3 名前のない関係性
「やっぱ海に来たからには定番だよな。真珠取り出し体験はさ」
「何処基準の海の話してんの? 馬鹿なの? そんなのやってる海の方がレアケースでしょ……」
「やってみたら楽しいかもしれないだろ。俺が奢ってやるって」
「奢られてもギリやりたくないラインなんだけど」
「あ、お客さん俺達しかいなさそうだぞ。ラッキーだな」
「Aくんって本当に私の話聞いてないよね!?はぁ……早く死にたい……」
そう言って、溜息を吐きながら嫌々ついてきた三峰だったのだが。
「やばい、何これ! 超楽しい!! 私、真珠取り出しの天才かもしれないんだけど!!」
お店の人に教えて貰い、恐る恐る一つ目を取り出してからコツを掴んだ三峰は、意外なほどにはしゃいでいた。真珠取り出し体験の何かが三峰に響いたらしい。
「それはよかったな……」
一方俺の真珠は、これぐらい簡単だとカッコつけたくせに、手の中でボロボロになっていた。それを見て、三峰は勝気そうに笑う。楽しそうな様子が憎たらしい。
「あっれー、やろうって言ったの誰でしたっけ? まぁ、私は? 天才ですから?? 出来ちゃいましたけどー??」
「……ぜってー、負けねぇ」
「精々頑張ってくださーい」
「くそッ! 高見の見物しやがって!」
ケラケラと楽しそうに笑う三峰をグッと睨み、俺は神経を全部手元に集中させて真珠を取り出す作業に集中する。そして、納得のいくものができたころには空が暗くなってきていた。
「ありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそ教えがいがあって楽しかったです。彼女さん、すごく上手でしたね」
お会計をするために店員さんに話かけると、店員さんがニコニコとこんなことを言った。作業をしている最中、何故か俺達を微笑ましいものを見るような目で見ていた理由はこれだったみたいだ。
「いえ、コイツは彼女じゃ……」
と、誤解を正そうとして。俺はチラリと三峰を見てから言葉を言い直した。
もしかしたらこの誤解は、何かに利用出来るかもしれない。
「ありがとうございます!! 凄いですよね、俺の彼女!! 最高!」
「はぁ!? 誰が彼女ッ、んぐ」
俺の言葉に、心外だとばかりに口を開いた三峰の口を押さえ、小声で叫ぶという器用な芸当を彼女の耳元で行った。
「別にいいだろ! 慈善活動だと思ってくれよ!! 徳積めるぞ!! この1票があとあと地獄で響いてくるぞ!!」
「そもそも何で地獄に落ちる前提の話なわけ!? それに、そんな些細なの響かないでしょ!」
「いーや、響くな。今まで善行一筋で生きてきた俺の清き1票を侮るなよ」
「授業サボってたやつが言えるセリフなの、それ。自分を見つめ直した方がいいと思うけど」
「お願いだって!! むしろ逆に、店員さんに俺達の関係をなんて説明するつもりだよ」
「そこは普通に……」
三峰はそう言って、頭を悩ませた。俺達の関係は、ただ偶然出会って海を見にきただけの関係だ。友達でも恋人でもクラスメイトですらない。
三峰が俺達の関係を何と表すのかが気になって、三峰の顔を見つめていると、三峰が不機嫌そうな顔で溜息を吐いた。
「……まぁいいか。説明するのも面倒くさいし、どうせ死ぬし。最後ぐらいモテなくて可哀想な男子高校生を助けてあげてもね」
「お前本当に突き刺しにくるよな……」
俺と偽装カップルをすることと関係を説明することでは、説明することの面倒くささが勝ったらしい。それがはたして、喜んでいいラインなのか分からない。
刺々しい三峰の言葉に胸を抑えている俺を見て、「仲良しですね」と笑っている定員さんは俺達の前に、先程取り出した真珠を取り出した。
「ただ今、取り出した真珠をアクセサリーに加工するキャンペーンを無料で行っておりまして。加工するには1週間ほどかかりますが、いかがなさいますか」
是非を問うように、チラリと三峰の方を見ると、三峰は迷うように視線を彷徨わせていた。せっかく自分で取り出した真珠は欲しいが、今日死ぬのなら関係ないと悩んでいるのだろうか。それとも、今日死ぬからいらないとは言えずに黙っているのかもしれない。
それならこの展開は、三峰を生かしたい俺にとっては願ったり叶ったりのチャンスである。そう思ってニッコリ笑い、複雑そうな顔をしている三峰の手を握って店員さんに見せつけた。
所謂、恋人繋ぎというやつだ。
「加工お願いします。2人でまた1週間後に取りにきますから。ほら、何せ俺達ってカレカノなので」
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