待ち合わせ
夏休みも終盤に差し掛かった頃、僕とこよみさんは大学へと訪れていた。
「はわあ……一か月ぶりやなあ……」
「そうですね……えっと、まだ少し時間がありますから、カフェでも行きましょうか」
「うん! 行く行く!」
「この前はランチでしたから、今日はせっかくですしケーキを食べましょう。結構美味しいんですよ?」
「はわあああ……楽しみ!」
僕達は手をつなぎながらカフェに向かう。
「今日は店内とテラス、どちらにします?」
「ウチ? うーんと……そや! 耕太くんが決めて!」
「僕がですか? えーと、そうですね……テラス席で可愛いこよみさんを見せびらかしたいですけど、逆にそのせいで他の男がこよみさんに付きまとわれることになっても困るし……よし! やっぱり見せびらかしたいのでテラス席にしましょう!」
「はわ!? もう……えへへ」
ということで、僕達はテラス席に座ると、店員がやってきた。
「いらっしゃいませ。ご注文はどうなさいますか?」
「ケーキセットを二つで」
「かしこまりました。ケーキと飲み物は何になさいますか?」
「こよみさんはどれにします?」
「ウチはねえ……イチゴショートとアイスミルクティー!」
「じゃあ僕はザッハトルテとアイスコーヒーで」
「かしこまりました」
メニューを下げ、店員が店の中へと入って行く。
「しかし、せっかくの夏休みでしたのに、旅行とか行けませんでしたね……」
「あはは、そやね。でもホラ、九月は祝日もあるしその……またどっか一緒に行こ?」
「はい! そうすると、しっかりと旅行の計画を立てたりしないと……!」
「うん……」
はあ……こよみさんと旅行かあ……。
さすがに海外とかは無理だけど、せめて温泉とか……。
こよみさんの浴衣姿、可愛いだろうなあ……。
「お待たせしました」
などと妄想にふけっていると、店員がケーキとドリンクを持って来てくれた。
「はわあああ……美味しそう……!」
「ごゆっくりどうぞ」
ケーキとドリンクを配膳すると、店員は店内へと戻って行った。
「さあ、食べましょう!」
「うん! じゃあ早速……」
こよみさんはフォークを手に取り、ショートケーキを一口サイズに切り分けて刺すと、その可愛い口へと運んだ。
「はむ……ん……これメッチャ美味しい!」
「あはは、良かったです。じゃあ僕も……」
そう言って僕も注文したザッハトルテを切り分け、一口食べる。
「うん……少し苦味も効いていて、コーヒーに合いますね」
「なあなあ耕太くん……はい」
いつの間にかこよみさんがフォークに刺したショートケーキを僕へと向けていた。
「あ、ありがとうございます。はむ……うん、こちらもなかなか……じゃあ、僕もお返しです」
僕も切り分けたザッハトルテをフォークに刺すと、こよみさんの口元へと運んだ。
「えへへ……はむ……これも美味しい!」
「あはは、やっぱりこよみさんは可愛いなあ……」
「はわ!? もう……耕太くんはしれっとそういうこと言うんやから……ありがと」
そんなはにかむこよみさんを眺めながら、僕達は待ち合わせの時間一杯までカフェで楽しんだ。
◇
「さて……それじゃノックしますね」
「うん」
僕達は待ち合わせ場所に時間通りに着くと、ドアをノックした。
……だけど、反応がない。
「あれ? おかしいな……」
仕方ないのでもう一度ノックするが、やはり反応はなかった。
試しにドアノブに手をかけてみると、鍵は掛かっておらず、簡単にドアは開いた。
「すいませー……え!?」
「全くもう! なんでせっかく私が育てた細胞を勝手に結合させちゃうのよ!」
「む? だがこうすれば面白い反応が見られたぞ? ここから発展させて……」
「あああああ! もおおおお! あの細胞をあそこまで変化させるのにどれだけかかったと思ってるのよ!」
中を覗くと、そこには怒鳴りながら頭を抱える先輩と、なにが悪いのか分からないといった表情でキョトンとしている飯綱先生……“元”怪人イズナソードがいた。
「……二人とも何やってるんですか……」
「ああ! 上代くん聞いてよ! コイツときたら、卒論用にわざわざ一生懸命育てたヒト細胞を、よりによってカブトムシの細胞と結合させちゃったのよ!」
「いやいや、上代くん聞いてくれ。実はちょうど窓から私のデスクにカブトムシが入ってきてな。これこそまさに天啓だと思ったわけだ。実際に試してみると、それこそ通常では考えられない反応が……」
「二人ともやかましいわ! 耕太くんが困ってしもてるやろ!」
やいのやいのと話し掛ける二人に対し、こよみさんが一喝した。
「大体ウチ達はアンタ等に呼ばれて二人の時間を潰してまでして来たんやで! それを出迎えもせんと!」
「なによー! 二人とも幸せなくせにそれくらいいいじゃないのよー!」
「うむ、その通りだぞ。幸せというものは皆で享受すべきだ」
「アカン……話にならへん……」
そう言って、こよみさんはガックリとうなだれた。
こよみさん……その気持ち、分かります。
「とりあえず飯綱先生、身体の具合はいかがですか?」
「ああ……おかげさまで、怪人になれない以外は何の問題もない。この胸も、左腕もすっかり元通りとなっているしな」
そう言うと、先生は左腕を見つめながら口元を緩めた。
実は六本木での戦闘の後、失意のまま飯綱先生の亡骸を眺めていたあの時、突然先生の身体に異変が起こった。
なんと、怪人から人間の姿に戻っていくと同時に、闘いで負った傷が修復されていったのだ。
そして、完全に人間の……飯綱先生の姿に戻った時には、胸と左腕は元通りとなった。
僕達は慌てて先生を確認すると、呼吸が……脈が正常に動いていた。
そうして生き返った先生を僕とこよみさん、先輩は司令本部に内緒で一旦先輩の部屋で意識を取り戻すまで匿っていたのだ。
そして今日、先生の身体の状況についての確認と、なぜこんなことが起こったのかを議論するために集まったわけだ。
「それなら良かったです、先生……」
「上代くんには迷惑をかけてしまい、本当にすまなかった……」
「い、いえ、そんな!」
深々と頭を下げる先生を、僕は慌てて起こす。
「それで、今回先生が元通りになった原因というか、現象というか……」
「それについては分からないのよね……私達も色々と調べてはみたんだけど……」
「……だが、私はヴレイピンク……君のあの武器、確か“ブリューナク”と言ったか……あれに秘密が隠されているのではないかと思っている」
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