桃原こよみ②
自分の部屋へと連れて帰って、風邪引かんように風呂に入ってもらい、その間にウチはタオルと着替えを用意する。
うん、ちょうどお父ちゃんがこの前心配して様子見に来た時に使ってたスウェットがあったさかい、とりあえずはそれ着てもらおか。
耕太くんはスウェットに着替えて出てくると、顔色は最初見た時より幾分かはマシになった。
あの時は、完全に土気色やったからなあ。
ウチは耕太くんの服を洗濯しようとすると。
「ええと……その、ご両親は?」
両親のことを聞かれたので、一人暮らししてること、奈良の実家にいることを伝えた。
あれかな、スウェット用意したから一緒に暮らしてる思たんかな。
ウチは耕太くんをリビングに追いやると、洗濯機を回して自分も戻る。
さあ、いよいよ本題。
何があったか、話を聞かな。
耕太くん、見たところまだ高校卒業したくらいのようやもん。
……ウチみたいにならへんのが一番やから……話聞いて少しは良くなるんやったら……。
でも、耕太くんは余程つらかったのか、それとも遠慮してるのか、全然話そうとしてくれへん。
そやから、ウチは酒の力を借りようと思って、冷蔵庫から缶ビールを二本持ってくる。
聞けば年齢も二十歳みたいやし、問題ない。
まずは手本を見せるつもりで缶ビールの蓋を開けようとすると、なぜか耕太くんに止められた。
理由を聞くと……まあ、そうやろな……。
ウチは自分の年齢を告げると、耕太くんは申し訳なさそうに必死で謝ってくれた。
今までの連中は、年齢を聞くとバカにするような視線を向けてくる奴ばっかりやったのに……ホンマにええ子やな。
それで、お互い自己紹介をして、さあ話を聞くっちゅう時に、よりによって怪人が現れよった!
ウチは仕方なく耕太くんに部屋で待ってもらって、急いで怪人が現れた新宿駅前に向かった。
ウチが現場に着いた時にはすでに戦闘は始まってて、ブルーが武器を落とし、まさにピンチの状況やった。
ウチはすぐに助けに入ると、レッドがヴレイキャノンの発射指示を出す。
こんな時だけリーダー面するのは、その分注目を浴びるから。
なんといっても今は、晩ご飯時のゴールデンタイムやからな。
怪人を倒し、いつもの決め台詞をレッドが言おうとしたところで、ウチはさっさとその場所から離れた。
そんなくだらんことに付き合ってる暇はないんや。
ウチが急いで家に戻ると、耕太くんは律義に待っててくれた。
そのことにウチは安堵すると、温くなったビールを冷えたビールと取り換える。
そして、二人でビールを飲み干し、いよいよ耕太くんの事情を聞いた。
大学の同級生に一目惚れして告白し、付き合ったこと。
その女の子からは常に高い要求を求められ、一生懸命がんばったけど女の子の要求を満たせず、ついに今日、フラれてしまったこと。
そして、そのことがショックで、気がついたら雨の中で座り込んでたこと。
その話を聞いた時、ウチは心の中でうらやましいと思った。
耕太くんにも、その女の子にも。
ウチは、恋愛をしたくてもできんのやから……。
まあ、ウチのことは置いといて、耕太くんにどうしたいか聞いた。
思えば意地悪な質問をしたもんや。
だって、そんなのフラれたその日に決められるわけないんやから。
多分、ウチは嫉妬してたんやろ。
だけど、耕太くんはそんなウチの意地悪な問い掛けを真剣に考えて、答えを出そうとして、でも、答えなんて出せなくて。
そして、とうとう耕太くんの目から涙が溢れた。
ウチは、自分が耕太くんに告げた言葉への罪悪感と、涙をこぼす耕太くんを可愛く思ってしまったことで、思わず耕太くんの頭を抱きしめてしもた。
すると、耕太くんはウチの胸の中で号泣してしもて、そのまま寝てしもた。
ウチはそんな耕太くんが可愛くて、今まで誰にも相手にされんかったウチに甘えてくれたことが嬉しくて、その余韻に浸り、耕太くんを抱きしめたままウチも寝た。
朝になると、耕太くんは勘違いしたようで、思いきり土下座した。
そんな姿もウチには可愛く思えて、ついついウチは耕太くんをからかってしもた。
それで、可笑しくなって笑ってしもたら、さすがに耕太くんもムッとした表情を浮かべた。
ウチは耕太くんに嫌われたくなくて、慌てて謝ると、耕太くんはすぐに元の表情に戻った。
そして、いよいよ耕太くんが帰る時になって、ウチは耕太くんとの繋がりを無くしとうなくて、無理やりRINEを交換した。
どうせ耕太くんから連絡してくれることなんかあるはずないのに。
なのに、ウチはほんの少しの可能性に縋って、こんな悪あがきをして……。
◇
耕太くんが帰ってしもた後、一週間経っても案の定、耕太くんから連絡はなかった。
そらそうや。
たまたま知り合っただけの、しかも見た目子どもな年上の女、引かれて当然や。
でも、ひょっとしたら病気になってて連絡できひんとか……って、ええ加減諦めな……。
ウチはかぶりを振ると、その時腕時計が鳴った。
ちょうどええ……ウチも少し暴れたい気分や。
怪人が出現した場所を確認すると、まさかの家の近所やった。
ウチはすぐ現場に着くと、怪人と戦闘員がこちらに気づいた。
「ニャアアアアア! コノ怪人マネキャット様ガ、コノ街ノ住人ヲ血祭リニシテヤルニャアア!」
ウチは野次馬を庇うように、怪人の前に立つ。
「怪人マネキャット! 大人しくしなさい!」
「ニャアアアアア! タッタ一人デナニガデキルニャア! オ前タチ、ヤルニャア!」
「「「「「ギー!」」」」」
すると、戦闘員達はウチに襲い掛かると見せかけ、野次馬達を狙った。
「なっ!?」
「ニャアアアアア! 蹂躙スルニャアアア!」
まさか野次馬を狙うなんて思いもせえへんかったウチは、慌てて戦闘員を止めに入る。
その時、小さな女の子が転んでしまい、怪人に襲われそうになっていた。
アカン!?
そう思った時、その女の子を庇うように飛び出した男の人がいた。
それが。
「こ、耕太……くん……?」
「え?」
やっぱり耕太くんやった。
耕太くんがこの街に来たのはこの前が初めてやったはずやのに、また来たっていうことは……って、アカンアカン! 期待しても、また裏切られるだけや!
それよりも、あの怪人どもを何とかすることと、つい耕太くんの名前を呟いてしまったことをどうするか、そっちが先や!
ちょうどその時、怪人が都合よく襲い掛かってきたさかい、それを蹴りで返り討ちにした。
さて……あとは耕太くんをどうするかやけど……。
「それより、ありがとうございました! おかげで助かりました!」
疑いの視線を向けられた後、耕太くんから出てきたのは、感謝の言葉だった。
ウチはそれに戸惑い、つい叱ってしまった。そんなつもりなかったのに。
そして今度は、女の子が母親と抱き合う姿を見て、ウチはつい耕太くんを褒めてあげたくなって、頭を撫でた。
そして、そそくさとその場を去り、建物の陰で変身を解いたんやけど……まさか耕太くんに見られてしまうとは思わんかったから、ウチは混乱して、耕太くんの襟首押さえて気絶させてしもた……。
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