閑話4 運営さんはもどかしい

 カタカタカタカタ。

 カタカタ、ターン。


 PCファンのブオーンという低周波の合間から、キーボードを叩く音が聞こえる。


 その日は珍しく、電話をしている者も、話し合いをしている者もなく、その部屋は静かだった。


 カタカタカタ、ターン!


 やがて静寂に耐えかねたのか、一人の男が口を開く。


「班長」

「ん?」

「監視っていつまでやるんすか」

「ああ」

「ああ、じゃねえっすよ。数日って話はどこいったんすか」


 夜勤の度についで・・・にやらされる監視作業。始めは数日だけという話だったはずのそれは、二週間を過ぎても続いていた。


「開発チームがなぁ」

「開発チームがなんだっていうんすか」

「新しい街のリソース管理のほうが重要だと言ってきてなぁ」


 ターン!


「関係なくないっすか!」


 関係なくはない。

 NPC殺害が今後の大きな問題になる可能性も、新しい街に関連してリソース不足になる可能性も、現時点ではどちらがより深刻だとは断言出来ない。つまり、開発チームから見ての問題としては同質だ。

 そしてリソースの問題は、街の建築が進むにつれてタイムリミットが発生する。


「そんないつまでも監視とか、やってらんないっすよ」


 だが、そこには運営チームの『現状維持』への負担は考慮されていなかった。


「開発チームには伝えとくよ」

「伝えとくじゃねえっすよ。いつまでやるんですか」

「ああ」

「ああ、じゃないっすよ、ああ、じゃ。なら監視用に人追加してくださいよ。カメラの数が多すぎるんすよ。どっかでNPCが倒れてても、気づけませんよ。あれ」

「だよなあ」


 カタカタカタカタ。


「たのみますよ、本当にもう」


 カタカタカタカタ、ターン。


「よし、送った」

「なにをっすか」

「監視しきれないから早急な対応か、人員の増強をお願いしますってメール」

「え?」

「上のやつらも全員CCに入れてやったからな、これで動くんだろ」

「メールで大丈夫なんすか?」

「メールのほうがいいんだよ。聞いてないって言い張るヤツが出るからな」

「そういうもんっすか」

「そういうもんっすよ」


 ターン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る