第3話 「隣」
あいつ、桜井美咲が火曜にうちのクラスに来てから一週間が経った。
お察しの通り俺との接点はほとんどないしなんなら女子とすらあまり関わっていない、というか関わることを拒絶しているように見える。
まあ俺には関係ないんだけど……。
あいつら、特に珍しく智がうるさい。
智は彼女もいるしそんなはっちゃけたことをするようなタイプでもないから普段は他人に深く介入することは少ない。
だから智なりになにか意図があるのかと思って気にはしているだけど智は何を考えてんのか……。
こんなことを考えながら1人での学校からの帰り道。
翔太と悠真はサッカー部に入っているから一緒に帰れず、帰宅部の俺は普段智と帰るんだけど今日は智の彼女が部活がないということで今日は1人で帰っている。
なんで俺が帰宅部かって?
部活に入ってると出待ちとかあって鬱陶しいから。中学の時はバレー部に入ってて、バレーが嫌いになったわけじゃないけど高校に入ってからはそれが嫌で帰宅部だ。
帰宅部とはいえ付き纏ってくる奴らもいるにはいるが全力で学校から出ることで基本的には回避出来るので中学時代よりは幾分マシになった。
これまで部活をしていた放課後はあまりに暇だったのでゴールデンウィーク明けからじじい1人で経営してる古本屋で週に3日バイトをしている。時給は安いが暇だしなにより人が来ないから騒がれないのが選んだポイントだ。
そして学校から徒歩15分の木造3階建てアパートが俺の住処だ。
両親は俺が人間関係で悩んでいることを知って一人暮らしをすることを許してくれたし徒歩15分というのもあまりに学校に近すぎると人が押しかけてきたり同じところに住んでる学生がいる可能性があるからという理由である程度距離のある所を選んだ。
だからちょっと古いくらいは愛嬌くらいに思ってるしそこそこ気に入ってもいる。
そんな住処に今日は何事もなくつい……た……?????
あれ?ここ俺の家の前だよな。沢渡って書いてあるし……。
って、
「誰かいるー!!!!」
「うるさい」
「いや家の前に座られてうるさいも何も無いんですけど、桜井さんよ」
そう、何故か俺の家の前に本を読んで座っている桜井がいたのである。
自分の家の前に人がいて驚かない人いないと思うんですけど。
しかも俺って人に囲まれないために早めに帰るから先に人がいるなんて思いもしてなかった。
「は?ここあなたの家なの?失せなさ……あ、間違えたわ失礼したわね」
今失せなさいって言おうとしたよね、文字だと似てるなとか思うけど発言じゃ丸わかりだよ。
あとなんで俺の事認識しといて動かないのさ1回どいて欲しいんですけど。
「あのさ、失礼とかいいからなんで俺の家の前にいるのかだけ説明してくれない?」
「隣が私の部屋だからよ。鍵失くして今大家さん待ってるだけ。これでいい?」
「はぁ。隣がお前なのはこの際置いといても別に他に暇潰す場所くらいあるだろ」
小学生とかせめて中学生ならともかく高校生は金もあるしぶらぶらするくらいならできるだろうに。
「はぁ。あなたは馬鹿なのかしら。私が歩いたら男がよってきて面倒なことになるってことくらい分からない?あなたも見てくれはいいからわかるかと思っていたけれどそこまで頭が回らないなんて」
あ……。そっか。
発言自体は気に入らないけどこれは俺が悪いな。
自分がされて1番嫌なことは当然他のやつもされて嫌なことだろうに。
「すまん、これは俺が悪い」
「あら、もっと反発してくるかと思ったけれど殊勝な心がけね。まあいいわその態度に免じて許してあげるわ」
「それはありがたい。それと本当は知らない人じゃないから一旦うちに入るかって言うところだろうが生憎俺は女という生物が嫌いでな。見た感じそちらさんも男は嫌いだろうから入らないだろう」
「そちらさんってのは少し気に入らないけれど、そうね、吐き気がするほど嫌いだわ。男の家に入るくらいならここで野垂れ死んだ方がマシよ」
ま、そりゃそうだ。俺だって女に家に入っていいって言われたとしても絶対何か裏があると思うし入る選択はしないしな。
「じゃそういうことで」
…………。
何とか乗り切れたはいいんだがそもそも隣があいつだという根本的な問題は残っているわけで。
いやよく考えたらそんなに隣と関わることもないな。教室で隣の席なのに喋らない人間とわざわざ壁を隔ててるところで関わろうとは思わないし。
とりあえずバイトまで時間もあるしおやつでも食べることにする。
今日のおやつは昨日スーパーで買ったお徳用ラスクにコーヒーで。
あ、でも先に着替えた方がいいか。
うちのバイトは制服とかいう概念は無く基本的に奇抜でない私服ということになっているので適当にTシャツに黒のスキニー、上からシャツを羽織っておく。
これで終わり。
ふぅ……。やっと落ち着けた。
(私が歩いたら男が寄ってきて面倒なことになる)
ふとさっきの桜井の言葉が浮かんだ。
そういやあいつも顔は可愛いもんな……。
それが原因で人間が嫌いになってたりして。
いや、それはないな。あれはあいつの素の性格だろ。
───でも、少しだけ、絶対に関わらないと決めた彼女に何故か親近感が湧いた。
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