第8話 ノブナガは凄い。俺だけではありませんでした。

「なぁ……これほんとに食えるのか?」


 桃太郎が俺たちに向かっていつもより低いトーンで話す。

 桃太郎が手に持っているのは他でもない。モリグラティスの実(仮)だ。


「大丈夫だって! モリグラティスの味するからさ!」

「まじでわかんねぇんだよ! それ」


 桃太郎は恐る恐る口に運ぶ。


「モ……」

「モ?」

「モリグラティスの味だ……」

「だろ?」


 俺はここで確信した。

 この実の名前は100%モリグラティスの実だ(多分違う)。


 そして、サバイバル生活初の夜が始まる。


「もしかしてだけどさ……お風呂ない……?」


 実乃が突然思い出したかのように訴える。


「無いな」

「うん。無い」


 俺とノブナガが口をそろえてそう言うと、この世の終わりのような顔を見せる。まあもう一回終わったんだけどね。


「確かに、女の子にとってお風呂無いのは厳しいかもね」


 和人がすかさずフォローに入る。

 実乃も大きく頷く。


「んー。って言ってもなぁ、川……とか無いしな」

「モリグラティスの実は、水分を沢山含んでいるから探す必要もなかったしなぁ」

「探すか」

「だな」


 俺たち五人は川を探すことにした。


「川っていってもさぁ、冷たくねぇか?」


 俺は無言で歩くのが嫌いなので、実乃に質問をしてみる。


「まぁ多少冷たさは感じると思うけど、らんのお陰で問題ないわね」

らん?」

攻守速乱こうしゅそくらんの乱よ?」

「何だそれ?」

「基本ステータス。今日、一応授業でもやったんだけど……」


 俺は実乃の発言にポカンとしていると、直ぐに察したように話し始める。


「適応能力。痛みを軽減したり、匂いとか気配とか、魔法適正とか……そういう細かい部分の話。私は攻守速乱の中で一番乱が大切だと思ってる」

「なるほどなるほど……」


 すると横から桃太郎が口を挟む。


「俺、850もあるんだぜぇ!」

「850! 私620よ……」


 なんの数字なのかさっぱり分からない。


「なあ、この際だから皆で基本ステータス値言い合わねぇか?」

「いいね。賛成!」

「俺も賛成だ」

「俺も三誠だ」

「うん、知ってる……あ、僕も異論はないよ?」


 全員の意見が一致。これから基本ステータス値とやらを言い合うらしい。

 確か俺は……


「じゃあまず俺からな!」


 桃太郎が元気よく手を上げる。


「えっと功が430、守が620、速が220、乱が820だぜ!」

「トータル2090……三誠にしてはかなり高いね」

「だろ……?」


 俺は懸命に思い出そうとするが、思い出せない……


「じゃあ次僕行くよ」


 和人が手を上げる。


「功が660、守が900、速が700、乱が540です」

「ふふぇ、守が900とか……」

「なんかあったらこいつを盾にして逃げるしかないな」


 和人がやめてよーという顔で苦笑いする。


「次私ね」


 実乃が手を上げる。


「功が910、守が300、速が800で、乱が620」

「馬鹿力……」


 桃太郎はボソっと呟くと、実乃はギョロっとした目つきで桃太郎を睨む。


「じゃあ俺」


 ノブナガが手を上げる。


「功が5200、守が4000、速が3020で乱が6500だ」


 そういった途端、一同唖然とする。


「お前……三誠だよな?」

「一応な」

「それじゃ……い、一誠より上じゃない?」

「う、嘘だろー流石に……」


 そう言って桃太郎がノブナガの肩をポンと叩く。


「ナガ君」


 そこへ和人が口を開ける。


「何だ?」

「もしかして、三誠の横に『』ってついてなかった?」

「ああ。ついてたぞ?」

「それだよ!」

「何だ、ってそんなにすげぇのか?」


 全員が和人の言葉に耳を傾ける。


「えっと、自分で調べたことなんだけど、基本ステータス、『下人』、『中人』、『上人』、『三誠』、『二誠』、『一誠』、『如乞』、『特王』に次いで、異超人と定められたものの中からから、『とく』、『』、『ごく』が付くことがあるんだ。その人たちは通常の基本ステータスと、比にならないくらい向上するんだ」

「え、それ凄いってことよね?」

「凄いなんてものじゃないよ。異超人っていうのは、世界を変えるほどの革命とか、知名度とかしない限りならない。」

「げっ! ナガ君何者!」


 実乃が苦笑いをする。


「って言われてもなぁ」


 ノブナガは頭を掻く。

 にしても、ノブナガってそんな凄い奴だったんだなぁ。


「まさかとは思うけどさ……」


 和人が震えた声でノブナガに聞く。


「ノブナガって言ってたよね?……」


 実乃は何かを察する。


「もしかして……織田信長……?」


 暗闇の中沈黙が続く。

 気付いた時には俺たちは川を探す足を止めていた。


「そうだけど」


 一同再び唖然とする。


「う、嘘……でしょ?」


 俺は訳も分からず混乱する。

 だが今回は俺だけではない。


 桃太郎も一緒であった……。



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