大学見学③
カフェでの食事を終え、僕はこよみさんへの大学の案内を再開した。
そして。
「ここが僕が本町教授のゼミの時に使う教室です」
「へえ……ここで耕太くんは勉強してるんやね」
僕はゼミの教室を案内し、こよみさんがしげしげと眺めていると。
「よう上代! 早速だけど今日……って、アレ?」
この声……桐谷だな?
しかもその口ぶりからすると、いつものアレ……って!? コノヤロウ! こよみさんに勘違いされたらどうするんだよ!?
「桐谷! お前「なあ上代、この子お前の妹?」」
僕がクレームを入れようとしたところを、絶妙にかぶせるよう話の腰を折る桐谷。
まあそれはこの際いいとして……コイツ、聞き捨てならない台詞を吐いたぞ!?
「違う! 彼女は桃原こよみさん、僕の彼女だよ!」
「はああああ!?」
そんな僕の宣言に、桐谷はあからさまに驚いた。
「え、いや、だって……」
「桐谷、お前チョットこっちに来い。あ、こよみさん、ちょっと待っててくださいね」
「あ、う、うん……」
ポカンとしながらも、こよみさんの少し悲しそうな瞳を僕が見逃すはずがない。
絶対に桐谷に謝らせてやる!
「桐谷……彼女は二十三歳だ。だからお前、絶対にこよみさんに土下座しろ」
「ええ!? 二十三歳!? い、いや、俺はてっきり中学生かと……って、土下座!? ……あ、かなり怒っていらっしゃいますね……」
桐谷はこよみさんの年齢を聞いて驚いた後、僕の異変に気づき、その顔には“ヤバイ”とはっきり書いてあった。
「さあ、桐谷」
僕は桐谷に首で“行け”と合図すると、桐谷はすごすごとこよみさんの前に立つと。
「すいませんでしたーっ!」
「はわわわわ!?」
勢いよく土下座する桐谷に、こよみさんは思わず飛び退いてしまう。
全く桐谷の奴は……!
「桐谷……誰がこよみさんを驚かせろって言ったんだ?」
「え? お前が土下座しろって……ハイ、スイマセンでした……」
「あ、こ、耕太くん、ええと……この人は?」
僕と桐谷のやりとりに驚いているからなのか、それとも僕が怒っているからなのか、こよみさんは恐る恐る尋ねる。
むう……こよみさんにこんな態度を取らせてしまうとは……僕も反省しないと。
「あ、その、すいません……ええと、それでコイツなんですけど、コイツは“桐谷翔太”と言って、僕の同級生で同じゼミの仲間なんです」
「桐谷翔太でっす!」
桐谷は僕に怒られていた時とは打って変わり、あろうことかこよみさんにテヘペロしながら自己紹介しやがった。
コイツ……いつか埋めてやろう。
「あ、そ、その、ウチは桃原こよみ言います……」
こよみさんはそんな桐谷の態度に気にする様子もなく、少し恥ずかしそうに自己紹介した。
桐谷、命拾いしたな。こよみさんに感謝しろよ?
「俺、上代の彼女さん……桃原さんにお会いしたら、言いたかったことがあるんす」
「言いたかったこと? ……なんやろ……?」
おい桐谷! お前、何か失礼なこと言うつもりじゃないだろうな!?
「その、ありがとうございます!」
「はわ!?」
アレ? なんで桐谷はこよみさんにお礼言ってるの?
「コイツ……聞いてるかもしれませんが、織部アリスって同級生にフラれて、一時期本当にヤバかったんす。でも、ある時から急に明るくなりだして、いつの間にか織部と付き合ってた頃よりも嬉しそうにしてたんす。それって、絶対桃原さんのおかげっすから! だからコイツのこと、これからもよろしくお願いします!」
「あ……」
そう言って、桐谷は深々と頭を下げた。
桐原……お前……。
「も、もちろん! ウチは耕太くんのこと大事にする! そ、それと……そんなに耕太くんのこと思ってくれてありがとう。こちらこそ耕太くんのこと、よろしゅうお願いします……」
こよみさんも桐谷と同様に頭を下げる。
「え、ええと……」
どうしよう……いや、すごく嬉しいんだけど、それ以上に恥ずかしいというか、照れくさいというか……。
「ま。そういうことですんで! それじゃ上代、これ以上二人の邪魔すんのも悪いし行くわ……あーあ、また合コンに誘う奴が一人減っちまった……」
コノヤロウ!? いい話で終わりそうだったのに余計なことを!?
「……なあ耕太くん、“合コン”ってなんの話かなあ?」
「ヒイイ」
こよみさんが荒ぶっていらっしゃる!?
「い、いえ、あれは桐谷が勝手に言ってるだけで、僕は合コンに行ったりしてませんからね!?」
「……ホンマに?」
こよみさんはジロリ、と桐谷を睨む。
「あ、え、えと……じゃ、じゃあな上代!」
な、何でお前が逃げるの!?
そんな態度を取ったら、僕が本当に合コンに行ったみたいに思われるじゃないか!
「こ・う・た・く・ん・?」
「はい……」
結局、こよみさんに信じてもらうまで一時間を費やした……。
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