大学見学①

「もうそろそろ十二時だな……」


 結局僕はいてもたってもいられず、桐谷の奴に代返を任せて、僕は校門の前でこよみさんが来るのを心待ちにしていた。


 もちろん、桐谷には今度昼ご飯を奢ることで手を打ってある。

 こよみさんのお出迎えができるなら昼食代くらい安いものだ。


 しばらくすると、モモのエンジン音が遠くから聞こえてきた。


「アレ? 耕太くん、なんでもう校門におるん?」


 着くなりこよみさんはキョトンとした表情で首を傾げる。


「あはは、やっぱり僕の彼女をお出迎えしたくなっちゃって……」

「はうう……その、ありがとう……」


 うん、そうやってモジモジするこよみさんも可愛いです。


 そして、今日のこよみさんのコーデは、ノースリーブでフリルの付いた水色のブラウスに、淡いベージュのジャンパースカート、茶色の皮のレースアップサンダル。


 控えめに言っても、他の追随を許さないくらい最高ですよ。


「え、えと、耕太くん……?」

「……は!? す、すいません……その、今日のこよみさんの服装も可愛いです……」

「あ……うん、えへへ、ありがとう……」


 こよみさんは少し照れながらはにかんだ。


 僕と付き合うようになってから、以前のように自分を卑下するようなことは大分なくなり、今では恥ずかしそうにしながらも、僕の賞賛を素直に受け止めてくれるようになった。


 もちろんそれだけでも大きく前進したけど、僕はこよみさんにもっともっと自信を持ってもらいたい。


 だから、これからもどんどんこよみさんのこと、全力で褒めますからね?


「さて、それじゃこよみさん、僕の通う大学を案内しますね」


 そう言うと、僕はスッ、と右手を差し出す。


「う、うん、よろしゅう……」


 こよみさんも僕の手を握ると、自然と恋人つなぎになる。


「じゃあ、まずはお昼ご飯にしましょうか。学校のカフェに行きましょう」

「うん!」


 僕達は二人手をつなぎながら、大学に併設されているカフェへと向かった。


 ◇


「はわああ……今の大学って、こんなオシャレなカフェがあるんやねえ……」


 こよみさんは、大学にあるカフェの外観を見て、目をキラキラさせた。


 確かにうちの学校のカフェ、無駄にオシャレなんだよね。

 しかも、料理の味も見た目も良いから、なにげに飲食店の評価サイトで、このエリア一位を獲得してたりする。


「じゃあこよみさん、中に入りましょう。それとも、テラス席のほうがいいですか?」

「メッチャ悩むわあ……中もええけど、外でオシャレに食べるのもええし……」


 店内とテラスを交互に眺めながら、こよみさんが悩んでいる。

 そんな姿もすごくカワイイです。


「それでしたらこよみさん、ご飯はお店の中で食べて、食後のドリンクは外のテラスにしますか?」

「え! そんなんできるの?」


 こよみさんの瞳がキラキラと輝く。


「はい」

「せやったらそうしたい! はわあ……なんか贅沢やなあ……」

「あはは、それじゃ中に入りましょうか」

「うん!」


 僕達はカフェの店内に入ると、店員さん(といってもうちの学生だけど)に案内され、席に着く。


「さて、どれにしようか……」

「あ! ウチはこれ! このミートボールのプレート!」


 こよみさんが選んだのは、北欧でよく食べられているミートボールが入ったランチプレートだった。

 このリンゴンベリーのソースが美味しいんだよなあ。


 で、付け合わせがニシンのマリネか。

 これもディルのアクセントが効いて、僕は好きだな。


 とと……僕も決めないと……。


 僕は慌ててメニューに目を通し……うん、これにしよう。


「すいませーん」


 店員さんを呼び、注文を始める。


「ええと……ミートボールのプレートと、サンドイッチのプレートをください」

「飲み物はどうされますか?」

「こよみさんはどうします?」

「ウチはアイスレモンティーで」

「じゃあ僕はアイスコーヒーで。あ、ドリンクを飲む時はテラスに移動しますね」


 店員さんはメニューを下げ、カウンターへと下がった。


「はわあ……楽しみ! せやけど、今日はお客さん、そんなにおらへんね」

「それはそうですよ。もう夏休みですから」

「あ、そやった」


 そんなほのぼのとした会話をしながら、僕達は料理が来るのを待つ。


 そして。


「お待たせしました!」

「はわあああ……美味しそうやね!」


 料理がテーブルに運ばれ、こよみさんがうっとりとした表情でそれを眺める。

 そうだ! これを利用して……。


「こよみさん、せっかくですし料理をシェアしませんか?」

「え? そんなんもちろんええよ!」


 よし! こよみさんの言質は取ったぞ!


 じゃあ早速……。


「ではこよみさん、僕のサンドイッチを食べてください」


 僕はたまごサンドをつまむと、こよみさんの口元へと差し出した。


「は、はわわわわ!? こ、これってひょっとして……!」

「あ、はい……その、嫌でしたか……?」

「そ、そんなことあらへんよ!? そ、その……なんか、カップルみたいやなあ……って……」


 わたわたと手を振りながらも、どんどん尻すぼみになっていくこよみさん、可愛いなあ。


「それはそうですよ……だって、その、僕とこよみさんは恋人同士なんですから……」

「う、うん……えへへ」


 こよみさんは照れるようにはにかんだ。


「さあ、こよみさん。アーン……」

「アーン……はむ……もぐ……」


 こよみさんは僕が差し出したたまごサンドに、その小さな口でかじりつくと、ゆっくりと咀嚼した。


「うん! このたまごサンド、メッチャ美味しい!」

「そうですか、それは良かったです!」


 そうか、このたまごサンドの味が……だったらこの味を覚えて、また家でもたまごサンドを作って、それでピクニックになんか……ああ、夢がふくらむなあ。


「じゃ、じゃあ次は耕太くんの番!」


 そう言って、こよみさんはミートボールにフォークを突き刺し、僕の目の前へと持ってきた。


「はい、ありがとうございます。それじゃ……」


 僕はミートボールを一口で口に放り込むと、確認するように味わった。


「……もぐ……うん、すごく美味しいです!」

「ホ、ホンマ? じゃあウチも……はむ……ん……」


 こよみさんもミートボールを口に入れ、その味を確認する。


「ホンマや! すごい美味しい!」

「ですね!」


 うん、やっぱりここのカフェはこの界隈じゃ一番美味しいな。


 それより……その……こよみさん、気づいてるかな……。


「……なあ、耕太くん。知ってた? その、じ、実は……」


 こよみさんが頬を赤らめ、モジモジしている。

 あ、こよみさんも気づいたんだ……。


「はい……その……」

「あ、い、言わんでええよ? その、もちろんアレやさかい……で、でも! ウ、ウチはその……嬉しかったよ?」


 …………………………胸が苦しい。


 なんですかこよみさん、なんなんですか。

 今すぐにでもお持ち帰り……って、これ前にも同じこと考えたな……。


 すると。


「いらっしゃいませ!」


 ドアのベルと店員さんの元気な声とともに、すごく背の高い綺麗な女性が店内に入ってきた。

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