第11話 夜。何か勘違いをしていました。

「えっと……嫌になっちゃって……」


 嫌とはつまり過保護な親がという事だろう。

 真面目と言われている美鈴に似つかわしくない答えに、一同不思議に感じる。


「なるほどねえ」


 実乃が腕を組んで考え込む。


「過保護な感じが嫌って親に伝わればいいわけだよね。それなら数日ここに残ったら、本気な感じが伝わるんじゃないかな?」


 和人たちの提案に実乃、桃太郎と頷き、賛同する。


「まあそのくらいが限界やろうな」

「美鈴もそのくらいで大丈夫かな?」


 実乃の提案に美鈴は少し悩みこむ。


「本当に迷惑じゃないですか……?」


 日数的に悩んでいるのかと思ったらこちら側の心配をしてくれているらしい。


「何言ってるの、大丈夫に決まってるじゃない」


 別に人数によって苦労することもない。

 モリグラティスの実だって無限と言ってもいいくらいの量がある。


「じゃあ、よろしくお願いします!」


 美鈴が頭を下げる。


 俺たちは美鈴を歓迎する。


「あ、俺モリグラティスの実が沢山なってるとこ知ってるんだけどさ、一緒に行かない?」


 俺は美鈴に問いかけてみる。


「じゃあ、行きます!」


 そう言って俺と美鈴は、残りの四人を置いてモリグラティスの実がたくさん生えている森に向かう。


 俺は美鈴の手を握りながら森の奥に進んでいく。


「えっと……大丈夫ですか?」


 遠回しに『迷子にならないですよね?』と聞いてくる。

 勿論大丈夫だ。

 大丈夫……だよな……


「迷った」

「ふぇっ?」

「ごめん」

「いえ。私は大丈夫ですけど……」

「こういうときってどうするのが正解?」

「とりあえず残りの四人の方を待ちましょう」

「分かった」


 という事で俺たちはこの場にとどまることにする。



 そして四人は夜になっても救助になることはなく、俺たちは行動を起こそうと考えていた。


 辺りは暗く、木や草が薄っすらと見える程度、決して良い状態だとは言えない。

 けれどもこのままこの状態を続けるわけにもいかない。

 ここで寝て明日行くという選択肢もあるといえばあるが、美鈴は多分こういう場所では寝れないタイプだ。それ故に移動することを推している。


「やっぱり……移動したほうが良くないですか?」

「ま、そうだな。移動するか」


 こうして俺たちは薄暗い夜に移動することにした。


 辺りも見えずらい中、森を抜けれるはずもなく……


「ここどこなんでしょうかね」

「そうですね……」


 もはや焦りすら感じない窮地に追い込まれていた。


「こうなったら最後の手だ……」


 そう言って俺は美鈴の手を掴んで全力で走り出す。


「な、なんですかこれ?」

「真っすぐ走ったらいつかは森終わるでしょ?」

「……」


 何か違うようなという顔をされたがどうでもいい。


 俺は走り続ける。

 疲れ果てれば、そのまま眠ることだってできる。

 少し申し訳ない気もするが、美鈴だってそうなれば寝ざるを得ない。


「って、ここって……」

「お! 家だ! 人いるのかなぁ」


 俺は数分後、人が住めるくらいの大きな家を見つけた。

 そして俺は、何故か嫌がる美鈴を少し強引に連れて行きながら扉に立つ。

 まあ嫌がるのも無理ないか、気味が悪いもんな……


「ダメですムネトさん! そこは私の家です!」

「ほえ?」


 そう言った時にはもう遅い。

 家の扉が開く寸前だった。


「……み、美鈴!」


 扉を開けたのはスラッとした女性。きっと美鈴の母だろう。

 その女性は直ぐに美鈴に抱き着く。


「ほーら、言ったでしょ?」


 やはり俺の一直線に向かって突っ走る作戦は間違っていなかった。


「もう! たった今捜索願を出すところだったのよ! 本当にもう……心配したんだから」

「怒ら……ないの?」

「当たり前じゃない。ごめんね美鈴……ちょっと我慢させすぎちゃったね」


 そして美鈴は直ぐにこっちを向く。


「ありがとう……ムネト君が強引にでも私の家に連れてきてくれなかったら、きっと今頃大変な騒ぎを起こしてしまっていた……」


 確かに俺が一直線に向かって突っ走る事を実行していなければ、もしかしたら大変な騒ぎが起きていたかもしれない。


「私に言ったら……多分私が逃げてしまうと思ったから、わざと私の家に向かっていることは言わずに嘘を付いていたってことだよね……」

「……そういう事だよ」


 と俺は言ったものの、正直内容が理解できない。

 美鈴がこういうところで寝れないタイプだと分かっていたことを、言わなかったことの事を言っているのかな? 多分。


「それにしても……何で私の家知ってたの?」

「何でって、たまたまだよー」

「たまたま知ったってこと?」

「ん、そう。ん? そう。多分」


 ちょっとよく分からないが多分そうなのだろう。





 最後、二人の間に生まれてしまった食い違い。それは後に大きな影響を与えることになる……。










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