怪人イタチソード⑥

「こよみさんには指一本触れさせません!」


 僕とモモは、イタチソードの前で立ちはだかった。


 するとイタチソードは歩みを止めた。


「……上代耕太、そこをどくんだ……」

「嫌です」

「私は君に危害を加えたくない……」

「絶対にどきません!」


 僕に退くよう懇願してかぶりを振るイタチソードに、僕は強い意志をもって拒絶する。


 すると。


「ア……アカン……耕太くん、逃げ、て……」

「!? こよみさん!」


 僕は思わずこよみさんへと振り返ると慌ててこよみさんの元へと駆け寄り、上半身を抱き起こす。


 だけど、こよみさんはイタチソードの攻撃で身動きすることもできず、ただ僕を見つめていた。


 それは、僕にこの場から去るよう、懇願する瞳だった。


 だけど。


「……こよみさん、僕は絶対にこよみさんから離れません。僕が……僕がこよみさんを助けるんだ!」

「こ……耕太、くん……せ、せやけど……」

『相棒! ヨク言ッタ!』


 今のところ、僕の意見に賛同してくれるのは、モモしかいないようだ。

 だけど、一人(?)でも味方がいるのは心強い。


 その時。


「あーもうチクショウ! 一般人の耕太が男見せてるのに、ヴレイブルーの俺が眺めてるだけだなんざダセエだろ!」

「ブルーさん!」


 振り返ると、青乃さんも頭をポリポリと掻きながら、モモの隣に並び立った。

 ……青乃さん、本当にありがとうございます。


 そんな青乃さんとモモに口元を緩めながら、僕は改めてこよみさんへと向き直る。


 そして。


「こよみさん……僕に……僕に力を、勇気をください……」

「…………………………え?」


 僕はこよみさんに顔を近づけ、そして——その可愛い唇に、そっとキスをした。


「あ……」

「……こよみさん、僕があなたを守ります」


 こよみさんを静かに寝かせると、震える身体を無理やり抑え込んで、改めてイタチソードに対峙する。


 そして僕は、こよみさんの瞳を背に、思い切り両手を広げた。


「ここから……ここから一歩も通さない!」


 ◇


■こよみ視点


 今、ウチの目の前で耕太くんが手を広げ、ウチを守るように立っている。


「あ……ああ……」


 ウチは今すぐにでも耕太くんに逃げて欲しい。

 耕太くんに何かあったら、ウチ……ウチ……!


 せやのに。


 ウチときたら、こうやって飛び出して、ウチを守ろうとしてくれてる耕太くんの行動が、気持ちが嬉しくて、伸ばす手を躊躇しそうになってる。


「……上代耕太、良いのか? 君はヴレイスーツも着ていない、ただの一民間人だ。今ここで立ち去ってくれるならば、私は絶対に君に危害を加えないと約束しよう。だから……頼むから、ここを退いてくれないか?」


 イタチソードの言葉からは、耕太くんに手を出したくなくて、悲痛な叫び声をあげるかのように耕太くんに語りかける。


 それでも。


「嫌です! だったら……だったらあなたが退いてください! お願いです! こよみさんにこれ以上手を出そうとしないでください……!」

「上代耕太……」


 耕太くんはイタチソードに必死で訴えた。


 せやけど、イタチソードはただ悲しそうにかぶりを振る。


「……私にも使命がある。“あの御方”のため、私は我々にとって脅威となるヴレイピンクを……どうしても抹殺しなければならないのだ! だから、上代耕太! 今すぐそこをどけえっ!」

「嫌だっ! こよみさんは……こよみさんは僕が守る!」

『俺モモチロン付キ合ウゼ、相棒!』

「おうとも!」


 耕太くんはモモとブルーを見ると、力強く頷いた。


「……分かった。ならば! 君のその勇気、永遠に私の胸に刻んでおこう!」


 アカン……! 耕太くんが! 耕太くんがあっ!

 

 ——ドクン。


 耕太くんへと手を伸ばしたその時、ウチの左腕が熱くなって、その熱が胸へと伝播する。


 ——チカラガ、欲シイカ?


 何やこれ!? 幻聴!?


 ——我、汝ニ問ウ。チカラガ、欲シイカ?


 チカラ!? 一体何のことや!


 ——愛スルモノヲ、救イタイカ?


 愛する者? ……って、もちろん耕太くんのことや、な。


 そんなん、そんなん……!


 救いたい! ウチは……ウチは耕太くんを救いたい! ウチには耕太くんが全てや! 耕太くんだけがウチの全てなんや! せやから……せやから!


 ——ナラバ、告ゲヨ。


 告げる? 何をや!


 ——汝ノ、“真ノ名”ヲ。


 ウチの……“真の名”?


 ——ソウダ、ソノ名ハ——


 ウチの、ウチの名は——————!


「——ヴァルキュリア!」

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