第4話 「ドンドンパフパフ」

俺は今バイトをしている。ここ、駅から徒歩5分程のところにある古本屋「正木書店」が俺のバイト先で古本の他には週刊の漫画雑誌が何種類かあるだけなので基本的に暇だ。

普段なら潰れない程度に売り上げがあれば暇なことはいいことだと思ってきたし何より楽で静かなのがお気に入りなんだが……。


暇だからこそあのクソ女のことが頭から離れねー。




◇◆◇◆

バイト前



うげ、まだいやがる。しかも目まであっちゃったよ……。さすがに一声くらいかけるか……?

いや無視だ無視。関わるとろくなことがない。

そーっと、そーっと……



「ねぇ、男が嫌いだって言ったのは私だけれど、さすがに目まであったら普通声くらいかけるものではないの?それともあなた人としての常識をお持ちでなくて?」



げっ……、ばれてーら。いやね、お互い女嫌いと男嫌いなんだからさそっとしとこうぜ。

なんでわざわざ話すわけよ。



「なんだよ、なんか用かよ」


「別に用なんてないわよ。ただあなたの行動が目に余ったから不本意ながら同じ生物として忠告しただけよ。わかったならさっさと目の前から消えなさい」



◇◆◇◆




なんていう出来事があった訳だが。

さすがにこれ理不尽すぎない!?

いくら男が嫌いって言ったって限度ってもんがあるだろ!?!?

いくら俺が女嫌いでもここまではしねーしそもそも嫌いなら触れなきゃいいんだよ。

ほんとに何考えてんのかわかんねーし気味が悪い。



ちなみに店長にこれを言ったところ「ほっほっほっ、それはあれだな最近若者に流行りの''ツンデレ''ってやつだな!!」と言われ殺意が湧いたのでとりあえず今普段俺がやる本棚の整理を罰としてやらせている


閑話休題



さすがに大家さんもこの時間には帰ってきてるだろうしどうせ学校だって話さないんだ。

あいつのことばっかり考えてても仕方がない。

とりあえず無視しとけば問題ないはず。



お、ちょうどいいところに珍しく客がきたじゃねーか、ナイスタイミングだ。


……ってえっなんかめっちゃ見てくるんですけど。学校とは反対方向だし同じ学校ってことは無いよな……。ってことはただのナンパか?でも結構なおば……いや年上の方なんだよなぁ。何がしたいのか。



「あ、い、いらっしゃいませー」



いやなんか見覚えがあるような。

あれあの人どっかで……。

……。

…………。


ん、もしかして、



「大家さん、ですか?」


「ピンポンピンポーンだーいせーかあーい!!よくできましたー!!」



ドンドンパフパフ〜みたいな効果音が似合いそうなこと言ってるけどこの人結構年いってたような。

いやそんな見え透いた地雷を踏むような俺ではないしそんなアホなやつはいない。ここは普通に挨拶でスルーだ!



「あ、いつもお世話に……」


「おー!!千代ちゃんじゃねーか!なんだいそのドンドンパフパフ〜みたいな効果音ついてそうな台詞は。あんたもうそこそこ年齢いってんじゃ」



あ、踏んだ。

しかも躊躇なくおもっくそ勢いよく踏み抜いたわ。

うわ〜大家さんめっちゃ怒ってるよ、プンスカじゃなくてゴゴゴゴゴってのが似合いそうなガチでキレてるやつだこれ。



「たしか和明くんだったわね、少し店長さん借りてくわね〜」


「あ、はい、どうぞ。見てるしそもそも誰も来ないのでごゆるりと」



大家さんは店長を引き連れて奥へ入っていってしまった。あの2人仲良さそうだけどどんな関係なんだろ。

大家さんは千代子って名前だけど千代ちゃんって呼んでたし昔からの知り合いって感じかなぁ。

なんか奥ですごい音してるけど……俺は知らない俺は知らない……。


しばらくすると大家さんが頬が腫れている店長を引っ張って出てきた。



「今から奢らせるからちょっと店長連れてくわね?」


「なんかこんなことになっちゃってすまんな。もう帰っていいぞ金は閉店まで払うから」



お、それはラッキー!



「うっす、じゃあ帰らせてもらいます。お疲れ様でした〜」



店長……。明日生きてるといいな……。






ん……、なんか忘れているような……。


うーん思い出せない……。



ま、いっかそのうち思い出すよな。

早く帰ろうっと。







「あ」



俺のアパートに着いた瞬間だった。

忘れていたものが思い出されてしまった。

そのまま忘れたままでいたかったまであった。

そう、学校から帰ってきた時と、そしてバイトに出た時と全く同じ姿勢で座ったままの桜井美咲がそこにはいた。


やばいやばい、まだいるってか大家さんに言わなきゃいけなかった。

しかも店長連れて飲みに行っちゃったよ。どうするよこれ。


悩んでいるとまた目が合った。



「あ、あの、そのだな……」



俺が話しかけるとまた本に目を落としやがった。

いやおかしくね?



「なんでだよ!目合ったら挨拶しろって言ったじゃねーかよなんでお前も無視するんだよ!!」



桜井は、はぁ……。と息を吐くと俺に向かってこう言った。



「なんで常識の無い人でないものに挨拶しなければならないのかしら。それともあなたは自分が人間だと思ってるの?用なんてないわよね」


「いやれっきとした人間だが。あと俺が話しかけたのは用があるからだ」


「人ですらないものが用って何?くだらないものだったら許さないわよ」



やっぱこいつだめだわ。女子とかそういう問題じゃなくてそれこそ人間として関わりたくない。



「別に聞きたくないなら聞かなくていいんだが。わざわざ嫌いで嫌われてる奴に話しかけてる俺の身にもなってみろ」


「嫌われてるって自覚があるなら早く失せなさい。用事があるなら早く」


「お前に嫌われたからって失せたくはない。用な、大家さん、あと2時間はかえってこねーよってことなんだが」


「なんであなたが知ってるの?悪戯なら悪質よ?警察行こうかしら」



そんなこと言って立ち上がろうとしているが残念ながらほんとに帰ってこないんだよ。



「ちょっと待て立つなこれはマジだ。大マジだ。うちのバイト先の店長連れて飲みに行ったところを見たからな」


「何喋ってるのそこにいたなら鍵がない奴がいるって言えたわよね。あなた馬鹿なの?死ぬの?」


「いや外にいるのはお前だしどちらかと言えば死ぬならお前だろ。それに俺もあとから気づいたんだよ」


「私が死ぬ前にあなたを殺すわ」



こえーよ。こいつならほんとにやりかねない。逃げたい。

よし、ここは早口でまくしたてて逃げよう。



「という訳だ。用は以上。まあちょっと俺も罪悪感あるから?部屋入れろってなら飯くらい作ってやるんだが?お前男の家入るの嫌って……」


「行くわ」



は?



「ん?」



なんかおかしなことが聞こえたような。

空耳かな。



「だから行くって言ってるのよ」



行くって……?どこに?



「どこか行かれるんですか?」


「あなたの部屋よ。あなたが言ったじゃないご飯作ってくれるんでしょう?」



あなたの部屋、あなたの部屋……って……






俺の部屋!?!?








◇◆◇◆

お知らせ


作者が甘々成分が足りなさ過ぎて疲れてきたので本日夜より不定期にあまあまイチャイチャラブコメディ「僕と幼なじみな彼女の365日」の投稿を始めます。

この作品共々応援していただけたら幸いです。

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