デコっちゃう?」

っちゃうの」

「デコっちゃうの?」

「剣をデコる人なんて見たことないよ?」

「それもそうだな」


 そうこうしている間にすぐに目的地に着く。


「ここは?」

「ただのカフェだよ?」

「ほう。確かにこの世界の飯とか飲み物とかあんま知らんな」

「でしょでしょ?」


 美鈴は嬉しそうに笑顔を見せる。


 俺たち二人はカフェの中に入る。


 中に入ると共に、甘いような苦いような少し独特な匂いが鼻孔をくすぐる。癖がある。でも全く気にならない。むしろ心地いい。

 茶色ベースの壁紙はその匂いにマッチしてここにいるだけでもう満足。


「よし帰るか」

「えっ、まだ入ったばっかだよ?」

「それもそうだな」


 俺たちは店員に案内されて席に座る。


 良く分からないので注文も全て美鈴に任せる。


「ねえ………ムネト君」

「何だ?」

「好きな人とかって……いる?」


 美鈴が緊張した表情を見せながら俺に問う。


「しいて言うならノブナガかな」


 俺が少しドヤ顔でそう言うと、美鈴は息をホッと吐く。


「そうだね……聞いた私がバカだったかもっ」


 嬉しそうに美鈴は笑った――。



「ねねっ、ムネト君はどこか行きたいところないの?」

「そうだな……」


 俺たちはカフェで少しの時間過ごしたのちに、特に行き先があるわけでもなくブラブラと街を歩いていた。


「鍛冶屋とか言ってみたいかも」

「鍛冶屋。いいよー」


 鍛冶屋というチョイスは少し微妙な気もするが、そんなことより美鈴の腰に刺さっている剣がかっこよすぎる。俺も剣欲しい……。


「着いたよ」


 軽く数分歩いたところに大きな木造で建てられた鍛冶屋があった。


 中に入ると様々な武器が並んでいる。


「うっわ……すげぇ……」


 思わず声を漏らしていると、店員と思われる男がさっと駆け寄る。


「その服……まこと……じゃないよね?」


 俺は首を傾げると美鈴が前に出る。


「そうです」

「……誠様がこんな店に来られるなんて……」

「いえいえそんな……」


 俺は美鈴に誠とはなんぞやと問う。


「誠っていうのは、一誠、二誠、三誠の人の事だよー」


 なるほどな。まとめて誠という事か。


「どうぞどうぞ、好きなの取っていってくださいな」

「え? 良いんですか?」

「もちろんですとも。好きなだけ差し上げますよっ」


 男は声を弾ませてニコッと笑う。

 俺はそれを聞いて店の隅から隅まで武器を眺める。


「おお……これかっこいいな」


 俺は一本気に入った剣を見つけるとそれを手に持つ。


「重っ!」


 両手で支えるのでやっと。

 こんなもの振って戦えるわけがない。

 美鈴は、そんな俺をみて俺が持った剣を見る。


「そんなに重いのね……」


 そういって恐る恐る美鈴もその剣を持つ。


「……」


 美鈴はその剣を片手で持ち上げる。


 そして変な沈黙がこの店を襲う。


「何だと……」

「……」


 どうするんだよこの沈黙……。


 この店が静かになって気付く。外が何やら騒がしい。


「行きましょう宗人君!」

「う……ん」


 あの剣が持てなかったことが気に食わないが、何やらもっと大事件が外で起きているらしい。


 二人走って騒がしい場所に向かうと、見たこともない光景が広がっていた……。


「人間ども。前の世界はどうやらカスの集まりだったようだな。早くこの世界からも消えるんだな。ふはははははっ」


 そこにいたのは三人の……いや、三体の化け物。

 実際化け物かどうかわからないが、多分人間じゃない。

 身長は人間の二倍ほど……。

 初めでこの世界で人間以外の生物とあった……んだよな……。


「ど、ど、ど……どういうこと……?」


 美鈴は困惑して立ち伏せる。

 俺もいづれ気付く。


「えっ、え、あれって……ノブナガ……だよ……な……」


 化け物の手には意識を失ったノブナガの姿が見えた……。






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