ヴレイヴハート①
■こよみ視点
「あー……今日は朝から痛い目に遭うた……」
ウチは司令本本部の地下駐車場にヴレイビークルのモモを駐車すると、思わずその場でうなだれる。
まさかあの天ぷらが、忌々しい納豆やったなんて……しかも、臭いも無くなって、普通に美味しかったんが何より悔しい。
「くそう……耕太くんの料理スキル、恐るべしや……」
これからは耕太くんの料理は警戒せんとアカンな。
な、なーんて……そんなもう、これからずっと耕太くんに料理作ってもらうみたいなこと言うて、ウチもイヤやわあ……。
って、こんなトコでクネクネしとる場合やなかった。
早よう司令のトコに行って、サッサと用事済ましてしまわへんと。
何といっても、耕太くんとお昼に大学で待ち合わせしとるんやさかい……。
しかも、耕太くんの知り合いにウチのこと紹介するやなんて、そんなん、まるでウチが耕太くんの彼女さんみたいやんなあ……って、彼女やったわ。
アカンアカン、浮かれすぎやでウチ。
せやけど……そんなん浮かれてもしゃあないやんなあ。
だって、このウチが、耕太くんみたいな素敵な男の子と付き合ってるやなんて……。
……って、アカンがな! また自分の世界に入ってしもた!
ウチは慌ててエレベーターに乗り、司令本部のあるフロアへと向かう。
エレベーターが到着し、司令本部の中に入ると。
「お、ピンクじゃねーか。今日は耕太は一緒じゃねーのか?」
スマホを弄っていたブルーが目ざとくウチを見つけ、早速絡んできた。
「耕太くんは今日は大学の集中講義や。それよりブルー、アンタもう身体は大丈夫なんかいな?」
「ああ! やっと退院だぜ! しかし、大したことねーのにあんなに入院させやがって……って、まあ俺のことはいいや。それより、二人とも上手くいったみてーだな!」
そんなことを言いながら、ブルーはいい笑顔でサムズアップした。
「はうう……その、えへへ……あ、そ、そや、今回のことはおおきに。ブルーがデスティニーワールドのチケットくれたって、耕太くんに聞いたで。そ、そのおかげで、えへへ……」
アカン、嬉しゅうて、どうしても顔がほころんでまう。
「えー……なんなのもう! ピンクは私への当てつけにわざわざ司令本部に来たの?」
すると、やってきたバイオレットがニヤニヤしながらウチに絡んできた。
「そ、そんなんちゃうわ! ウ、ウチは司令に呼ばれて……えへへ……」
「あー……ダメだわこれ。まあいいわ、それよりたまにでいいから上代くん貸してよ」
「ハア!? アンタ何言うてるんや! そんなもんアカンに決まってるやろ!」
「えー、別にいいじゃない。減るもんじゃあるまいし」
ウチが全力で断ると、バイオレットは口を尖らせて文句を言うてきおった!?
コ、コイツは……!
「アカンわ! 大体耕太くんに何の用や!」
「私は生物工学について上代くんとディスカッションしたいだけよ。心配しなくても、別に取ったりしないから」
「ホ、ホンマか……?」
「ええ」
そ、それやったら……。
「(まあ、上代くんに例の薬を飲ませて既成事実を作ったら、その後は知らないけど)……って!?」
「オイ……聞こえとるで……!」
「痛い痛い! 嘘! 冗談です! だからほっぺた引っ張らないで!」
ホンマに油断も隙もならんヤツや!
ま、まあ、あの耕太くんがバイオレットに簡単になびくとは思わへんけどな。
「って、こんなことしてる暇はないんや。早よ司令のトコに行かんと」
ウチはつまんでたバイオレットのほっぺたから手を放し、司令室へと向かった。
「失礼します……」
「やあ桃原くん、待っていたよ」
ノックしておずおずと扉を開くと、高田司令が笑顔で出迎えてくれた。
「それで、ウチを呼んだ用件てなんですか?」
「ああ、松永くん」
「はい」
司令が秘書さんに声を掛け、秘書さんからアタッシュケースを受け取ると、司令はそのアタッシュケースを開く。
すると、その中には一枚のコインが入っていた。
「司令、これは?」
「ダークスフィアが幹部を投入してきて闘いがますます激化してきたことを受け、技術部がヴレイファイブ……いや、ヴレイピンクの更なる強化を図るために開発した、その名も“ヴレイヴハート”だ」
「“ヴレイヴハート”……」
「そうだ。これは従来のヴレイスーツを大幅に強化するだけでなく、専用の固有武器として“アイギスシールド”と“ブリューナク”が装備されることになる」
司令が興奮気味に説明するけど、正直ウチにはピンとこない。
要はすごいっちゅうことは分かるけど……なんかなあ……。
「ただ……この“ヴレイヴハート”の発動については特殊な条件があってな……」
「特殊な条件?」
「ああ……技術部曰く、どうやらこれは使用者の心の強さを具現化するものらしい……」
神妙な顔で司令は説明してくれはるけど、重ねて言うけど正直ウチにはピンとこない。
心の強さて言われてもなあ……。
「とりあえず分かりました。それで、これはどうやって使うんですか?」
「ああそうだった。松永くん」
「はい」
すると今度は、秘書さんがヴレイウォッチ……とちょっとだけちゃうかな。なんやダイヤルの下の部分に自販機の穴みたいなもんがあった。
「これは“ヴレイヴハート”を使えるようにするための、新生ヴレイウォッチだ。そこのスロットに差し込めば、使用することができる」
ウチは秘書さんから新しいヴレイウォッチを、司令からヴレイヴハートを受け取り、今つけてるヴレイウォッチを秘書さんに返した。
「司令、他にはもうないですか?」
「うむ、用件は以上だ。わざわざすまなかったな」
「ほな、これで失礼します」
ウチは司令室を出ると、ブルーとバイオレットが待ち構えていた。
「よう。司令の話はなんだって?」
「いやあ、それがよう分からへんのやけど、なんか新しいヴレイウォッチと新兵器……ヴレイヴハートいうんをもらったんや」
「新兵器……ねえ……」
すると、バイオレットが顎に手を当て、思案する。
「なんや? なんか気になることでもあるんか?」
「……え? ええ、まあ……というか、なんでピンクにだけ、と思って……」
「あれ? 二人はもろてへんの?」
「ん? ああ、俺は別に何も……」
「私もね」
なんやけったいな話やなあ……何でウチだけもろたんやろ……。
「まあ、何かの機会に私からも司令に聞いてみるわ」
「うん。ほな、ウチは耕太くんと待ち合わせしとるさかい、これで失礼するで」
「おう! 耕太によろしくな!」
「耕太くんに“あの約束”のこと、伝えといてね」
「“あの約束”てなんや!?」
去り際にとんでもないこと言いおってからに……って、そろそろ出な耕太くんとの待ち合わせに間に合わへん!
ウチは急いで地下駐車場に降りると、モモに乗って耕太くんの大学へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます