大学見学②
「いらっしゃいませ!」
ドアのベルと店員さんの元気な声とともに、すごく背の高い綺麗な女性が店内に入ってきた。
「はわああ……すごく綺麗な女性やね……」
こよみさんは思わずうっとりとした表情でその女性を見つめる。
確かにこよみさんの言う通り、その女性はすごく綺麗な人だった。
少し切れ長の目に通った鼻筋、ぷっくりと柔らかそうな唇、ウエーブのかかった黒髪ロングのヘアスタイル。
そして、その凛とした佇まいに、見る人は引き込まれそうになることは想像に難くない。
もちろん僕は引き込まれませんが。
だけど、僕はあえてここで言わなきゃいけない。
「こよみさんだって……いや、こよみさんのほうが可愛いですよ?」
「は、はわわわわわわ!?」
こよみさんはパニクっていらっしゃいますけど、本当ですからね?
ウーン……僕としては、早くこよみさんに自分の魅力に気づいて欲しいんだけど……。
これは、僕が言葉で……態度でもっともっとこよみさんに伝えていかないといけないな。
などとこっそり決意していると。
「失礼。ひょっとして君は……上代耕太くん、でいいのかな?」
突然その女性に話し掛けられ、僕は少し驚いて若干のけ反った。
「え、ええと……そ、そうですけど……?」
この女性、なんで僕のこと知ってるの!?
ひょっとしてどこかで会ったりしてる!?
僕は過去にこの女性との接点があったかどうか記憶をたどったけど……うん、知らない。
すると、こよみさんがチョイチョイ、と僕の服を引っ張った。
目を向けると、少しムッとした表情のこよみさんが耳打ちする。
「(……なあ耕太くん、この女性と知り合いなん……?)」
「(まさか! 知らない人ですよ!)」
「(……ホンマにー?)」
疑いの視線を向けるこよみさんに、僕は全力で否定した。
だけど、少し嫉妬して頬をふくらませてるこよみさん、可愛いなあ……。
などとやり取りをしていると、女性は苦笑した。
「フフ……いや、すまない。恐らく私と君は初対面だと思うよ」
あ、やっぱり初対面だったんだ。
だとしたら、どうして僕のことを……?
「ああ……私が君を知っているのは、本町教授から写真付きで君のことを教えてもらってね。なんでも、すごく優秀で将来有望だとか」
「あ、そ、そうですか……」
本町教授が僕を買ってくれるのはいいけど、紫村先輩の時といい、なぜ教授はすぐ僕のことを紹介するんだろうか……。
成績だって“優”じゃなくて“良”だから、ものすごく良いわけでもないんだけどなあ……。
「はわあああ……耕太くんってすごく頭ええんやね!」
こよみさんがキラキラした瞳で僕を見つめてくる。
……うん、こよみさんの前では優秀な僕、という設定でいこう。
「そ、それで、失礼ですが……」
「ああ、そうだった。私の自己紹介がまだだったな。私の名は“
「あ、そ、そうだったんですね。失礼しました」
「いや、構わない。私の科目を履修していなかったら、知らないのは当然だ」
そう言うと、飯綱先生はニコリ、と微笑んだ。
そして。
「もしよかったら、二人の食事に加わってもいいかな? 上代くんとは生物工学について色々話をしてみたいからな」
そんな風に誘う飯綱先生だけど。
「すいません。今は彼女……こよみさんとおりますので、本町教授が一緒の時にお話をさせていただけますでしょうか」
だって僕は今、こよみさんと大学のキャンパスでデート中なのだ。
たとえ大学の先生で本町教授と知り合いだからといって、邪魔をされたくはない。
それに、こよみさんだって僕が他の女性と話をしていたら、いい気はしないはず。
だからこそ、ここは丁重にお断りしておこう。
「おっと、確かにそうだ。いや、これは無粋なことをした。じゃあ、せめてものお詫びにここの食事代は私に払わせてはもらえないだろうか」
「え、ええ!? い、いや、さすがにそれは……」
「いやいや、気にしないでくれ。これは私から二人への応援と受け取ってもらえればいい」
うーん……正直奢ってもらう義理もないし、お断りしたいんだけど……。
でも、さすがにある意味失礼な断り方をした後だから、これは断りづらい……。
どうしようかと、こよみさんを窺うと……あ、こよみさんが嬉しそうにはにかんでる。
多分、“二人への応援”ってフレーズがツボに入ったな。
……じゃあ、仕方ないか。
「すいません。それではお言葉に甘えさせていただきます」
「ああ、そうしてくれ。じゃあ私はこれ以上邪魔してもいけないから、別の席に移動させてもらうよ」
そういって飯綱先生は、店内の一番奥の席に移動した。
「なあ、耕太くん……」
「どうしました?」
「その……あの飯綱先生やったっけ? 同席を断ってよかったん?」
こよみさんが少し心配そうな表情で僕を見る。
「もちろんですよ。それに、僕はせっかくのこよみさんとのキャンパスでのデートを邪魔されたくはありませんから」
「はうう……その、えへへ……」
僕がそうハッキリと告げると、こよみさんは嬉しそうに頬を赤らめた。
そしてそんなこよみさんに、僕はそっと手を握った。
「こ、耕太くん?」
「その……ちょっと食べづらいかもですが、こうやって手をつないだまま食事をしてもいいですか?」
「あ……う、うん……」
そして僕達は、カフェでの食事を楽しんだ。
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