マカロニグラタン
「こよみさん、そこは素早く混ぜて……そうそう、上手ですよ!」
「ホ、ホンマ? ……えへへ……」
こよみさんが小鍋に入っているホワイトソースをかき混ぜながらはにかむ。
僕達は今、あの日食べそびれたマカロニグラタンをキッチンで二人並んで作っていた。
「で、次はマカロニと具材の入ったボウルにそのホワイトソースを全て流し入れてください」
「こ、こう?」
「はい……で、ボウルの中身をしっかりかき混ぜて……うん、バッチリです! やっぱりこよみさん、料理のセンス悪くないですよ!」
「は、はうう……そんな褒めんといて……ウチ、照れてまう……」
「あ、あああ! こよみさん! 強くかき混ぜすぎです!」
「え……? は、はわわ!?」
照れ隠しにこよみさんが力を入れてかき混ぜすぎたせいで、ボールから具材とマカロニとホワイトソースが一緒になって飛び散る。
といっても、すぐに気づいたため、被害はほとんどなかったけど。
「ゴ、ゴメン……」
「あはは、こんな程度で謝らないでくださいよ。料理をしてたらよくあることですから」
「う、うん……ホンマ、耕太くんは優しいなあ……」
こよみさんは頬を赤らめながらそんなことを言うけど、それは少し間違っている。
だって。
「……こよみさん、だけですよ?」
「え……?」
「さ、さあ! それじゃ混ぜたものをグラタン皿に入れましょう!」
「あ、う、うん、そやな!」
僕は今言った言葉をごまかすかのように、こよみさんを急かして次の工程に進んだ。
こよみさんもそれ以上は聞かず、ボウルの中身をグラタン皿に移す。
そして、溶けるチーズを上に敷きつめ、パン粉、粉チーズをふりかけたら、予熱しておいたオーブンにグラタン皿を入れて……うん、一〇分でいいかな。
オーブンの蓋を閉じて、後は待つだけ。
付け合わせのパンもサラダも、もうテーブルに用意してある。
「はわあ……美味しそうやな……!」
「美味しいに決まってます。だって、こよみさんと僕で作ったんですから」
「はわわわわ!?」
そう言うと、こよみさんは恥ずかしそうに手で顔を隠した。
「はうう……きょ、今日の耕太くん、なんかアレやで……? その……(ゴニョゴニョ)」
最後のほうが聞き取れなかったけど、まあいい。
多分、いつもと違うと言いたいんだろうから。
だけど、それはそうだ。
だって僕の心は、アリスとは完全に決別し、その全部をこよみさんが占めているんだから。
だから、これからはもう僕は遠慮しない。
そして、こよみさんに僕の想いを告白するんだ。
——ピンポーン。
僕がこっそり意気込んでいるところに、部屋のチャイムが鳴った。
誰だろう?
「はーい! ……ええと、僕出てきますね」
「あ、うん」
僕は慌てて玄関に向かい、ドアを開けると。
「上代くん、ヤッホー!」
「紫村先輩!?」
尋ねて来たのは紫村先輩だった。
先日、怪人になったアリスと幹部の一人を取り逃がした後、彼女はこよみさんに大人しく拘束され、司令本部預かりとなったはず。
なのに、どうして!?
「え、ええと……」
「まあまあ、詳しい話は後! それよりお邪魔するわね!」
「ちょ、ちょっと!?」
先輩は僕の制止も聞かず、ずかずかと部屋に上がった。
「な、なんやアンタ! なんでここに!?」
「えー、これから仲間になるってのに、そんな言い方はないんじゃない?」
「「な、仲間!?」」
「アレ? 聞いてない?」
「「聞いてへんわ(ないですよ)!」」
僕とこよみさんは、口をそろえてツッコんだ。
——ジリリリリ。
タイミングよく? こよみさんのスマホが鳴った。
「……司令や」
「……じゃあ」
「多分そやろ……はい、もしもし……ええ、来てますけど……」
こよみさんはスマホで応答しながら、先輩をチラリ、と見た。
当の先輩はと言うと、そんなこよみさんの様子を眺めながらニヤニヤしていた。
「……って、はああ!? そんなん知らんし! ……はあ……って、チョッ!?」
その言葉を最後に、こよみさんは肩を震わせながら、スマホの通話終了のアイコンをタップした。
「あああああ! もおおおお! なんでウチがコイツの監視せなアカンねん!」
「ちょ、ちょっとこよみさん!? 一体どんな内容だったんですか!?」
スマホを放り投げ、頭をガシガシと掻くこよみさんを止めながら、尋ねた。
「耕太くんもう聞いて! コイツ、監視も兼ねてヴレイファイブのメンバーになってしまいよった!」
「ええ!?」
どういうこと!? 先輩が!? ヴレイファイヴに!?
「うふふ……ということで、正式に加入したヴレイファイブのメンバーの一人、ヴレイバイオレットの紫村由宇よ。よろしくね、センパイ?」
「知らん!」
先輩は決めポーズしながらウインクすると、こよみさんはそっぽを向いた。
だ、だけど!?
「え、ええと、先輩は怪人として拘束されてるわけで、しかも、この国に恨みがあるんですよね? それが、どうして?」
僕は震える指で先輩を差しながら、おずおずと尋ねた。
「えー、だって私、ダークスフィアからも狙われてるし、それに、高田司令もお父さんを殺した奴を倒すことに協力してくれるっていうし、だったら断る理由ないわよね?」
「で、ですが、よくあの高田司令が……」
「ああ、もちろん私が裏切らないように、ヴレイピンクが監視するって条件つきで。だから、私もこの部屋の隣に引っ越すことになったから」
や、確かに手前の部屋は空き部屋になってたけれど!?
「うふふ……ところで、何だか美味しそうな匂いがするんだけど……?」
「っ! ア、アカン! 今日はもう帰れ!」
くんくんと匂いを嗅ぐ先輩の背中を押して、こよみさんは無理やり玄関に連れて行こうとする。
「この匂い……グラタンね! 私も食べる!」
「ア、アカン! これはウチと耕太くんのグラタンや!」
「えー……ねえ耕太くん、私も食べてもいいでしょ?」
背中を押していたこよみさんを退け、先輩が上目遣いで僕に迫る。
だけど。
「すいません。このグラタンは僕とこよみさんの分ですからダメです」
「ええー……ホラホラ、私の加入祝いと引っ越し祝いを兼ねて……」
「ダメです!」
「なんで!?」
なんでって……そりゃあもちろん。
「僕の作る料理は、こよみさん専用ですから」
「はわわ!?」
そうだとも。僕はこよみさんの喜ぶ顔が、美味しそうに食べるこよみさんの顔が見たくて料理をしてるんだ。
だから。
「すいませんが今日のところは先輩、お引き取りください」
「もー! 上代くんのイジワル!」
僕は先輩の背中を押して部屋から追い出すと、ドアの鍵をガチャリ、と閉めた。
「さあこよみさん、ご飯を……って、こよみさん?」
振り返ると、こよみさんは顔を真っ赤にして、身体をもじもじさせていた。
ダメだこれ、すごく可愛い。
「あ……その、そういうことですから……ご、ご飯食べましょう?」
「……うん」
僕は焼けたグラタンをテーブルに運ぶ。
「こよみさん」
「その、耕太くん……えへへ」
うん、今日もこよみさんは可愛い。
「それじゃ……」
「「いただきます!」」
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