第7話 試練開始。俺たちだけでした。

 意外とあっけなく午前の授業が終わる。


 内容は良く分からない。


「なぁムネト?」

「なんだ?」


 授業が終わった途端ノブナガが一番に駆け寄ってくる。


「お前の首輪は大丈夫なのか……?」

「何言ってるんだよ、大丈夫じゃなかったらとっくに俺死んでるよ」

「それもそうだな」


 俺はクラスを見渡すと、一つの疑問が浮かぶ。


「和人さ。日本人6人だって言ってたよな」

「うん」

「居なくね?」


 名簿を見ても思われるものは6人。あとは全てカタカナ。もちろん俺たちはカナカナなのだが……。


 ムネト

 ナガ

 藤達和人ふじたつかずと

 桃太郎ももたろう

 村上実乃むらかみみの

 姫月美鈴ひめつきみれい


 ……


 最後の人はいくら教室を見てもいない……


「休みなのかな?」

「多分そうだろうな」


 俺たちはその後、午後の授業と称してよくわからない内容の話を長々として、俺たちの長い一日は終える。


「なぁ、授業の意味わかったか?」

「大体は」


「俺とノブナガは二人で俺の住処すみかに集まって話をしていた」


「お前自分の部屋の事住処すみかって言ってるんだな」


 どうやら心の中の声が漏れてしまっていたらしい。

 これは……漏れてないよな?


「何て言ってたんだ?」

「えっとね」


 ノブナガは考え込む。


「衣食住の事が基本だったね。人間はこれまで動物をぶち殺して生活をしてきたからね」

「まあそうだな」

「それを応用するためには、こうしたら出来ますよー的な」

「じゃあ俺には関係ねえな」

「ありありだよ」


 そう言ってノブナガは時計を見る。


「じゃあ、そろそろ俺戻るなー」

「らじゃ」


 俺は一人になるなり、直ぐに眠りについた。



「おっは!」

「おはよー」


 俺たちは昨日と同じく、バカみたいに早い時間帯から朝食を食べに向かう。


「ね、ムネト君、ナガ君聞いた?」

「何がだ?」


 横から小走りで駆け寄ってくる和人。


「今日なんかあるっぽいよ?」

「何だよそれ」

「なんか試練的な……」

「マジか、楽しそうだなそりゃ」

「楽しくないよ!」


 和人が珍しく弱気な事を言う。


「やったことあるのか?」

「うん。前はボロボロ……クタクタだよぉ……」

「そうなのか」


 そして俺たちは席に着くなり、見覚えのある二人が駆け寄ってくる。

 桃太郎と村上実乃だ。


「その試練って5人グループだよな?」


 桃太郎が口を挟む。


「うん。確かそうだったね」


 今ここでこの場にいる全員が察しただろう。

 俺はここにいる人数を数える。


「ワン、ツー、スリー、よん、ごー……」

「途中で諦めんな……」

「お! 5人じゃねえか!」

「そう。折角だから日本人同士組みたいと思ってね」


 村上実乃が言う。


 もう一人の子は……。

 今日もいないのか。


「そうだな。あと、なんて呼べばいいんだ?」

「俺は太郎でいいぞ」

「あ、そっちなんだな」

「私は実乃でいいわ」

「おう、太郎、実乃、これからよろしくー」


 なんかこの会話昨日もした気がする。


 そしてまた授業が始まる――。


「じゃ、今日は君たちに試練を始めてもらう。前から伝えた通りもう5人組は作ってあるだろう」


 言ってたっけ……そんなこと。まあいい。事実、もう5人組は作れている。


「そして今回やる内容は……」


 和人が言っていた通り、以前にも試練は行われていた。

 それがあってか、緊張感が教室中に漂う。

 誰もが教師の言葉に耳を傾け、唾を飲み込む。


「3週間、手に何も持たずにサバイバル生活を送ってもらう」


 周りがこの過酷な試練に唖然としている中、唯一乗り気な二人がいた……。

 もちろん俺たち二人である。


 そう。俺たちは数か月間、難なくサバイバル生活をやり遂げていた。

 苦痛というより、もはや楽しかった。


「そんな……3週間も……出来るわけ」


 後ろの方からそんな声が聞こえる。


「大丈夫だ安心しろ。3週間何も食べなくても死なない」


 まあ精神面的には死ぬだろうが、3週間なにかを食べなくても死なないことは確か……だよな。


「っていうか……これになんの意味があるんだよ!」

「何度も言うが、君たちは人類にとって大切な分際だ。そのためにも、万が一今の衣食住が無くなったとしても、生きている能力を身に付けなければならない。そのための訓練だ」


 その言葉に誰もが納得する。

 もちろん二人を除いてだ。

 まあ納得というか、ほぼ説明を聞いていない。


「じゃあ説明は終わりだ。皆外へ出ろ」


 生徒はやる気なさげに、のそのそと椅子から立ち上がる。

 もちろん二人を除いてだ。


「よし、まずは何も持っていないかどうかチェックを行う。武器も駄目だぞ。服だけだ」


 そう言い、先生は生徒を見回す。


「後で持っていると分かったらどうなるか分かるよな?」


 分からない。


 そして先生がパンッと手を叩く。


「常に5人でそろって活動するように」


 いきなりすぎて誰もが混乱しているんだろう。

 も、ち、ろ、ん、二人を除いてである。


「よし、集まったか? 作戦会議をしよう」


 俺たち5人に和人たちが仕切る。


「えっとじゃあ……何をするのが、良いんだ……?」


 三人で首を傾げ合っている。

 すると桃太郎があることに気づく。


「二人ってさ、学校に通うまで何してたんだっけ?」


 全員がその言葉に耳を傾ける。

 俺たちは顔を見合わせ、ノブナガが俺が言う。と前に出る。


「野生生活だ」

「つまり……それって」


 全員が目をキラキラとさせる。


「サバイバル生活だな」

「おー!」

「こりゃ、勝ったな!」


 そう盛り上がっているも束の間、あとの三人は後悔することになる。







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