出逢い④
「痛っ……ん……あ、あれ……?」
頭痛で目が覚めた僕は、ゆっくりと目を開ける。
すると、目の前には、同じく寝そべっているこよみさんがいた。
「え!? え!?」
僕は状況が分からず、頭がパニックになる。
「ん……あ、耕太くん起きたんか?」
こよみさんが目をこすりながらゆっくりと起き上がると、あくびしながら伸びをした。
「んんーっ……おはよう」
「あ、お、おはようございます……それで、その……?」
僕は嫌な予感がして、おそるおそる尋ねた。
「いやー、昨日はお酒が入ってることもあって、耕太くん激しかったなあ。おかげでウチも大変やった」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
「す、す、すいませんでした! そ、その、僕を殴ってください! せせ責任も取ります!」
「へえー……責任、なあ……?」
こよみさんは目を細めながら口を真一文字にして、土下座する僕を見据える。
「………………………………」
「………………………………」
お互いの間に緊張が続く。
すると。
「………………………………ブフッ!」
突然、こよみさんが吹き出した。
「アハハハハハハ! アカン! もうガマンできへん!」
みのりさんがお腹を抱え、大声で笑い出した。
……ひょっとして。
「ええと……みのり、さん……?」
「アハハ! ……え? い、いや、ゴメン! 冗談や冗談! そんな顔せんといて!」
どうやら表情に出てたようで、みのりさんは慌てて謝罪した。
「だ、大丈夫や。耕太くんはあの後、泣き疲れてそのまま寝てしもたさかい」
ああ……それはそれで恥ずかしい……。
「その……すいませんでした……」
「ええからええから」
そう言って、こよみさんは手を振りながら微笑んだ。
◇
「あの……それじゃ、そろそろ帰ります」
昨日洗濯してもらった服に着替え、僕はこよみさんにあいさつをした。
「うん。帰ったら、しんどくてもちゃんと学校行くんやで?」
「あ、え、ええ……」
こよみさんの言葉に僕は気まずくなり、つい言い淀んでしまった。
「耕太くんええか? 大学行くには、たくさんお金が掛かるんや。それでも払ってくれる親御さんがいてはること、忘れたらアカン」
すると、こよみさんは打って変わって真剣な表情で僕を諭した。
「は、はい」
「ん。ほな、気をつけて帰るんやで! またつらいこととかあったら、ウチがまた話聞いたるさかい」
ああ……こよみさんは本当に良い人だ。
だからこそ、これ以上迷惑かけるわけには……。
「はあ……耕太くんって、結構分かりやすいなあ。こうなったら実力行使や! 耕太くん! 今すぐスマホ出すんや!」
「え、ええ!? って、ああ!?」
こよみさんは僕のポケットに手を突っ込み、無理やりスマホを取り出した。
「ホラ耕太くん! パスワード!」
「え? え? えと、“412900”」
「よし!」
こよみさんは素早くパスワードを打つと、RINEを開いて自分のスマホをかざす。
「ん! ほなこれを……」
どうやら僕のRINEのQRコードを読み取ったようだ。
「ほい。返すで」
「わっ!?」
こよみさんが投げ返したスマホを受け取ると。
——ピコン。
スマホの着信音が鳴った。
画面を見ると、RINEスタンプが送られてきていた。
「それ、ウチのアカウントやから。ちゃんと登録しとくんやで?」
「は、はあ……」
なんだか強引だな……。
だけど、それを悪くないと感じている自分がいた。
「で、では、失礼します」
「うん。気張るんやで!」
見送るこよみさんに手を振ると、僕は地図アプリを見ながら最寄りの駅を目指した。
◇
■こよみ視点
「ああああ! ウチはなんちゅうことを!」
耕太くんを見送って玄関のドアを閉めると、ウチは頭を抱えてその場でうずくまった。
「ホンマ、ウチは何を考えてるんや……フラれて傷心の年下の男の子を部屋に連れ込んで、挙句、一晩一緒に過ごすやなんて……」
思い出しただけで顔中が熱くなり、ウチは思わず両手で顔を覆う。
最初に耕太くんを見かけたときは、あまりにも壊れてしまいそうに思えて、気がついたら声を掛けてた。
ウチが声を掛けても耕太くんの目は虚ろで、だから少々強引やったけど、無理やり目を合わせて話をすると、ウチを見て少し笑った。今から考えたら失礼やな。
その後はウチのペースに引きずり込んで部屋に連れてきたけど、耕太くん、ずっとおどおどしてたな。
でも、少しは気も紛れたようで、戸惑いながらも会話ができるようになった。
で、いよいよ話を聞こうかっちゅう時に、まさか本部から呼び出しがくるやなんて……!
いつもいつも、タイミング悪いっちゅうねん!
そんなこと言うても行かなアカンさかい、不承不承耕太くんを部屋に置いたまま現場に直行して、ちゃっちゃと用事を済ませて戻ってきたわけやけど……。
あの時は気が気やなかったで。
もし万が一、耕太くんに何かあったら思うと、なあ……。
とりあえず最悪のことはなかったさかい、ウチはホッとして、まずは酒の力を借りて耕太くんの話を聞いた。
耕太くんの話を要約すると、大好きな彼女にフラれて、ショックで無意識にふらふらとうちの近所までさまよって来たちゅうことやった。
女々しい言うたらそれまでかもしれへんけど、何でか知らんけどウチはそんな耕太くんが見てられへんかって、気がついたら頭を撫でた後、胸に抱き寄せてた。
で、耕太くんはそのまま泣き疲れて寝てしもた訳やねんけど……。
「はあ……何もないとはいえ、そのまま一緒に一晩過ごすやなんて……ホンマにウチって奴は……」
アカン、溜息しか出えへん……。
でも。
「上代耕太くん、か……可愛いかったな……って、ウチは何を言うてるんや!」
ウチは振り払うようにかぶりを振る。
それでも、何でか分からんけど、耕太くんの顔が頭から離れんかった。
「また……逢えるやろか……」
ウチは、いつの間にか無意識に出た言葉を、しばらくの間、心の中で反芻していた。
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