10年前から、今まで

深谷田 壮

10年前から、今まで

 10年前の、私へ。

 えー、私は、10年前から、変わらず。あ、ちょっと変わったか。この施設で住んでいたけど、変わって、週に一回通っています。

 ここでは、快適です。えっと、とても過ごしやすいです。えっと、そうですね。なので、毎週、少し楽しみにしています。えっと、海の音が素敵です。落ち着きます。

 あの、そこにいるのは三崎さんですか。このメッセージはどれぐらい喋ればいいですか?

 (好きなだけ、喋ってください!)

 あ、はい。わかりました。

 初めてここに来た日から十年経ちました。その間、私は、幸せです。きっと、十年前の私がそんなことを聞いたら、きっと、信じられないよね。そうだよね?自殺しようとしてたもんね?

 でも、大丈夫。この施設の人はみんな優しいし、食事もおいしいよ。

 ええと、他に、何話そう。

 (無理なら、もう大丈夫ですよ)

 三崎さん、ありがとう。でもね、私、もっと伝えたいの。

 あ、そうだ、今ね、私、大学で、福祉の勉強をしているの。楽しいよ。友達も親切で、助かってる。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、みんな、大好きだよ。私の夢を、応援してくれてる。教授だって、私が「わからない」って言うと、わかるまで説明してくれる。みんな、優しい。みんな、私に優しい。みんな、私にだけ優しい?

 それでも、みんなとは、違う。私は、違う。私だけが、違う。どうして?どうしてこんな施設に私は通っているの?

 本当なら、この施設には通わないはず。なのに、まだ、このようにして、週に一回、通ってる。なんで?

 まあ、当然だよね。私、自殺しようとしたし。

 それに、自殺未遂をなんでしたかって、目が見えなくなったからだからだよね。書道の家元だったのに。なんで失明なんかしちゃったの?教えてよ!十年前の私!ねえ!

 お父さまみたいに、立派な書道家になりたかったのに!どうして!私は!目が!見えないの!

 今だって!目が見えていたら直筆なのに!私の美しい字なのに!音声メッセージなんて!なんで!訳が分からない!

 私は!これから!どうすればいいの!

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10年前から、今まで 深谷田 壮 @NOT_FUKAYADA

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