15.異世界少女は石に出会う

 森の中をつらぬく街道を、のんびりと歩く。

 森に囲まれたサードの街から出ている街道だ。


 サードの街は、ここ数日騒がしい。

 かといって、森の中で寝るには、森のほうが騒がしい。

 いつもどこかで木を切る音が響いている。


 家が建ったら、そこでのんびりしたいところだ。

 建てるのには、まだまだ時間がかかるらしい。それまでは騒がしい街を離れるついでに、知らない場所を散策してみようと、街道を歩いている。


 道なりにしばらく歩くと、森を抜けた。遠くにはサードの街と同じような壁。おそらく壁の向こうは街になっているのだろう。

 そのまま歩いていくと壁の途中に門が見えてくる。

 やはり街のようだ。


「お前には、この街へ入る資格がない。出直して来るがいい」


 門の前に立っていた兵士の姿をした人形にそう言われる。

 言葉の前にマナの波動を感じた。サードの街のように、入るためのクエストがあるのだろう。


(面倒ね)


 少し道を逸れて、呪文を唱える。


我は宣言するアサーション。風よ運べ。『姿なき運びて』」


 風で自分の体を持ち上げて、壁の向こうへ。

 その間、兵士は門に立ったまま微動だにしなかった。


 カーン、カーン、カーン。


 街の中は石造りの建物ばかりが並んでいた。

 他の街では木造とレンガ造りがほとんどだったはずだ。正直なところ、サードより前の街の建物はよく覚えていない。サードで大工たちの話を聞いてから、回りを見回したくらいだ。

 そんな少ない記憶でしかないが、記憶のはっきりしているサードの街の建物に比べただけでも、石造りばかりだと言える。


 カーン、カーン、カーン。


 それに街の中がとても騒々しい。

 何かを打ち付ける音が途切れない。

 近くの塀の向こうを覗き込めば、そこでは石にクギのような物を何本も打ち込んでいた。


 カーン、カーン、カーン。


 一列に打ち込んではいるが、クギの長さと石の厚みがあってない。石の厚みのほうが、クギの長さよりも何倍も厚い。

 サードの街の加工所にもクギはあったが、それは木の板を止めるためのものだった。

 板の厚さよりも長いクギを使わなければ、板を止めることは出来ない。

 しかし、ここでは石の厚みよりも短いクギを打ち付けている。

 何をしているのかと、足を止めて眺める。


 カーン、カーン、カーン。


 一列に並んだクギを順番にひと叩き。

 クギが少しだけ石に刺さる。

 再び列の端から、順番にひと叩き。

 一つのクギを最後まで打ち込まずに、順番に一度づつ、少しづつ石に打ち込んでいく。


 カーン、カーン、ボグッ。


 何度目かの繰り返しの後で、クギが並んだ線にそって石が割れる。

 作業をしていた男が、クギを外し、割れた石の片方を横に除ければ、そこには綺麗な直線で石の断面があらわれた。


(石は切るわけではないのね)


 大工たちは木を斧で切ったり、ノコギリで切っていたが、石は違うようだ。

 街を歩きながらいろんな敷地を覗いてみれば、あちこちで石を加工している人がいた。プレイヤーのこともあれば人形のこともある。

 大半はクギか、もう少し大きいものを手に、逆の手にはハンマーを持っていた。

 斧を持っている者も、ノコギリを持っている者も、一人もいない。

 木の加工方法とはまったく違う、石の加工を眺めながら街を歩く。


 カン、カン、コン。


 ある敷地で目に止まったのは、女性のプレイヤーだった。

 石を加工している者は多くいても、男性ばかりで女性で加工している者はいなかったのだ。


(木の加工も男性ばかりだったし、何か理由でもあるのかしら)


 それでも木の加工はカグヤの他に、ダウンの村から連れてきた中に女性がいた。

 石の加工をしている中で、女性を見たのはまだ一人だけだ。

 その女性は石の塊に大きなクギのようなものを、ハンマーで打ち付けている。


「なにか用かよ」


 当の女性が手を止めて、声を掛けて来た。こちらを見る眼差しは、見る、というより睨むという感じだ。

 敷地を覗いているのが見つかったようだ。


「それは何をしているの?」

「見てわかんだろ。彫刻だよ」

「わからないわ?」

「チッ」


 これみよがしな舌打ちの後、指を指された方を見れば、数々の石像が並んでいた。

 敷地に入り込んで近寄って見れば、動物をモチーフにしたものが多いようだ。大雑把な造りのものも、細かいところまで作り込んでいるものも、頓着しないかのように雑多に並べられている。

 中でも一つは本当に細かい。毛の一本一本まで作り込んであるようだ。これが本当に石で出来ているのか、触って確かめたくなるくらいに細かい。

 一つ気になるといえば、マナが感じられないことだ。


「ガーゴイルではないのかしら」


 振り返って女性に尋ねれば、不思議そうな顔で見返される。

 普通、石の像というのは、屋敷の警備や監視に使う。魔石に魔法陣を組み込んだものを中核にした、動く像だ。

 この世界では違うのだろうか。


「これは動かないの?」

「あたしは石工だよ」


 動くか、動かないかで答えてほしい。


 しばらく会話を続けると、石工に動く像は作れないということがわかった。だが、出来上がった石像を『使役者』が動く像に変えることは出来るようだ。

 『使役者』は付与術を使える上位職だとも言われたが、この世界のルールはよく分からない。


 上位職というのは分からないが、この世界の魔法で動かせるのであれば、ガーゴイルにすることも出来るだろうか。

 以前、ゾンビから手にいれた魔石を取り出してみる。これでガーゴイルが作れるだろうか。すべて魔法で処理をすれば、この像は必要ない。だが、この世界のルールでもガーゴイルが作れるのなら、それも面白そうだ。


 そう考えていくつかの像を売ってもらうことにした。

 好きに選べと言われたので、奥のほうに置いてあった三頭身の可愛いらしい像を持ち出したら、ずいぶんとうろたえていた。なにか思い入れのある像だったのだろうか。

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