ヴァルキュリア

「……分かった。ならば! 君のその勇気、永遠に私の胸に刻んでおこう!」


 そう叫ぶと、イタチソードは僕達めがけ、流れるように迫ってくる。


「チッキショウ! 俺が……!」

「邪魔だ!」

「ガッ!?」


 青乃さんがイタチソードの斬撃をヴレイブーメランで受け止めるも、そのまま美術館のモニュメントまで吹き飛ばされ、背中から激突した。


「ブルーさん!?」

『耕太! マダダ!』


 イタチソードが青乃さんを攻撃した一瞬の隙を突き、モモが前輪を持ち上げて突進する。


 だが。


「フッ!」

『……!?』


 イタチソードは刃を一閃、モモの前輪を切り落とした。

 そして、モモはバランスが取れずそのまま横倒しになる。


「上代耕太……次は君だっ!」

「僕は……僕は絶対にこよみさんを守るんだああああああ!」


 僕は一縷いちるの望みを賭け、イタチソードを抑え込もうと両手を広げたまま突っ込む。


「……さようなら、上代くん……」


 悲しみに満ちた声で呟き、イタチソードが僕の眉間に合わせてその刃を振り下ろした。


 その時。


 ——ガキンッッ!!


 突然僕の目の前に重厚な盾が現れ、激しい金属音とともにイタチソードの攻撃を弾いた。


 こ、これは一体……?


「ハア……ハア……!」


 後ろから荒い息づかいが聞こえる。


 そのよく知る呼吸に、僕は恐る恐る振り返ると。


「……耕太くんには……耕太くんには、指一本触れさせへんっ!!!」


 そこには、僕の知らない、けど、よく知っているこよみさんが……ヴレイピンクが立っていた。


「こ、こよみさん……そ、その姿は……!」


 こよみさんのその姿は、これまでのヴレイピンクと明らかに異なっていた。


 これまでのヴレイピンクは、背が高く、グラマラスな体形をしていた。


 だが今、目の前にいるヴレイピンクは、本来のこよみさんと同じ身長とスタイルをしている。


 そして、ヴレイスーツの色もこれまでのピンク中心だったものが、白を基調とし、差し色としてピンクがあしらわれている。


 さらに特筆すべきは、両腕、両脚は鈍く光る金属の甲冑のようなものを、腰には赤色のスカーフを着用し、その右手には巨大なランスを携えていた。


 これは……。


「……貴様……ヴレイピンク、なのか……?」


 イタチソードが驚愕のあまり、上ずった声で尋ねた。


「そうや……ウチはヴレイピンク……“ヴレイピンク=ヴァルキュリア”やっ!」


 こよみさんは右手のランスの切先をイタチソードの正中線に照準を合わせ、高らかに宣言した。


「“ヴレイピンク=ヴァルキュリア”だとっ!?」


 思わずイタチソードが後ろにのけ反る。


「こよみさん……」

「もう、ホンマに……ホンマに耕太くんは……!」


 僕がこよみさんの名を呟くと、こよみさんはそっと僕の傍に寄り、コツン、と僕の肩におでこをぶつける。


 ……こよみさんは、静かに泣いていた。


「グス……もう……もう絶対に、こんな無茶はせんといて……! お願いやから……!」


 そんなこよみさんに応えるように、僕は彼女を抱き寄せた。


「すいませんが、こよみさんがピンチになったら、絶対に今日と同じ行動をします。だって……好きな人が心配なのは、大事なのは、全てなのは僕もなんですから……だから……」

「……もう、ホンマに耕太くんは頑固や……」

「僕が頑固なのは、好きな人のことに関してだけです」

「ん……」


 こよみさんは頷くと、僕の胸に顔をうずめる。


「……ヴレイピンク、別れの挨拶は済んだか?」


 イタチソードは僕達二人を見守りながら、申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「……ウチの準備はオッケーや。せやけど、ウチは絶対に耕太くんと離れたりせえへんけどな」

「フ……なら、私に勝ってそれを証明して見せろ!」


 そう叫ぶと、イタチソードは二本の刃を十字に構え、こよみさんに向かって突進する。


「“アイギスシールド”!」


 すると、イタチソードの僕への攻撃を防いだ盾がこよみさんの左手へと戻り、イタチソードの突進を受け止める。


「ぬっ!?」

「やああああああ!」


 そして、こよみさんは力任せに盾を横に振ると、イタチソードは勢いよく弾き飛ばされた。


「くっ!?」


 美術館の壁に激突しそうになった瞬間、イタチソードは身体を反転させ、衝突を防ぐ。


「なぜだ……私のヴレイブレイカーと高周波振動で、全てを切ることができるはずなのに……!」

「そんなもんは知らん! せやけど……せやけどこの盾は、ウチが大切な人を守るための盾! 耕太くんを想うウチの心の盾や!」

「っ! 世迷言を!」


 体勢を立て直し、イタチソードはなおもこよみさんに挑みかかろうとする。


 するとこよみさんは、ランスを中心に構え、イタチソードに向かって突撃した。


「なっ!?」

「くらえええええええ! “ブリューナク”!」


 イタチソードはこよみさんの渾身の突きを躱そうとする。


 だけど。


「くうっ!?」


 イタチソードは躱しきれずにこよみさんの突きを左腕に受けると、身にまとう鎧と刃ごと粉々に破壊された。


「ググ……!」


 もんどりうって倒れるイタチソード。


 そんな彼女に、こよみさんは容赦なくランスの切先を眉間に突きつける。


「おしまいや」


 イタチソードは、粉砕した左腕を押さえながら、こよみさんを睨みつけると。


「……殺せ」


 ポツリ、とそう呟いた。

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