反町一二三①

「……だが、私はヴレイピンク……君のあの武器、確か“ブリューナク”と言ったか……あれに秘密が隠されているのではないかと思っている」

「あの武器が、ですか……」


 あの武器もそうだけど、今回のこよみさんの変身に関しては、新装備の“ヴレイヴハート”によるものだ。

 そして、その“ヴレイヴハート”をこよみさんへと渡したのは、司令本部……。


「先輩、こよみさんの“ヴレイヴハート”について何か分かったりしますか?」

「うーん……それが、光機おじ……高田司令にも聞いてみたんだけど、詳細なスペックを含めて性能に関して教えてもらったけど、当然イタチソードに起こったようなことに関する情報はなかったわね」

「そうですか……」


 そうすると、“ヴレイヴハート”に開発者も知らないような思わぬ副次的な効果があるのか、それとも……。


「この“ヴレイヴハート”って、司令本部の技術部が開発したって言ってましたよね?」

「そや。司令がハッキリとウチにそう言うたよ?」

「ええ、私も司令からそう聞いているわ……上代くん、何か思い当たることでも?」

「あ、ああいえ、そういう訳ではないんですが……」


 だけど、僕には今回の件、誰かの意図が絡んでいるんじゃないかと考えている。


 だって、対怪人用に開発された“ヴレイヴハート”を、臨床実験もせずに渡すなんて到底考えられない。

 なら、初めからその効果についても予め承知しているはず。


 司令本部からイタチソードについて僕達が詰問されていてもおかしくないはずなのに、あれから既に一週間経っている今も、特にそんな話はない。


 つまり……司令本部が全て知っている上で見逃しているか、“ヴレイヴハート”の開発者がその効果を司令本部に秘密にしているかのどちらか、ということだ。


 ……いずれにしても、開発者の素性は調べておいたほうがいいな。


「先輩、すいませんが“ヴレイヴハート”の開発者が誰なのか、探りを入れてもらっていいですか?」

「オッケー、私もそう思ってたところだし」

「よろしくお願いします……あ、くれぐれも注意してくださいね? 司令本部にいる人達全員が僕達の味方とは限りませんから」

「……どういうこと?」


 僕の言葉に、先輩が訝し気な表情を見せた。


「……正直、僕は司令本部というか、その後ろにいる人達を信用しているわけではないですから」


 だって、ヴレイウォッチとタブレットを通じて僕達の行動を監視していたり、こよみさんに理不尽を強いたりするような組織、信用できるわけがない。


 そもそも、ダークスフィアと抗争を繰り広げている原因だって、政府が怪人の研究だなんて非人道的な真似をしたからなんだから。


「……分かったわ。気をつける」


 先輩は表情を引き締め、力強く頷いた。


「それと、飯綱先生にもいくつか聞きたいことが……」

「私か?」

「はい……目を覚まされた時にもお聞きしましたが、ダークスフィアは何がしたいんですか・・・・・・・・・?」

「……先日も答えた通り、私達のような怪人を生み出した日本政府に復讐するため、怪人のための国を、怪人でも安寧を得られる社会を創るため、だ……」


 先生は悲しそうな表情で、そっと視線を落とした。


「そこがおかしいんですよね。先輩、たしか先輩が高田司令から聞いた話では、怪人化計画の中止に動いていた日本政府に反発した“並井機関”が、それに対抗するためにダークスフィアを創設した、そういうことですよね?」

「ええそうよ……そして“並井機関”のトップだった“並井十蔵”という男がダークスフィアの総帥となって、お父さんを殺したのよ!」


 先輩が僕の話を肯定しながら、仇である並井十蔵という男への怒りをあらわにする。


「待て、スオクイン……いや、紫村。ダークスフィアの総帥は並井とかいう男ではないぞ」

「ど、どういうこと!?」


 先生から返ってきたとんでもない答えに、先輩は思わず先生に詰め寄った。


「落ち着け。だがそうか……お前は怪人になって日が浅いから、“あの御方”のことを知らないのだったな……」


 そう言うと、先生は静かに目を閉じる。


「“あの御方”は、家族を人質に取られ、やむなく怪人化の研究に携わらざるを得なくなり、そして、私達“ファースト”を生み出してしまったことを後悔し続けておられた。だが、私達を軍事目的に利用しようと目論んでいた日本政府の隙を突き、私達怪人を率いて蜂起したのだ……私達怪人のために」


 え!? ちょっと待って!?


 今の話が本当なら、先生の言う“あの御方”って……!


「……ねえ、“あの御方”って、誰なの……?」

「うむ……“あの御方”こそ、私達怪人の生みの親であり、私達怪人のために尽力してくださった方……“反町一二三”様だ」


 ◇


「大変なことになってしもたなあ……」

「そうですね……」


 僕とこよみさんは、大学構内の中庭のベンチに座りながら呟いた。


 研究室で先生から聞いた話は衝撃的だった。


 まさかダークスフィアの総帥が先輩のお父さん……反町一二三その人だったなんて……。


 それからの先輩の取り乱しようもすごかった。


 それもそうだろう。


 自分の父親が殺されたと思っていたのが、実は生きていて、そしてダークスフィアの総帥をしていて……。


 さらに先輩は、日本政府に復讐するためにダークスフィアで怪人となって、そして裏切って、今はヴレイバイオレットとして父親の組織と対立しているんだから……。


「もう……何が本当で、何が嘘なんか分からへん……」

「ええ……ですが、今の僕達にできることは限られています。研究室でも言った通り、まずはこよみさんの持つ“ヴレイヴハート”の開発者を調べ、その人に会って詳細を聞くこと。次に、司令本部と、その背後にいる日本政府についての調査、この二つから始めましょう」

「うん……」

「それに、ダークスフィアの内情を知る先生が味方になってくれたのも心強いです」


 そう、飯綱先生は正式に僕達に力を貸してくれることになった。


 これは、先輩が反町一二三の実の娘であるということも大きかった。

 やはり先生にとって、反町一二三という人物の存在が非常に大きいのだろう。


 今は研究室で、事実を知って落ち込む先輩を必死に宥めている。


「せやね……色々考えても、ウチ達にできることかて限られてるし……」

「はい。ですので、まずはできることから頑張りましょう……こよみさんと僕が、これからも幸せに過ごすために……」

「うん……」

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