第10話 初めまして。合ってました。

 その子は俺を軽蔑的な目で見てくる。

 何でだろう……俺、別に変じゃないよな。


「何で濡れてるんですか……?」

「さっき川に飛び込んだからなー」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫。俺、ムネト。よろしく」

「あっ、私美鈴みれいって言います」

「あぁ。美鈴!」


 間違いない。日本人の生徒で唯一会ったことのない人物だ。


「知ってるんですか?」

「うん。名簿で」

「もしかして学校ですか?」

「そうです」

「あー……なるほど」


 美鈴は何か察したように悲しげな表情を見せる。


「あの……すいません。あまり顔出せなくて」

「あれでしょ? 何か、色々と」


 何か実乃が言っていたことを思い出したが、具体的な何かは忘れてしまって出てこなかった。


「逃げた?」

「逃げましたねー……」


 思った通り今は家出の真っ最中らしい。

 過保護なだけあって見つかったらヤバそうだが……

 というか基本ステータスに『誠』付いているなら、親を無理やり吹っ切るのも不可能ではないはず。

 まあと言っても親だけどな……


「俺も協力するよ。逃げるの」

「っ……?」


 美鈴は驚きのあまり言葉にならない声を上げる。

 確かに知らない男に逃亡を協力すると言われてもいまいちピンとこないのは分かるが……そんなに驚くのか?


「いえ! 良いですよ別に……」

「大丈夫だって。一人よりはマシ。多分」


 多分と付けたのは念のための保険だ。


「貴方に迷惑が掛かってしまいますし……」

「いいよ別に。楽しそうだし」

「楽しそう?」

「何か、ワクワクしないか?」

「しないです」

「そうか」


 普通、こういうドキドキハラハラ感は楽しいはずなのに……

 変わった人もいるもんだ。


「お願いっ!」


 俺は下を向いて両手をパンっとくっつけて美鈴の前に持っていく。


「……本当に迷惑じゃないですか?」

「だから楽しそうなんだよー」

「そう……ですか。じゃあ、お願いします……」

「よっしょおあ!」


 ここから俺たちの脱獄生活が始まる。

 何か忘れている気もしたが、取り合えず今は置いておこう。


「モリグラティスの実って知ってるか?」

「うん」


「ん?」


「モリグラティスの実って知ってるか?」

「何で二回言ったんですか?」

「嘘……だろ……」


 どうやらモリグラティスの実で合っていたようだ。

 これは後でノブナガにも報告しなくては……

 ノブナガ……?


 俺はあることに気が付く。


「あー、俺サバイバル生活してるんだった……」

「……?」


 美鈴が首を傾ける。


「あ! 丁度いいじゃん。一緒にサバイバルしようよ!」

「待って! どういうこと?」

「まあこれば分かるって!」

「う……うん」


 流石に川を二人で川を突っ切るわけには行かないので、遠回りで向こう岸に向かう。

 俺は美鈴の手を掴んでグイグイと進んでいく。

 美鈴の手は温かかった。


「その首輪、似合ってますね」

「そうだろ?」

「どこのですか?」


 俺はこの首輪との出会いの日を思い出す。

 忘れることはない。


「土のだよ」

「土?」

「そう土!」

「……」


 そうしているうちに、俺たちは向こう岸、つまりノブナガがいる場所まで付く。


「何? 攫ってきたの?」

「うん」

「いや、突っ込めよ……」


 女の子をみるなり、実乃が詰まらなさそうに呟く。


「って! 美鈴ちゃん?」

「あ! 実乃ちゃん!」


 どうやら顔見知りのようだ。

 あ、前言ってたっけ。


「何で美鈴ちゃんを連れてきたの?」

「脱獄してるんだってよ」

「真面目ちゃんでも捕まることがあるんだな」


 桃太郎が珍しいものを見るような目つきで美鈴を見る。


「家出だよ……」

「え! 家出だったの?」


 あー。そうだった。家出だった。


「……何だと思ってたのかな?」

「だから脱獄……」

「え……」

「大丈夫だ。ムネトはこういうやつだ」


 ノブナガがフリーズした美鈴にアドバイス(?)を送る。


「な、るほど……」

「んで、それで呼んできたってわけね」

「そう。丁度俺たちも丁度サバイバル生活してるんだし丁度いいと思ってね丁度」

「多いな丁度が」

「んー……」


 ここで和人が腕を組んで悩みこむ。

 どうやら和人は乗り気では無さそう。


「余り大事おおごとにするのは好ましくないよ……」


 確かに、俺たちは最低でも数週間はここに残る。そのお陰で美鈴も数週間は安全に過ごすことが出来る。しかし、長い間帰ってこない子供を放置する親なんていないし、ましてや過保護の親なんて、大事おおごとになったっておかしくない。

 そうなれば今以上に過保護になる可能性だって無いとは言い難い。


「んー……難しい所よね……」

「って、美鈴はなんで家出したんだ?」


 桃太郎が思い出したかのように美鈴に聞く。

 真面目らしい美鈴の事だ。よっぽどのことがあったのだろう。


 しかし、そんな俺の考えを大きく上回る答えが美鈴の口から飛び出すことになる。





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