第3話 織田信長。よろしく第二の世界
「うひょー! 広おお!」
広がっていたのは果てしなく続く草原。木も無く、余計なものは一切ない真っ緑は見たこともないくらい綺麗だった。
真っ緑? まあいいや。
俺は辺り一帯を見回す。
するとそこには、一人の男が立っていた。
誰だとじっと見つめれば、相手もこちらを向き、ばったりと目が合う。
「おっ?」
目があうなり、男は四つん這いの状態で俺の方にササっと駆け寄る。
「君! 名前は?」
「えっと、左河宗人だ。多分」
「多分ってことは、あんたも死んでたんだな!」
「どういうことだ? 俺は生きてたぞ」
良く分からない人もいるもんだ……。
「そうか……まあいい」
「んで、貴方の名前は?」
「俺の名前は織田信長だ。よろしくな」
「おう。よろしく」
織田信長……どこかで聞いたことがあるような気もしたが、気のせいだろう。
「ランダムの場所に生き返るって言われてたから助かったよ。誰かいて!」
織田信長という男は髭が生えており、特殊な髪形をしている。
そんな容姿とは真逆に、案外親しみやすい印象を受ける。そして若い。
「因みに、基本ステータスの分布は?」
「何だったかなぁ」
俺は一度さっきまでの出来事を思い出す。
「忘れたわ」
たったさっきの事を思い出せない俺に少し嫌気がさす。自分が
「まあいっか、一緒に頑張ろうな!」
「おうよ」
俺たちは熱い握手を交わした。
「それより、腹、減ったな」
「そうだな」
いきなり気の抜けた声で信長は切り出してきた。
「ちょっと食える物探さないか?」
「おうよー」
俺たちは果てしない草原を歩き始めた。
「信長はさ、第一の世界では何をしてたんだ?」
「そうだなー。戦い……かな」
「そりゃ大変だったな……」
何の戦いなのだろうか。
「えっと、つまり宗人はギリギリまで生きてたんだよな? その時の日本はどんな感じだったんだ?」
「普通だよ。普通に寝て、起きて、学校行って、帰って、テレビ見て、寝る」
「テレビ?」
「あー。テレビっていうのは……」
俺は言葉に詰まる。
信長はテレビが無い時代に生きていたという事。テレビを説明しろと言われても難しすぎる。
「んー。すごく難しいんだけど、なんか四角くて黒い」
「全く分からんなぁ」
信長は首を傾げる。
「あと、あんまピンとこないと思うけど、動く絵って感じかな」
「四角くて黒いよりはマシだと思うんだが」
「そうなのか?」
「知らん」
そう雑談しながら歩いていくと、案外すぐに森のような場所にたどり着く。
「この木の実食べれるのかなぁ」
信長は、木にぶら下がっている赤色の木の実を手で撫でながら呟く。
「どれどれ?」
俺は信長の手に持っている、木の実を奪って口の中にポイっと入れる。
「だ、大丈夫か!」
信長は少し焦った声を出しながら俺の肩に手をのせる。
「大丈夫だよー」
俺はモグモグ口を動かしながら答える。
「ど……どうだ……」
「んー。なんかモリグラティスのような味だな」
「何だよモリグラティスって……」
「知らん」
信長は恐る恐る木から同じ実をむしり取って、口の中に運ぶ。
「……モリグラティスかもな」
「だろ?」
どうやらモリグラティスで通じるらしい。
ふと俺は地面に目をやると、大きめのドーナツのようなものがあることに気づく。
「これは何だ?……って硬っ」
俺はそのドーナツ(仮)を持ち上げてみると、意外と軽く、硬いものだった。
そして俺はここで確信した。これはドーナツではない。
「首輪じゃねえの?」
モゴモゴとした声が少し遠くから聞こえる。
どんだけ食っているんだよ……。
俺は直ぐにその首輪を首に付けてみることにした。
このフィット感……最高だ……。
その首輪はしっかりと俺の首にジャストフィット。硬いと言っても気にならない硬さで、癖になりそう。
「おぉ! いいじゃん」
口いっぱいにモリグラティスな味がする実をほおばりながら信長は言った。
俺は笑顔で親指を立てて信長に突き出す――。
「月……なのか?」
時間はすっかり夜。
田舎に住んでいた俺にとって、虫の音が聞こえない夜はなんだかむず痒い。
この少し涼しげな風は、季節で言うと夏の夜だろう。暑苦しい昼間とは裏腹に、心地よさすら感じる夜間は、寂しいという感情を抱かせながらも、永遠と続きそうなまったりとした落ち着いた雰囲気を感じられる。
「月……なのかなぁ」
俺たちは草原に横たわりながら空を見上げる。そこにはどこか懐かしい、真っ暗闇にポツンと浮かぶ黄色い月。
まあ月かどうかはまだ分からないんだが。凄く……月に似ている。
「第二の世界があるってことは、第三の世界もあるのかなぁ」
信長は、俺にしか聞こえないくらいのボリュームで呟く。
もちろん誰もいない。しかし、これくらいが丁度いいと、声をそろえて言える。
「まあ、あるんだろうなぁ」
「第二の世界でも、人類は頂点に立てるのかねぇ」
「さあね」
沈黙が続く。
聞こえるのは虫の音でもなく、木々が擦れあう音でもなく、涼しげな風の音。
「俺さ、死ぬ前に仲間に裏切られたんだよね」
「そう……なのか……」
「あんな思いはこりごりだ。お前は、俺を見捨てないでくれよ……」
か細い声で信長が言った。
何か死ぬ前にあったのだろうか……。
「当たり前だ」
そう呟くと、暗闇の中、信長はニコッと笑った。
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