第38話・目がスピン魔王ソード
翌朝。
「お弁当は持った?」
「持った~」
別邸でパルミナやオルテナス一家と夜を明かしたランチュウは、ナーナに手伝ってもらいながら出発の準備を整えていた。
「何も持ってないじゃないの」
「ストレージに入れてるんだってば。亜空間ポケットみたいなもんだから見えないし腐らないんだよ」
「ひょっとしてパルミナ様が空手なのもストなんとかの仕業かい?」
「量が多すぎて振動や重力に耐えられそうもないからねえ。アタシが預かってるよ」
ナーナとの会話は、更紗が実家にいた頃を思い出させる。
「じゃあ行って来るよ。実験がうまく行けばの話だけど」
超空間勝手口を開けて、北方エリアと北北西エリアの境界線にある別邸に空間を繋げて外に出る。
「なんですかこれー⁉」
魔王用の巨大な玄関の前にパルミナが出現した。
「よっしゃ、これでかなり時間を節約できたぞ」
ランチュウにテイムされたパルミナはパーティーメンバーと同じ扱いなのか、ランチュウが超空間勝手口を抜けると強制的に転移する仕掛けになっていたようだ。
「こりゃ便利。しかもナーナさんがくれた木札のおかげで超魔王邸に行く必要もなくなったし」
ナーナはゴンゾーラのメールを超魔王邸の端末ではなく、魔海樹の断片から作られた木札に保存していた。
メモリーカードのようなアイテムらしく、別邸には最低でも必ず1枚は常備されているらしい。
おかげでランチュウは風呂上りのシッポ穴つきブリーフ一丁で鼻歌混じりにメールを確認できた。
内容は魔王剣の位置情報と、ヘスペリデスの侵食による環境変化と人口分布。
ランチュウが制圧した魔海樹のシステムが、どのように変化したかなど、プログラムの知識のないランチュウにはチンプンカンプンな部分も多かったが、これは臨時メンテナンスが終り次第、ゲーム内メールでショウタ君にコピーを送れば分析してもらえるだろう。
「ほれ、さっさと行くよ! アタシゃ飛ぶの苦手だからパルミナが飛んどくれ」
ランチュウは2段ジャンプで回り込みながらパルミナの後ろに出て、髪の毛を掴んだ。
そのままモゾモゾと頭髪の海に
「きゃっ、くすぐったい!」
「いいから翼出せ! 昼までに着かないと間に合わないからねえ!」
「お昼はどうするんだい?」
「ナーナさん、お昼は街で済ますから夕食だけお願い」
「わかったよ。でもパルミナ様の分は無理だよ?」
巨大な魔王は常人の50倍もの体積を持つため、その食事は小さな魔獣人の手に負えるものではない。
「なるべく早く帰って来るよ。間に合わなくても街で弁当買う……50人分かあアタシの財布大丈夫かなあ……?」
「大丈夫だったら、ついでに買い出し頼めるかい?」
「いいよ~」
昨晩はパルミナのためにカレー粉と黄色野菜を全部使ってしまい、オルテナス一家が使う食材まで足りなくなっているの。
「米も買っとかないとねえ」
「昨日のカレーおいしかったです」
味付けはランチュウが、ジャガイモの皮
しかも初めてのカレーである。
パルミナはたちまちエスニックな味わいの虜となった。
おかげで鍋が空になってしまい、超魔王邸にあった米の備蓄も
「ほれほれ、そろそろ行くよ」
「は~い」
パルミナが巨大な翼を広げ、ランチュウは髪の中から頭頂部へとよじ上る。
「角に
「後頭部に小さいトゲが2つ生えてます。足はそこにかけてください」
「わかった。おほっ、こりゃ楽でいいや」
「では行きますよ」
ランチュウが体を固定させたのを確かめてから、パルミナはドスドスと助走をつけて豪快に離陸した。
「やっぱ速いねえ。これならすぐにでも着き……ちょいと寒いかな?」
「洞窟は温かいので、それまで我慢してください」
「へいへ~い」
パルミナの長い髪に潜り込んでモゾモゾするランチュウ。
「ランチュウさん、くすぐったいですよ」
「いやいやうにゃうにゃ、ここあったけえ」
もぞもぞ、ごそごそ。
「それなら大丈夫そうですね。もう少しスピード上げます」
「うんオッケー。噴火口のちょいと手前で降りとくれ」
「直接アプローチをかけた方がよくありませんか?」
「2手に分かれて、アタシゃダンジョンの入口から進入するよ。ザコ魔獣たちがどーなってんのか見ときたい」
「それは私も興味あります。彼らが元気に暮らしているといいのですが……」
近隣の魔海樹は、前にビエマーチュ迷宮で戦ったついでに制圧しておいたので、ダンジョンの魔獣たちと戦闘になる心配はない。
「知性持ちがいるといいんだけど……」
ゴンゾーラのメールは、その半分以上が専門知識を要する難解な内容で理解できず、せめてメンテ中に少しでも他の情報を集めようと、ランチュウは話の通じる魔獣を探そうと考えていた。
ザコ魔獣の中に混ざっている、世界樹ネットワークの下位管理者なら、パルミナやゴンゾーラとは別の視点でヘスペリデスの侵食を体験・観察しているのではないかと思ったのだ。
「着きましたよ。降りてください」
お
「へーい」
パッと飛び降りてウルトラCで華麗に着地。
既存のモーションに頼らないアナログ入力なので、難易度はかなり高い。
「それじゃ、ラスボスの間で会おうね」
「
「ラスボス代理がいたら話つけといて。こじれたらボコれ」
「ええ~っ⁉」
シナリオの呪縛で魔王を演じていた時と違って、いまのパルミナはあまり戦闘向きの性格ではない。
「大丈夫、アンタはそう簡単にゃ負けねーよ。長引いたらアタシが助けてやっからさ」
そう言い残してランチュウはダンジョンの入り口を潜る。
岩がむき出しの通路は、光る水晶が点在しているので照明がいらない。
「誰かおらんか~?」
本来なら恐る恐る入るべきダンジョンであっても、メンテ中で魔獣たちが正気に返っている上、彼らは魔海樹の制圧によりランチュウの配下に収まっているはず。
たとえ遭遇しても戦闘が起こるとは考えにくい。
「フサニコングの例もあるし、喋れなくてもコミュニケーションは可能だと思うんだよねえ」
このダンジョンに何かおかしな事態が起こっていれば、それなりの方法で教えてくれるのではと期待していた。
「……誰もいない?」
どうやら臨時メンテナンスで開放された魔獣たちはダンジョンを脱出し、つかの間の休日を楽しんでいるらしい。
「気配もねーな。こりゃ無駄骨だったかな?」
早くもパルミナに乗ったまま火口を降りればよかったと後悔するランチュウ。
だが魔獣はいなくとも、何かの手がかりが落ちている可能性は否定できない。
枝分かれしたダンジョンを手探りで、重箱の隅をつつくように探索する。
「なんにもね~……いやコレは好きなんだけどさ」
通路の真ん中に、何かで磨いたようなピカピカの白骨が転がっていた。
「これ拾って帰れねーかな?」
おみやげにしたいところだが、あいにく白骨は背景オブジェクトでテイクアウト不可である。
「毒グモくらい住んでね~もんかねえ」
背中に落ちたのを素手で払い落とすのがランチュウの夢である。
「ごめんくださ~い」
人間1人がやっと入れる穴を、仮想更紗の視点操作で反対側から見ながらくぐり抜けると、そこにはオーソドックスな宝箱が、これ見よがしに置いてあった。
「ケナガミミックさんかい?」
返事はない。
ただの宝箱のようだ。
ちなみにケナガミミックは、
「こりゃさっさと用事を済ませて、街で情報収集した方がいいかもしんねーな」
だが1つだけわかった事がある。
少なくとも、いまこのダンジョンに魔獣はいない。
「小さすぎる生物は魔獣でもエネミー扱いじゃねーから無事だけど、こりゃ思ったより大変な事になってるっぽいねえ」
足元をモゾモゾ歩くダンゴムシっぽい魔獣(?)を見ながら
おそらく生態系の破壊は、こんな
「こりゃ探索やめて先を急いだ方がいいな」
移動のペースを戦闘機動に切り替えた。
両手の短剣で重心を制御し、カクカクと変態的な挙動で障害物をクルクル回避しながら通路を走る。
「……おややん?」
苔にまみれた階段を見つけて縦横に回転しながら登ると、ガッチンガッチンと何か硬いモノを叩くような音が聞こえた。
「戦闘……まさかね」
ショタロリ団が攻略してから数年を経てアップデートと自動生成を重ねたダンジョンは、以前とはまるで違う構造になっていたが、大まかなルートはそれほど変化していない。
本来なら中ボスがいるべき広間に出ると、打撃音はさらに大きくなった。
「ここじゃねーな。もっと先か?」
音はもっと奥の方から聞こえている。
「ラスボスの間でパルミナが何かと戦ってるんかいな?」
イベント時に持っていた戦闘技術と戦意を失っているとはいえ、パルミナは現在も立派なバケモノである。
アレと戦える魔獣など、そうそういる訳がない。
「まさかゴンゾーラが帰って来たんじゃ……それはねーか」
またシナリオの支配を受けたのかと思ったが、打撃音は金属的な響きで、端末樹の果実で見たマスペペの爪や牙とは明らかに異なる。
時おりドガガンと大技っぽい轟音が混ざっていた。
「アイツ魔王剣を抜いたな?」
主武装を取り戻したパルミナなら、どんな大物魔獣を相手にしても、身を守るくらいは難しくないだろう。
「でもまあ、アイツの覚悟じゃ倒しきるまでにゃ
早く行かないと、逃げられたり木っ端微塵に粉砕したりして、一体何と戦っていたのかもわからなくなる可能性がある。
そんなモヤモヤを抱えたまま帰るのは嫌だ。
「まだ生きてっか~?」
「は~い♡」
ラスボスの間に到着すると、パルミナは魔王剣を放り出し、徒手空拳で何かを解体している真っ最中であった。
ぼっきんぼっきん。
銀色に輝く巨体から、手だか足だかわからない突起物を盛大にぶっこ抜いている。
ちぎったらバチバチと火花が散った。
「なんだこりゃメカかいな⁉」
目の前でバラバラにされつつある物体は、どうやら巨大な機械のようである。
引きちぎられたパーツの中に、大砲なんだかビーム兵器なんだか見わけのつかない兵器類が混ざっているのが見えた。
つまりこれは戦闘用、誰も乗っていないようなのでロボット兵器と思われる。
少なくとも魔獣ではない。
「よく勝てたなあ」
「命を持たない敵には容赦しません」
まるで木の根をぶっこ抜くようにロボの手足をバラバラにするパルミナであった。
「素の性格でコレだもんなあ……いや、ああ見えてさりげなく戦闘モード発動してるとか?」
金属製のボディを引きちぎるなど、どう見てもランチュウが戦った魔王モードのパワーを遥かに超えている。
知能制限も解除されているのか、キャーキャー叫びながら逃げ回っていた臆病なパルミナはもういない。
ここにいるのは殺意もなく敵性物体を解体する鬼神であった。
「おっかねーな……しっかし派手にぶっ壊したねえ」
バラバラにされたロボは機能を完全に停止し、動力炉の爆発や自爆の心配もなさそうだ。
「でも、これじゃ元がどんなヤツたったのか想像もできねーよ」
デザインの方向性さえわかれば、どんな経緯でヘスペリデスにまぎれ込んだのか推測できると思ったのだが、手足を抜かれ装甲を
「すみません、びっくりして思わず暴れすぎちゃいました」
「ま、しゃーねーか。他にもいるなら、そのうち見れんだろ……いるじゃん」
地面からモコモコとロボが生えて来た。
「何ですか、あれ?」
パルミナが知らないなら、あれは魔獣ではない。
「どっかで見た事あるな……スクショ撮って、あとでショウタ君に照合してもらおう」
ロボは地面や壁から次々と現れた。
逆関節の2足歩行で、腕に重火器を装備したタイプ。
8本足でクモのような形の機械。
比較的小柄でゴリラのようなタイプもいる。
「機械の魔獣、機械じゅ……は著作権的にダメだな。じゃあ
いかにもランチュウらしい適当かつベタベタなネーミングであった。
「パルミナ、こいつらどーするよ?」
「ここの魔獣たちと出くわしたら大変な事になります」
いまは休暇でお出かけ中の魔獣たちだが、シナリオの支配が戻って帰って来たら、機械たちと戦闘になるのか仲良くなるのか見当もつかないが、彼らに被害が及ぶ可能性は避けたいところである。
「じゃあ殲滅だな。デカいのは任せた」
「でもあれって変なの撃って来ますよ?」
「いかにも火器類を満載してるって感じだねえ」
「大して痛くもありませんが……ここから出て山ごと消去した方が確実ではないでしょうか」
「そんなのできんの⁉」
というか、平気な顔して地形を変えようとするパルミナの発想が地味に怖い。
「いまは樹王鍵がありますから」
やはりパルミナが本来持っている職権と戦力は想像以上だったらしい。
「いまの戦闘モードより、さらに上があんのかい……戦術モードとか戦略モードとか」
パルミナには、まだまだランチュウの知らない物騒な機能があるらしい。
「でもそれって、いまダンジョンに残ってる小動物まで全滅するんじゃない?」
世界樹のオペレーターである樹王の職務は、生態系の管理と保持である。
「そうでした。では殴り潰しましょう」
「いいねえその発想。アタシゃそーゆーの大好きだよ」
現れた機獣の数は、パルミナが分解したのと同じタイプが3体に、クモ型が2体、ゴリラ型などの小型タイプが十数体といったところ。
そのすべてがメタリックカラーでギラギラしている。
昼間の屋外で出会ったら目が痛くなりそうだ。
「こいつらどっから
機獣が発生した壁や床には巨大な凹みが残っていた。
穴はどこにも通じていないようなので、やって来たのではなく、ここで発生したのだろう。
「なるほど命を持ってないって話はマジだったか」
機獣たちは魔海樹の生産物ではない、魔獣とは別のカラクリで生まれた敵性物体だとランチュウは判断した。
この世界にとっても異物なら、パルミナが容赦しないのも頷ける。
「今度はなるべく
パルミナが魔王剣を振りかざす。
「せいっ!」
下ろすと巨大なクモ型機獣が真っ2つに裂けて転がった。
「やるじゃん一撃かよ! アタシもうかうかしてらんないねえ!」
小型機獣の群れを
カカカカカカカカッ! カカカカカカカカカカカカカカカカッ!
ゴリラ型機獣は背筋に
次の瞬間には、もう1体が。
「やっぱ装甲の隙間はヤワいな。思ったより弱い」
おまけに動きが緩慢だ。
「こいつらつまんねー。さっさと済ませてパルミナの分を横取りしよう」
デカブツの硬そうな装甲をガリガリするのも悪くない。
そんな事を考えていると、ゴリラ機獣たちが統制の取れた動きを始めた。
「おほっ、ちょっとは頭を使う気になったんかいな?」
おしくらまんじゅうのような防御陣を組む気らしい。
次に来るのは、おそらく火器を使った範囲攻撃。
腕からマシンガン、口からビームなど、いろいろ考えられそうだ。
「でも遅い」
防御陣が完成した時、すでにランチュウは陣の中心へと
「やりたい放題じゃあ!」
背筋を切り裂いた時に、ゴリラ機獣の弱点がどこにあるのか、おおむね把握している。
あっという間に5体のゴリラが転がった。
「おややん?」
ゴリラの胴体だけが縦方向に回転する。
「変形⁉」
ひっくり返って尻から大型のガトリング砲が現れた。
他のゴリラたちも真似して変形を始めている。
「させっかよ!」
変形を終えたゴリラの背中を蹴って、尻の銃身を別のゴリラ(変形中)に突っ込むと爆発した。
「うっわ、やっべ~!」
まだ生き残っているゴリラを盾にして破片と爆風を防ぐ。
ついでに背中の弱点を突いておくのを忘れない。
「パルミナ、こいつら爆発するよ! どこにダメージ与えたら爆発すんのかアタシにゃわかんね~‼」
「たぶん心臓です。左寄りなので中心を裂けば問題ありません」
「おおっ、よく見てんねえ」
戦闘モードのパルミナは、観察力と解析能力まで上がっているらしい。
「案外頼りになるじゃん旧魔王……やっべーあいつら増えてやがる! これ以上はステージがもたねーぞ!」
次々と機獣のおかわりが発生し、ラスボスステージの容積がどんどん増えている。
機獣たちは壁や床を材料に発生しているため、現れた分だけ洞窟の強度が下がって行く。
「なんかメリメリ言ってるよ……パルミナ撤退だ! ここは逃げるよ!」
「どっちに?」
「上に決まってんじゃねーか!」
ランチュウに命じられたパルミナが、テイム機能によって、その意思とは無関係に翼を展開させる。
「急速上昇!」
「ええっ⁉ あっはいあれれれれ?」
混乱するパルミナは、混乱しながら浮遊能力で垂直離陸した。
すかさず飛びついてトゲトゲの巨大なシッポに掴まるランチュウ。
「火口から出ろ! あとの対処はそれから考える!」
「……吹き飛ばしますか?」
「その手があったな……山頂の穴だけブッ飛ばせる?」
「やってみます」
ファートン火山の上空に躍り出るパルミナとランチュウ。
岩にツメを立てて追って来たのか、クモ型機獣が噴火口から、わらわらと現れる。
「しっかり掴まってください!」
パルミナが飛びながら中段に構えると、魔王剣に何やらヤバそうな光が収束を始めた。
「いかにもエネルギー充填中って感じだねえ。技名とかある?」
「ありません」
「じゃあ見てから決めよう。総員、対ショック対閃光防御!」
ランチュウはストレージからサングラスを出して装着した。
「だから掴まってくださいってば~!」
その場で横回転を始めるパルミナ。
「おおっ? おおおおおおおおっ⁉」
回転速度がどんどん上がって行く。
「あっふぁ~~~~い!」
遠心力でシッポから振り落とされる。
だがランチュウはしかと見た。
回転する魔王剣から閃光と共にビームだか真空派だかを飛び出させ、山頂を爆散させるパルミナの雄姿を。
「グラサンしててよかったわ~」
「大変!」
落下するランチュウを見て、パルミナは慌てて翼を
「間に合わないよ~?」
「間に合わせます!」
パルミナはドカンと一発、音速を超えてランチュウを追う。
このタイミングでは、たとえ追いついても無事に着地できる保証はない。
「もう少し……もうちょっと‼」
ニュートン力学もとい物理演算エンジンに従って降下速度を上げるランチュウに、パルミナは必死に手を伸ばす。
「ほ~い♡」
地面に激突する寸前、ランチュウはジャンプの特殊入力で斜め上に飛び上がった。
「ええっ⁉」
パルミナは超音速で地面に激突した。
「わっほ~~~~い!」
衝撃波でぶっ飛ばされるランチュウ。
「よっほ、ほいっ、へいさ~」
いつの間に出したのか両手の短剣で渦流ドライバーを発動、急速離脱してから重心移動で岩の破片をクルクルヒラヒラと回避する。
「あいたたた……ちょいと喰らっちまったねえ」
ステータスをHPにまるで割り振っていないランチュウが痛いだけで済んだのだから、当たったのはダメージの小さい土くれか小石だったようである。
「おんやまあ、すっげー事になってんなあ」
魔王剣カッター(?)の影響で、周囲には一時的に大風が吹き荒れ、パルミナ衝突による土埃は、すでに風下へと流されている。
地面には巨大な穴が開いていた。
あまりの貫徹力にクレーターではなく大穴が開いていた。
魔王剣で吹き飛ばした火口よりも大きな穴が。
「王様の耳はロバの耳~……じゃなくて、パルミナたいじょぶか~い?」
穴に向かって大声で呼びかけるが返事はない。
「ただのしかばねになっちゃったかな?」
パルミナの頑丈さは身をもって知っているので、あまり心配はしていない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。
すると何やら地下から轟音と強烈な地響きが。
「やっべー、こりゃ噴火かいな?」
だが爆発は火口跡ではなく背後で起こった。
「ラ~ン~チュ~ウ~さ~ん?」
ようやく生まれたクレーターから、正確には土煙の中からムックリと現れるパルミナ。
どうやら魔王剣をドリルにして地中を掘り進んで来たらしい。
当然ながら土まみれである。
「跳べるなら早く言ってください!」
「そんなヒマなかったんよ」
ジャンプ入力のタイミングを少しでも誤ると、確実に死ぬるからである。
ヘスペリデスには特殊入力による2段ジャンプが存在し、落下中でも発動できるのだが、極めて高難易度で、咄嗟に出すのは称号持ちのランチュウでも難しい。
それが地面に激突する寸前ともなれば、なおさらである。
「でもアタシ、間に合わないって言ったよね?」
「それで理解できる人はいません! あのままじゃランチュウさんがミンチさんになると思ったから追いかけたんです!」
「さすがに新記録たあ行かなかったけどねえ……」
パルミナの小言を無視してランチュウは空を見上げた。
落下時の2段ジャンプ生還術は、妖怪級プレイヤーによる高度570メートルが最高記録とされている。
理論的には、どんな高度でも激突の回避は可能とされているが、挑戦者の大半が死に帰ったのは言うまでもない。
「よし次は成層圏にチャレンジだ」
ヘスペリデスの侵食エリアに高度限界がなければの話だが。
「ランチュウさん!」
「…………ごめんなさい」
さすがに謝った。
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