怪人アリス③
「ッ!? ギャ……!?」
僕はヴレイビークルごとアリスに突っ込んだ。
するとアリスはその勢いと衝撃によって、うめき声とともに思い切り吹き飛ばされた。
「こよみさん!」
僕はヴレイビークルを降り、慌ててこよみさんに駆け寄る。
「あ……こ、耕太くん……」
「しっかりしてください! そ、そうだ! ヴレイビークル!」
僕の呼びかけに応じ、ヴレイビークルのシートが開く。
その中には、応急キットが入っていた。
解毒の薬は……あった! これだ!
「こよみさん、今身体に薬を打ち込みますから!」
僕は安全キャップを外し、こよみさんの上腕に解毒剤を打ち込んだ。
これで、あとしばらくすれば……!
「クソッ! 誰が……って、オマエは……耕太じゃない! アハハハハ! そのダサイピンクのクソ女を助けにきたってワケ? ウケル! オマエみたいなグズが何の役に立つってイウノ?」
僕に気づいたアリスが嘲笑う。
「……アリスは怪人になっちゃったんだね」
「エエソウヨ! そこの女のせいでネ! マア、今はこんなに素晴らしい身体になったから、結果的には良かったのカシラ?」
アリスは手を上にかざし、うっとりとした表情で伸びた指先を見つめる。
「ねえ……聞いていい? アリスはどうして、僕なんかと付き合ったりしたの?」
「プ……アハハハハ! 付き合った? バカジャナイノ? ハジメからアンタなんかと付き合った覚えはないワヨ! ちょっとからかったダケなのにアンタ、浮かれて嬉しそうにして、本当にユカイだったワ!」
「そう……その言葉が聞けて良かった。おかげで……ようやく僕は前に進めるから!」
「マエ? ココで死ぬのニ? アハハハハ! ホント、救いようがないバカだワ!」
アリスが僕を指差しながら、腹を抱えて笑い転げる。
ああ……本当に、バカだよ……アリス、君がね!
「ギャ……!?」
すると突然、アリスの羽が切り落とされる。
さらに。
「グガ……足が……!?」
アリスの足に、いばらの蔦が巻き付いた。
「はあ……ホンマにアホやな」
「ええ……ま、人間の時からバカだったけどね」
アリスの後ろには、こよみさんと先輩が並んで立っていた。
「こよみさん! 先輩!」
「耕太くん……ホンマに……ムチャして……でも、ありがとう……」
「上代くん……まだ私のこと、“先輩”って言ってくれるのね……」
こよみさんは僕の傍に寄ると、僕の服の袖をつまんだ。
先輩は、愁いを帯びた表情を浮かべ、僕を見つめる。
「アアアアア! 何なノ! ムカツクムカツクムカツク! 大体何でオマエ達が動けるのヨ!」
アリスは叫びながら手足をばたつかせる。
「はあ……ホンマアホやな。耕太くんが危険を顧みんと、薬を届けてくれたおかげに決まってるやんか」
「ええ、あと、薬の効果が現れるまで、あなたとの会話で時間を稼いでくれたからね」
「アアアアア! 耕太アアアアアアア!」
アリスが怒り狂ってるけど、事実だからしょうがない。
僕はそんなアリスに冷ややかな視線を向けた。
「さあ……形勢逆転やな!」
「ええ……そうね!」
そう言うやいなや、先輩が手足の全てをいばらの蔦で拘束すると、こよみさんは高速で剣を振りぬき、瞬く間に四本の手足を全て切り落とした。
「ギャアアアアアア!!!」
痛みで地面にのたうち回るアリスの目の前に、こよみさんが剣を突き刺した。
「さあ、芋虫に逆戻りした気分はどうや?」
「ア……アア……チ、チガウノ……アノガキにそうしろって言われたダケデ、ソンナつもりはなかったノ……!」
ここにきてようやく身の危険を悟ったのだろう。
アリスは芋虫のようになった身体を震わせ、すがるような目で懇願する。
僕の目に映るその光景は、ただただ哀れで、そして滑稽だった。
「ネ、ネエ! 耕太! アナタも私の彼氏デショ!? お願い! 私をタスケテ!」
「……君はさっき、はっきりと言ったじゃないか。“初めから僕と付き合った覚えはない”って」
僕は感情のない、無機質な声で言い放った。
ああ……もう、アリスは僕の心から完全に消え去ったんだな……。
「ア、アレハ……グガ!?」
すると、こよみさんがアリスの顔を思いきり踏みつけた。
「言うに事欠いてお前は……! お前はああああ! お前が耕太くんを語るな! 耕太くんの名前を呼ぶな! お前のせいで耕太くんが……耕太くんがああ!」
「ギャ! イタ! ヤメ!」
「ヴ、ヴレイピンク!」
僕は慌ててこよみさんを止める。
「こ、耕太くん! せやかて!」
「僕なら大丈夫ですから! 僕は……僕は、あなたに救われたから! あなたがいるから! だから!」
「耕太くん……」
すると、ようやくこよみさんはアリスから足を外した。
「……とにかく、お前をこのままのさばらしとく訳にはいかんのや。覚悟せえよ」
「ヒ、ヒイ!?」
こよみさんがアリスの首元に剣を突きつけた、その時。
「悪いけど、そういう訳にはいかないんだ。ゴメンね?」
男の子の怪人が指をパチン、と鳴らすと、たった今まで足元にいたアリスと、男の子の怪人が姿を消した。
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